表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/54

第14話  世界の鍵 1



「時空石がその“世界を生み出し自然の根源たる八つの宝珠”の一つなの――?」

「ああ、間違いないだろう。考えてもみろ、旧ホードランド国は時空石を守るための魔法使いがいて、光の王の恩恵も受けている」


 光の王の恩恵――それは魔王と王妹の間に生まれた混血の皇子、ルードウィヒ。


「北欧の森であのちんちくりんの自称妖精が言ってただろ、時空石は時の神の一部だと。八宝珠の一つは時の力だ――符号は一致する」

「他は……」

「木、火、土、風、水、光、闇――だ」


 ジークベルトは懐から取り出したマグダレーナの手記を広げて、とんっと指をさす。


「光はおそらく光の王が、闇は闇の王が持っているだろう。まずそれ以外の五つを集めて行くのがてっとり早いだろうな」

「ねえ、闇の王も同じことを考えていないかしら……?」


 根拠はなかったがそんな予感に襲われて、ティアナは重たい口調で言う。


「おそらくな」


 ジークベルトは慎重に頷き、手記を閉じる。


「闇の王に対抗できるのがこの八つの宝珠なら、必死になって探すはずだ。世界の源たる八つの宝珠――“世界の鍵”をなんとしても、見つけないと……」

「行くわ――」


 決意のこもった声で言ったティアナを、ジークベルトはやりきれないような表情で見つめる。


「危険だぞ……」

「危険でも、このままなにもしないでいるよりも少しでも可能性があるなら――行かないなんて選択肢はないでしょう?」


 くすっと笑ったティアナの瞳にはゆるぎない決意がきらめく。その強い輝きにジークベルトは息を飲み、はぁーっと肩で息を吐く。


「ティアならそう言うと思っていた。ティアが行くなら俺も行くしかないよな」


 にやっと不敵な笑みを浮かべたジークベルトにティアナは笑い返し、とんっと机に肘をついてその上に顔を傾けて乗せる。


「私も、ジークベルトならそう言ってくれると思っていたわ」

「安心しろ、いくら俺でも無謀な賭けにはでない。レーナの記述は信頼が置けるし、俺にもいくつか当てがある。旧ホードランド国の民が“世界の鍵”の一つの時空石を守護していたように、他の鍵にも守護者がいるはずだ。知人の魔法使いに手紙を出したから返事待ちだ」


 お互いに決意の籠った瞳を見かわし、頷き合う。それから、レオンハルトとニクラウスにこの話をするために、ニクラウスの部屋へと向かった。



  ※



「そうか、“世界の鍵”を探しに行くのじゃな――」


 張りつめた面持ちでつぶやいたニクラウスに、ティアナは笑いかける。


「いま出来る最善をつくそうと思います」

「うむ。わしも力になろう」

「ティアナ様、私も“世界の鍵”を探す旅に同行させてください」

「レオンハルト様――!? そんな、危険です……」


 大国ドルデスハンテの王子が旅に同行するなんて――

 ティアナはソファーの隣に座るレオンハルトに体ごと向けて、青ざめた顔で首を振る。

 レオンハルトは群青色の瞳に真剣な光を強くきらめかせる。


「危険だからといって逃げるわけにはまいりません。私はドルデスハンテ国第一王子として国と民を守る、世界の危機に直面している今だからこそ王族の義務を果たすべきなのです。各国との条約体勢は整いました、あとは側近にまかせ、世界を救う希望があるのなら、それに賭けます」


 王族として――その気持ちに一片の偽りもないが、レオンハルトは胸に熱く燃える気持ちが膨れ上がり、きゅっと喉の奥が苦しくなる。

 各地で起る異常気象の解決策を見つけ、民が安心して生活できるようになり、すべてが片付いた時――ティアナにずっと胸に秘めてきた想いを伝えようと決めていた。

 いつも助けられてばかりで気後れしていることも、自分のせいで魔法使いに刻印を押された後ろめたさも、そんな気持ちをすべて拭い去って、本当の気持ちを――

 そのために、どんな危険が待ち受けていようと“世界の鍵”を探しに行くことに迷いはなかった。

 強い志を宿した瞳で見つめられ、ティアナは胸に熱いものが込み上げてくる。

 レオンハルトもティアナ同様、王族として最善を尽くそうとしている――


「わかりました、レオンハルト様も“世界の鍵”探しにご協力ください。いいわよね? ジークベルト」


 ソファーの後ろに立つジークベルトに視線を向けてティアナは尋ね、ジークベルトは不敵な笑みを浮かべる。


「ああ、ティアがいいなら俺は構わない」

「レオンよ、しっかり“世界の鍵”を手に入れてくるのじゃ」


 もこもこと生えた白髪の髭をなでながら、ニクラウスは命運を託すように告げた。


「各地にいる魔法使いに手紙を書き、“世界の鍵”を守護する国または部族、あるいは魔法使いがいないかどうか情報を集めている。情報が入り次第、鍵を片っ端から手に入れるぞ。とりあえずティアと俺は北欧の森へ行き、時空石を取ってくるから、レオンハルト王子には待機しててもらう」


 時空石――旧ホードランド国の民が守護し、今は北欧の森の奥深くに眠る、持つ者に時を自在に操り移動する力を与える石。

 ティアナは時空の裂け目に触れて時を遡ったレオンハルトを助けるために時空石の試練を乗り越え、時空石に選ばれて主と認められた。

 時空石の力を借りたい時は強く心に念じればいいと言われていたから、わざわざ北欧の森まで行く必要はないが、ティアナはヘンリーとメアリアにも話を聞きたいと思っていたから、北欧の森に行くことをジークベルトに提案した。




いつも読んでいただきありがとうございます。

『ビュ=レメンの舞踏会』シリーズ、第1話を連載したから1年が経ちました。

こんなに長い期間をかけて書くことになるとは思ってもいませんでした。

たくさんの読者様に支えられて、ここまで来れたと思います。

完結まで、もう少し時間がかかるとは思いますが、どうぞ最後までお付き合いください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ランキングに参加しています。ぽちっと押して頂けると嬉しいです!
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ