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第13話  探す者、求める者



 ルードウィヒが去ってから少しして、手紙の準備を頼んだ女官が戻ってきた。

 もしかしたらルードウィヒが魔法か何かをかけて、部屋に誰も近づけないようにしていたのかもしれない。それほどタイミング良く女官が現れて、ティアナは動揺を悟られないようにすることに必死だった。

 ルードウィヒが言い残した謎の言葉が胸にもやもやと渦まいて、とても手紙など書く気分ではなかったが、なるべく急いだ方がいいだろうと筆をとり、一通の手紙を書きあげた。



  ※



 翌朝、目覚めたティアナは室内の静けさに違和感を覚えながらベッドから降り、女官に手伝われて着替えをすます。

 ジークベルトの部屋とつながるメインサロンに出ると、中央の円卓の上にはすでに朝食の準備がされていたが、ジークベルトの姿はなかった。

 昨夜、森の魔法使いルードウィヒに会いに行くのは今日にしようと言ってニクラウスの部屋で別れたが、会いに行く前にルードウィヒはティアナの前に姿を現した。

 ルードウィヒが残した言葉の真意は分からないが、なんとなく“次に会う時”というのは今日ではない気がして、今、バノーファの街の砦の森に行っても、ルードウィヒには会えない気がした。

 そのことを早くジークベルトに伝えたかったが、ジークベルトの姿が見えないことに焦りを感じる。

 どうしたのかしら……?


「私の連れはまだ寝ているのですか?」


 ティアナが女官に尋ねると、女官は居住まいを正して答える。


「ジークベルト様は、ただいまお着替え中でございます」


 女官は言い、椅子を引いて私に席に座るように促し、一礼して部屋を出ていった。それと入れ違いに、扉が開いてジークベルトが袖のボタンを留めながら出てきた。

 金縁と金ボタンがまばゆい紺のジャケットを身にまとったジークベルトの姿に、驚いて目を瞬いてぽかんと見つめてしまう。

 いつも黒を好んで身にまとっているから、ジークベルトらしくないというか、まるでどこかの王子様みたいな装いに呆然とする。

 あまりにじぃーっと身すぎていたせいだろうか、ジークベルトは眉根を寄せる。


「似合わないか――?」

「いいえ、似合っているけど、ジークっぽくないわ。どうしたの?」

「慌てて出てきたから、着替えをあまり持ってきていないと言ったら、ニクラウス殿が若い頃にきていた服を下さったんだ」

「まあ……」


 ティアナは可愛らしい仕草で口元に両手を当てて、くすりと笑う。

 世界の崩壊の危機とか緊迫した状況だからこそ、こんななんでもないような変化が胸をくすぐる。


「素敵よ、ジークベルト」


 くすくす笑うティアナに、決まり悪そうに目元を染めたジークベルトは朝食の席へと座り、朝食を食べ始めた。

 ティアナはパンとスープとサラダを半分ほど食べてから、話を切り出した。


「ジークベルト、昨夜、ルードウィヒがやってきたのよ」

「――っ!?」


 カツンっと食器が当たる音が響いて、ジークベルトが緊迫した表情でティアナを見る。


「大丈夫、なにもされていないわ。ただ……様子がおかしかったわ」

「おかしい? なにか感じたのか?」


 ジークベルトは訝しんだ表情でティアナを見つめ、スープをすくっていたスプーンをそわそわと動かす。


「ピアスを見せたのに見向きもしなかったの。そう、まるで興味がないように――」


 それだけではなかった。ルードウィヒの瞳は、復讐の炎も悲憤の炎も燃えてはおらず、何かを拒むように翠よりの黒い瞳は陰っていた。

 記憶を失ってロ国にいる私の前に何度も現れてはピアスを探していると言ったのに、ちらっと見ただけだった。

 ティアナは言い知れぬ不安に胸が騒いで、胸に手を当てる。ビリビリッと燃えるような痛みを感じて、そこにあるはずの印をそっと撫でる。


「ルードウィヒが姿を消す前に、“次に会う時は、契約をする時だ”って言っていたわ――なにか、恐ろしいことが起きようとしている気がして、胸がざわついて落ち着かないの……」


 語尾がかき消えて、すがるように頼りなげな声をもらす。


「次に会う時、か――」


 ジークベルトがつぶやき、顎に手を当てる。

 昨晩、ティアナと別れてニクラウスの部屋に残ったジークベルトは、持ってきていたマグダレーナの手記をニクラウスと二人で夜が明けるまで読み説いていた。部屋に戻ってきたのはついさっきで、着替えだけ済ませてサロンに出てきたのだった。


「ティアナ、実はな、レーナの書き残した日記からいくつか手がかりになりそうなことを見つけたんだ――」


 そう言って、ジークベルトは昨夜のことを話しだした。



  ※



 魔法使いの間では有名な世界終焉伝説は魔法使いのいないドルデスハンテ国ではその伝説を知る者はいない。だが探究心旺盛なニクラウスは、ルードウィヒの講義の中にほんの少し出てきたその伝説に興味を持ち、独自に知り合った魔法使い達から資料や文献を集めたりして、長年研究を続けていた一人であった。

 二界の均衡が崩れ始めていることを知り、慌ててイーザ国王と話しドルデスハンテにかけてきたため、読む時間がなく持ってきたマグダレーナが伝説について書き遺した手記を、睡眠を取らずに読み解いた。

 伝説に興味を持っていたニクラウスもマグダレーナの手記を読み、その中に、興味深い記述を見つける。


『世界を生み出し自然の根源たる八つの宝珠』


 この世に存在するものすべての根源――木、火、土、風、水、光、闇、時。この八つはそれぞれ力の源とする媒体があり、八つの宝珠が世界の均衡を保っている。

 宝珠は、あるときは時の権力者や魔法使いが持ち、あるときは自然に溶け込むように存在する。

 その行方は知れず、世界に散らばっているともいう。そして、光の王と闇の王の力の源もこの宝珠だという。

 つまり、二人の王のうちどちらかが欠け、世界の均衡が崩れようとも、八つの宝珠がすべて揃えば、世界の均衡を保つことが出来る――のではないかと、マグダレーナの手記には書かれていた。

 これはあくまでマグダレーナの研究結果の考察であり、確信が持てるものではない。だが、同じく伝説について調べていたニクラウスも、八つの宝珠については知っていると言った。

 その一つが、時空石だと――




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