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第44話  月影の毒牙



 甘美でいておどろおどろしい笑い声が辺りに響く。

 闇よりも闇色の空間が歪み、闇に溶け込むような魔王メフィストセレスが姿を現す。


「魔王――」


 漆黒の髪は以前姿を見た時よりも長くからまり、後ろの闇と同化している。二十代後半くらいに見えた優美な表は、いまや殺戮者のような残忍で凶悪な表情に変わっていた。


「馴れ合いはすんだか……」


 甘く優美なその声だけが異質な姿に、ティアナは背中に嫌な汗が伝うのを感じて無意識に手に力を入れて握りしめていた。


「すんだならば、至宝を渡してもらおうか?」


 暗く凶悪な瞳でまっすぐに見据えられたティアナは、体がすくんでしまう。とてつもない威圧感に、魔王に意識を乗っ取られそうになる。

 すっと、魔王の視線を遮るようにティアナの前に出てきた光の王ユーリウスは、弱弱しい表情で片割れの王に訴えかける。


「メフィストセレス、もうやめにしましょう」

「……なんだ、ユーリウス、まだしぶとく生き残っていたか」

「私がいなくなれば、あなただってここでは存在することはできないのですよ?」

「それはどうかな?」


 にやりと口角を上げ、不敵な笑みを浮かべるメフィストセレスをユーリウスは悲しげな瞳で見上げる。


「光と闇は二つで一つの存在。光があるから闇は存在し、闇が存在するから光は存在するのです。世界の均衡が崩れた今こと、我らが力を合わせて――っ」


 切々と語りかけるユーリウスにメフィストセレスはその言葉を遮り、忌々しげに吐き捨てる。


「そんなもの、いまさら無理だとユーリウス、お前が一番分かっているのだろう?」


 冷めた瞳、憎しみ満ちた表情のメフィストセレスに、ユーリウスはふるふると必死に首を左右にふる。


「そんなことは――っ」


 ない――そう言おうとした言葉すら、メフィストセレスの一睨みで掻き消える。儚い後姿が揺れて、一層消えてしまいそうな姿に、ティアナははらはらしながら見守ることしかできない。


「まあ、よい。お前がどんなにあがこうと、そこの出来損ないの混血児が策を巡ろうと、たかが人間どもにはこの世界を守ることもできない」

「そんなことは……」


 再び否定しようとしたユーリウスの言葉は、最後まで続かなかった。


「あるのだよ。いくら至宝を集めようと、八つすべて揃わなければ意味がないのはそちらも承知だろう。さあ、分かっているのなら私にすべての至宝を渡してもらおうか?」


 悠然と語るメフィストセレスに、それまで黙っていたルードウィヒが口をはさむ。


「そう言われて、大人しく差し出すとでも思っているのか?」


 メフィストセレスはルードウィヒを一瞥する。たかが魔法使い、混血児――と蔑み見下す視線を投げかけて、すぐに視線をティアナに向ける。

 ルードウィヒは相手にされないことにギリッと歯をかみしめるが、魔王の視線を追ってティアナに視線を向ける。

 メフィストセレスにまっすぐに見据えられたティアナは、すっと姿勢を正し、一度小さく呼吸をすると、口を開いた。


「魔王、あなたに至宝を渡すことはできません。簡単に差し出せるのならば、初めから至宝を探し求めたりなどいたしません。すべて揃え、世界の均衡を取り戻すとおっしゃるのなら別ですが?」


 渡さない――

 目的が同じなら、渡してください。そう言ったティアナを、メフィストセレスは面白い物でも見るようにわずかに片目を見開き、くつくつと不敵な笑いをもらす。


「まあ、よいだろう。頑固な娘も悪くない。恐れを知らぬ娘に、一ついいことを教えてやろう――」


 そう言ったメフィストセレスはにぃっと口角をつり上げる。その禍々しい笑みに、嫌な予感がしてティアナはわずかに眉根を寄せる。


「木、土、そして闇の至宝は確かに私が持っている。だが、正確に言うのならば、持っているのは私ではない」

「それは、どういう意味ですか……?」


 意味深な言葉に、ティアナは問いかける。


「とある器に埋め込んだのよ。私とわかつ魔王の血を引き、そして忌まわしき人間の血を引く器にな――」


 クツクツと笑って言うメフィストセレスの言葉に、ティアナだけでなくその場の全員の視線が瞬時にルードウィヒに向けられる。


「まさか……」


 そうつぶやいたユーリウスの顔は青白く、今にも消えてしまいそうな儚さだ。


「そのまさかだ」


 ユーリウスの思考を読んだように、メフィストセレスは不敵な笑みを浮かべる。


「器を壊さなければ、中に隠した至宝は取り出せぬ。器を壊せば、中に宿る魂は次の旅へと旅立つことになる」


 その言葉に、ティアナは一層眉根を寄せて魔王を見つめる。


「至宝を諦めるか、混血児の命を絶つか。選択肢は二つに一つ、さあどうする――」




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