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短編小説

君を『消去』する方法

作者: うわの空

 散りかけた桜の木の下で、彼女きみは僕に言いました。



 私をころしてほしいの。

 心臓を止めるだけじゃなくて、『私』そのものをころしてほしいの。


 なかったことにしてほしいの。

 いなかったことにしてほしいの。



 ――けれどあなたは、しなないで。

 大好きだから。

 私の大好きなあなただけは、絶対にしなないでね。




 僕は考える。彼女の望みを叶えるために。

 彼女の望み。


 それは殺人ではなく、消去だ。

 彼女という人間そんざいの、消滅。

 となると、普通の方法じゃ無理だ。

 刺し殺しても、焼いても突き落としても、彼女の身体が残ってしまう。


 ――爆弾ならどうだろう。

 いや。きっと、肉片一つ残ることすら、彼女は許さないだろう。



 ……ああそうだ。

 彼女を消去するのなら、彼女と一緒に撮った写真も捨てなくちゃ。

 学校のアルバムも、皆燃やさなくちゃ。

 身体の一部でも写りこんでいるのなら、それは消さなくちゃ。

 消去するのなら、徹底的に消さなくちゃだめだ。



 そうだった。だとすれば、彼女の両親も殺さないと。

 だって彼女の両親は、彼女の存在を知っているもの。

 彼女の存在を知っている者がこの世にいたら、それは消去にならないから。

 クラスメートも、先生も、仲良しだった野良猫も、

 彼女の存在を知るものは、みんなみんな殺さなくちゃ。

 じゃなきゃ、消去にならない。






 ――待って。



 じゃあ僕は?

 彼女きみのことを愛している、僕は?

 そうだ僕も、僕ももちろん死ぬべきで、





『けれどあなたは、しなないで。

 大好きだから。

 私の大好きなあなただけは、絶対にしなないでね』





 ……君の望みを叶えるのなら、僕はどうすればいい?

 君のことを忘れて生きる? できる? そんな簡単に?



 もしも君のことを忘れてしまったとしても。



 それは、『君の大好きだった僕』なのだろうか。

 それは、『君の大好きだった僕』が生きていることになるのだろうか。




 僕は君のことが大好きで、

 君はそんな僕のことが大好きで、

 それじゃあ君のことを忘れてしまった僕は、誰になるんだ?




『君の存在が消えた世界で生きている僕』は、

『君の大好きだった僕』なのだろうか。


 





 ごめん、この問題の解き方が分からないんだ。

 答えを教えてくれないか。




 ちなみに僕の答えはね、 





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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公である『僕』の真剣さが伝わる、簡潔で良い文章だと思います 読者も一緒になって考える、疑問を投げかけるための小説 そんな感じなんですかね [気になる点] ずっと『僕』の思考…
[良い点]  シンプルで、綺麗な文体で、それでいて深い。  素晴らしい作品です。 [気になる点]  私個人の要望ですが、「なぜ、彼女は自らの消去を望んだのか」、その理由を軽くでも添えて欲しかったです。…
2012/05/08 17:42 退会済み
管理
[一言] この作品はすごいですね。 まず、ビックリもしましたが、最後の終わり方が独特。 そして、文学的な内面を含めた「君が望む君の消え方とは?」についての答えの導き方。最終的に、この作品でその答え…
感想一覧
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