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第16話  疑念



 ヘンリーの言葉で、“世界の鍵”を探すことで世界を救うことが出来ると確信を得たティアナは安堵の笑みをもらす。


「存在する“世界の鍵”は八つだぁ」

「木、火、土、風、水、光、闇、時――それぞれの力の源となる宝珠ですわぁ」

「ええ、そこまでは、恩師の手記から分かっています」

「時の鍵は時空石――ティアナの駒だぁ」


 ヘンリーの言葉と共に時空石のことを考えたティアナの胸元に翠を帯びた光が瞬き、辺りが虹色の光が輝いて、淡翠色の瓢箪型の石が宙にこつぜんと現れ、吸い込まれるようにティアナの手元に落ちていった。


「時空石――」


 一度、目にしたことがあるレオンハルトがつぶやき、ヘンリーの言葉を引き継いでメアリアが口を開く。


「光の鍵は光の王が、闇の鍵は闇の王が持っていると言われてますけどぉ、闇の鍵はおそらく魔界に生えている月影石ですわぁ」

「月影石――?」

「黒く、まがまがしい輝きを放ち、魔界の全エネルギーの源ですのぉ。その核となるものを魔王が持っているはずですわぁ」

「風の鍵は人間界のどこかの魔法使い達が守っていると聞いたことがあるさぁ。それから……」


 そこで言葉を切ったヘンリーは苦痛に満ちた表情できゅっと口をつぐみ、掠れた声で続ける。


「火の鍵はあいつ(・・・)が持っているはずだぁ……、光の王の加護を受ける火の神があいつを気に入って、とか聞いたはずさぁ……」


 語尾はぼそぼそと喋ってよく聞き取れなかったが、ティアナにはヘンリーが誰のことを“あいつ”と言ったのかすぐに理解した。

 この土地で、火の力を誰よりも意のままに操っていた人物は一人しかいない――

 ルードウィヒ……

 彼のことを思い出したティアナは、胸にちりちりと焦げるような痛みを覚えて、考えるよりも先に口が開いていた。


「…………っ」


 言葉にしようとしたものは喉の奥に絡みつく。ルードウィヒについて聞こうと思ったが、「次に会う時は――」そう言い残したルードウィヒの不敵な笑みを思い出して、声にはならなかった。


「ありがとう、ヘンリー、メアリア。あなた達のおかげで“世界の鍵”の手がかりを得られました。必ず探し出してみるわ――」


 ティアナは胸元の衣服を皺になるほど強くつかみ、決意のこもった瞳をまっすぐにあげる。



  ※



 一方――ティアナとレオンハルトが北欧の森で二匹の守護妖精に出会った頃、城に残ったジークベルトは血の気の失せた顔で、一冊の本と一枚の紙片を見比べていた。

 本当はこの日、ティアナと北欧の森に行く予定だったジークベルトは、世界の鍵の一つである時空石を守る妖精に会ってみたいと言ったレオンハルトにティアナを任せ、ジークベルトは王城に残っていた。どうしても気になることがあって、それを確かめずにはいられなかったから――

 約二ヵ月前、王城で華やかな舞踏会が開かれている裏で、森の魔法使いルードウィヒがティアナの胸に刻んだ契約の刻印を読み解いたジークベルトだったが、イーザ国でニクラウスの手紙を受け取ってから、違和感を覚えて頭を悩ませていた。何かが食い違っているように感じてしようがなかった。それはほんの小さなことだが、ジークベルトの頭から離れず、もやもやとした塊が胸に凝っていた。

 ジークベルトはカーテンを閉め切った薄暗い室内、わずかな明かりだけの中で目を凝らし、本と紙片を見比べて、ある部分を見た瞬間、はっと息を飲みこんだ。

 次の瞬間には部屋を飛び出し、ティアナの客室にもつながるメインサロンを抜け廊下を駆けて、王城の南側の尖塔を目指した。

 それはとんでもない誤り――


“汝、我の助けを求めん時、我の力を欲する時、メフィストセレスの加護と権威を持って、すべての願いを叶えるだろう。すべてが叶った時、代償として汝の血とティルラの記憶をすべてルードウィヒの物と契約す”


 これは刻印が刻まれてすぐに書き写した契約の内容。しかし、メフィストセレスが世界終焉伝説にでてくる“闇の王”であり、混血の皇子であるルードウィヒの父はユーリウスと言う名のかつて“光の王”と呼ばれた魔王だった。

 何かがおかしいとジークベルトの頭に警鐘のように鳴り続けていた違和感の正体は、ニクラウスの話を聞いてすべてが明らかになった。

 メフィストセレスの加護――という内容から、ルードウィヒは魔法使いとしてメフィストセレスの恩恵を受け、それは二人が親子だからだと思っていた。だが、その推測は誤りだった。ルードウィヒの父は“光の王”であり、“闇の王”のメフィストセレスの加護を受けているとは考えにくい。それならが、解釈が間違っているが、書き写した契約が間違っているのだろうと思った。

 そう考えたジークベルトは、ティアナが北欧の森へ向かう前に、もう一度、胸の契約の刻印を見せてもらったが、以前書き写した刻印とどこも違いはなかった。

 書き写したものに間違いがなければ、解釈が間違っていると考えるしかない。

 刻印に書かれた文字は遥か古の時代に使われていた魔法文字アンスール文字。その種類は多く、組み合わせによって意味が異なる(・・・)

ジークベルトはすぐに古文書を引っ張り出し、書き出して契約と本とを見比べて、解釈の違いに気づいたのだった。




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