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ビュ=レメンの舞踏会 ―さいごの契約―  作者: 滝沢美月
第4章  世界をわたる風
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第24話  それぞれの想い



 世界の鍵を探す旅にまさかの同行者が増え、ティアナはジークベルト、レオンハルト、ダリオの四人でエリダヌスを目指すこととなった。

 ティアナが世界の鍵を探すのは民を守る王族としての役目であり義務感からと、ルードウィヒの真実を知りたいと思っているからでもあった。成り行きで時と火の鍵を所持し、この旅から降りることはできないが、そのこと自体、ティアナには考えもしない選択肢だった。

 だから、レオンハルトが旅の同行を願い出た時は、自分と同じ王族としての誇りを持って名乗りをあげてくれたのだろうとすぐに分かった。それならば断ることなどできるはずがない。

 そこにまさか、ダリオまで加わるとは思いもしていなかったが……

 自分を心配してロ国から駆けつけてくれたダリオの優しさはとても心強かった。

 そんなことを考えながら、愛馬の首を優しくなでていたティアナは、その隣でレオンハルトとダリオが静かに火花を散らしていることになど、気づいていなかった。



  ※



 一方、ジークベルトは複雑な気持ちで横を見やる。隣では愛馬に鞍をつけるレオンハルトとダリオの周りを火花が飛び散り、そのさらに奥では、そんな様子にこれっぽっちも気づいていないティアナが馬の首を愛しげに撫でている。

 不測の事態が起る可能性を考えて頭数は多いにこしたことはないが、いかんせん王族の二人、しかもどちらも魔法関係には縁がないということに心もとなく感じ、気づかれないように小さなため息をもらした。

 まぁ、北の魔森んときみたいに、いきなり魔物が襲ってくるってこともないだろうから……大丈夫……だよな……?



  ※



 せっせと馬に鞍をつけ、かいがいしく馬の毛並みを整えているティアナを見て、レオンハルトは感嘆と一緒に言葉にする。


「ティアナ様が馬に乗れるなんて驚きました」

「ええっと……そうですか?」


 話しかけられたティアナは、レオンハルトの更に後ろから視線を感じて振り仰ぎ、ジークベルトの視線だと気がついてあいまいに返事をする。

 はじめてイーザ国を出てビュ=レメンまで旅をした時は徒歩だったし、西の丘に連れて行ってもらった時はレオンハルトの馬に乗せてもらい、イーザ国への帰り道は馬車で送ってもらった。

 だから、隠していたわけではなく、たまたま言う機会がなかっただけなのだが……

馬に乗れるだなんて、おてんばと思われたかしら……

 かぁーっと自分でも顔が赤くなるのが分かって、ティアナは頬を両手で包んでわずかに俯く。

 今回ドルデスハンテを訪れた時は一刻を争い時間が惜しかったため、ジークベルトとティアナはそれぞれ単騎、愛馬を駆ってきた。知られないにこしたことはなかったけど、故意に隠していたわけではないしやむなしとして愛馬に乗ってきていた。

 だから、エリダヌスに行くのにも愛馬と共に行くつもりだったが、ここでレオンハルトにばれてしまうとは思わず、恥ずかしさに穴があれば入りたいくらいだった。


「イーザ国では女性も王族のたしなみとして騎馬の練習をなさるのですね。わが国では女性の騎士もいますが、まだまだめずらしいので」


 感心したように言うレオンハルトの言葉に、ティアナは内心複雑な思いで、あいまいに頷く。


「ええ……」


 そんなお上品な理由じゃないのですけど……


「すごいな、ロ国では女は基本外に出ることを禁じられているからな。馬に乗りたいなどと言えばちょっとした騒ぎだ。だが、お前の騎馬の姿はさぞ凛々しいのだろう。その姿を見るのが楽しみだ」


 ふふっと妖艶な笑みを浮かべたダリオに、ティアナは苦笑する。

 なんだろう……、褒め言葉なんだろうけど、素直に嬉しいと思えないのは……

 ティアナは複雑な気持ちで、手だけはせっせと馬の毛並みを整えていく。

 でも、おてんばって思われないだけいいかしら。どうして馬に乗るようになったかなんて……

 そこまで考えて、ティアナは勢いよく首を左右に振る。言わなくてもいいわよね。そう思ったのに。

 ふっと、甘く不敵な笑い声が聞こえて顔をあげると、馬越しにジークベルトの水色の瞳と視線が交わる。

 いま、鼻で笑った!?


「王族のたしなみなんて大層なことじゃありませんよ。ティアは、俺とティアの兄さんが遠駆けするのについていきたいがために、教師を脅して馬の練習をしたのさ」


 今度ははっきりと、ふんっと鼻で笑った声が聞こえ、ティアナはあまりの衝撃に目を大きく見開く。


「脅しただなんて、そんな人聞きの悪い言い方はやめてよねっ!」


 真っ赤な顔で否定するティアナに、ジークベルトはにやりと意地悪な笑みを浮かべる。


「教えなければ解雇、って脅したんだろ」

「うぅ……」


 そんなふうには言ってはいないが、直訳すればそのような内容のことを言ったのは事実で、ティアナはぐうの音も出ない。


「そんなんだから、舞踏会の招待状が届いた時も、王様に塔に閉じ込められたんだろうが……」


 はぁーっと呆れたようなため息をつくとともに、すでに厩から黒鹿毛の愛馬を引きだしたジークベルトはひらりと馬に跨り、この上なく意地悪にくすりと笑う。

 兄のような存在でありライバルのようなジークベルト。

 言い返す言葉も出なくて、でもジークベルトに言い任されたのが悔しくて、ジークベルトを睨みつけていたティアナは、横から憐れむような視線を感じてはっとする。

 ティアナとはじめて出会った時のことを思い出し、まさかそんな理由で塔にいたとは思いもよらなかったレオンハルトは苦笑いを浮かべ、ティアナのおてんばぶりを垣間見たダリオは可笑しさに氷の瞳を大きく見開いてくっと笑いをかみ殺すようにして口元を手で覆い、馬にまたがった。

 ティアナは恥ずかしさに服の裾をぎゅっと握りしめる。このままどこかに逃げだしてしまいたい気分だったけど、俯いて顔を隠すことでその衝動をどうにか押さえ、馬を引き出しすでに騎乗の三人に近づく。

 これから重大な旅に出るというのに、緊張感をぶち壊しにしたジークベルトを軽く睨むが、くすりと意地悪な笑みを浮かべられてぷいっと横を向く。

 その様子を見て、ジークベルトは口元に優しい笑みを浮かべた。

 からかわれたことに気づいていないティアナを可愛いと思い、それと同時に、これからの旅の無事と、何事もなくすべての“世界の鍵”が揃うことを願った――




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