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第37話  ふたつでひとつ



 もともとそのつもりだったし、魔界がどんなところなのか興味はある。

 事前に、ジークベルトから魔界がどんなものなのか聞いてはいるし、普通の人間では魔界に長い時間留まることができないとも聞いている。それを聞いて、余計にどんな場所なのか好奇心を駆り立てられたことはジークベルトには黙っていたけれど。

 それになによりも。

 すべて揃わないと意味がないから。世界が闇に包まれてしまった今、世界を救うことができる一縷の望みは世界の鍵だけ。その世界の鍵が、八つすべて揃わないと効力を発揮しない。だから、闇の鍵と木の鍵が魔界にあると聞いた時から、いずれは魔界に行くことになるのはわかっていて、覚悟もしていた。

 本当はもうちょっと後で、もっといろいろ準備をしたりしてからのはずだった。それが少し早まって、今になっただけ。

 ティアナはきゅっと強く唇を引き結びと、ダミアン、ユリアン、ジーナ、エーリカ、レオンハルト、ダリオ、それからジークベルトへと順番に視線を向け、決意に満ちた翠の瞳をきらめかせる。


「魔界へ、行きます」


 ティアナが言った言葉に、みなの表情が一瞬強張る。

 誰かが口を開くよりも先に、ジークベルトがつっと口の端を持ち上げて皮肉気な笑みを浮かべて、わしゃわしゃっとティアナの頭をなでる。


「それは俺のセリフだろ。一人で行くつもりか?」


 重く沈んだ雰囲気を明るくするために、あまり冗談が得意でないジークベルトがわざと言っていると分かって、ティアナは目元をくしゃっと細めて笑う。


「もちろん、ジークは一緒に来てくれるんでしょう?」

「当り前だろう」


 国守の魔女マグダレーナに同じく師事していた兄弟弟子のジークベルト。兄と同い年で、小さい頃は不真面目で愛想のないジークベルトが苦手だった。でも、どこかに行くときはいつも一緒だった。執務で城を開けることが多い兄よりも、兄のように近しい存在のジークベルト。初めて城を出た時から、ずっとそばにいてくれる、最強の相棒。


「俺は側にいてやれないエリクの代わりなんだから。お前を甘やかして、守るのは俺の役目なんだよ」


 遠い昔、マグダレーナにジークベルトを見守るようにお願いされたことを思い出して、懐かしさに微笑する。

 守るのは私の役目でもあるんだけどなぁ、そう思ってもティアナは口にはしない。


「私も一緒に行かせてください!」

「魔界に私も行くぞ!」


 視線で会話をしているティアナをジークベルトの間に割り込むように、レオンハルトとダリオが魔界行きの同行を願い出る。


「えっと……」


 自分ですら魔界に行くのは足手まといになるのではないかと心配していたティアナは、返答に困ってジークベルトに視線を向ける。

 もちろん、その行動に、レオンハルトが僅かに眉尻を下げたことも、ダリオが氷の瞳でジークベルトを睨み付けたこともティアナは気付いていない。


「いいんじゃないですか。まっ、役に立たなくても文句はいいませんよ」


 そう答えたジークベルトは、ティアナではなくレオンハルトとダリオに勝気な視線を向ける。

 レオンハルトとダリオがティアナに執心なのは態度を見れば分かってしまう。きっと気づいていないのはティアナだけなのだろうなと、エリダヌスへの道中、二人に同情する場面を何度も見てきたジークベルトだが、だからといってティアナに向ける気持ちを許しているわけではない。

 兄代わりと言いながら、しっかり本物の兄以上にティアナに言い寄る虫を払うことに余念がない。



  ※



「行かれるのですね」


 表情の乏しいユリアンの瞳が僅かに憂いに揺れ、尋ねられてティアナは小さく頷く。

自分が魔界に行って、どれほどのことができるのか分からないが、行かないという選択肢はティアナにはない。

 世界の鍵を探すことを決めた時から危険なんて百も承知。自分にできることがあるなら、最後まで足掻く。もう手も足も動かせないってなるまで、絶望したりしない。

 揺らがない決意に満ちた翠の瞳は澄んでいて、気品にあふれている。まるで、光に包まれているようなティアナをユリアンは眩しそうに目を細めてみつめる。



「長老……、若長……」


 悲しみと疲労の色を浮かべた声が、ダミアンとそばにいるユリアンにかけられる。

 いつの間にか魔法使いと魔女たちは身を寄せ合うようにダミアンとユリアンのそばに集まり、これからの身の振り方を仰ぐような眼差しを向ける。

 ダミアン、それから魔法使いたちに視線を向けたユリアンは、ほとんど感情の現れない表情にすっと強い輝きをきらめかせる。


「みなも感じたと思うが、光の王の気配が消え、世界は闇に支配されつつあります。しかし、動揺してはなりません、世界の均衡が破れた今、闇に支配されてしまえば世界は完全に終焉を迎えてしまう。世界は闇と光、その二つがあってこそ均衡が保たれるのです。今こそ、我ら魔法使い魔女が力を合わせる時です。平常心を保ち、我々にできる最善を尽くしましょう」


 ユリアンの静かな声音に、気力を失っていた魔法使い達が熱気に満ちた声をあげたる。

 ちらっとティアナに目配せをしたユリアン。


「大丈夫です、私達は私達のできる最善を尽くしましょう。あなた様が無事に世界の鍵を手に入れることを願っております」



 ユリアンを筆頭に、風の鍵を守護する魔法使い達に見送られたティアナ達は、案内役を買ってでてくれたジーナとエーリカの姉妹魔女に案内されて、いざ魔界へ――




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