目玉焼き
つやつやの白身に、ぷっくりと丸い黄身。
がぶっと齧り付いて、あっという間に食べて仕舞う。黄身が口の中でほろほろと舞って美味しい。
あー、もう終わっちゃった。
私は毎日食べるほど目玉焼きが大好きだ。完熟しか食べられないけれど。
「ごちそうさまでした。」
「かなた、もう出発する時間じゃない?」
「あ、ホントだ!」
少し焦りながら食器を片付け、玄関に置いておいた鞄を手に取る。
「行ってきまーす」
私は少し曇り気味の明るい世界へと飛び出した。
――――
「御早う御座います、今日も元気に明るく頑張りましょう。今日の予定をお伝えします。今日は―」
学校で淡々とした放送が流れる。この中学校では、毎朝予定を伝える放送があるのだ。
私は放送には全く耳を傾けず廊下をダッシュする。
ガラガラッ。
「おはよ!」
「あ、かなたおはよ〜」
教室の扉を開けるとクラスの女子達が既に来ていた。
鞄の中から教科書を取り出す。
「かなた、また男子振ったってじゃーん。もう何回目??」
からかうように女子が私に話す。
「え〜、もう数えてない!」
「ナニソレ、ヤバ」
あはは、と女子達が笑う。
あは、と私も笑う。
笑い声が宙に浮かんで消える。
いつも笑い声は消えるのに、何故か女子達が言ったことは頭の中にこびりつく。不思議だ。
早くホームルーム始まんないかな。
――――
キーンコーンカーンコーン
授業終わりのチャイムが鳴る。
ちら、と予定表を確認。次の授業は移動教室か。
「かなたー!一緒に行こーぜ」
授業に持っていく物を整理していたら、クラスの男子が私に声をかけた。
「おー!行こ行こ」
授業に必要な物を持って、二人で廊下へ出る。
廊下を少し歩くと、ふと男子が立ち止まった。
「どうした?大丈夫?」
と言いながらちら、と顔を見るが、俯いていて表情は分からない。
少しの沈黙の後、俯きながら男子は口を開いた。
「あの、。かなた。」
「ん?」
声から緊張していることが解る。
これは、私の返答を怖がっている声だ。
「放課後、一緒に帰ってくんね?」
私は「あ、でも」と首を少し傾げる。
「私と帰り道反対じゃなかったっけ?」
私が通っている中学校は、在籍している生徒数が他と比べて多いので、家や帰り道がバラバラなことが多い。
稀に遠い所から自転車で来る生徒もいる。私は見たことないが。
「私帰り道下るんだけど…」
「あー」
男子はわたわたと焦りながら弁明し始めた。怒ってるわけじゃないのに必死だな。
「否、階段下ったところの横断歩道迄でいいからさ、」
確かに横断歩道迄なら同じ帰り道だった筈だ。
「うん、いいよ」
二つ返事で承諾すると、男子は少し安堵した様子で「ありがとう」と言った。
――――
放課後。
少し曇り気味の空の下、男子と一緒に帰る。
数時間後に雨が降りそうな天気だ。
「最近映画鑑賞にハマっててさー、」
「うん」
「饅頭って美味しくね?」
「うん」
……返事が「う」と「ん」の二文字しか来ない。
話しかけない方が良いか、と思い、黙る。
見慣れた帰り道に大してなにも思わず、退屈なので沈黙した数を数えてみる。
十秒。
二十秒。
三十秒。
…一分。
「あのさ!」
男子が急にバッと顔を上げ、少し驚く。
「うぉっ、どした!?」
「おれ、お前のこと好きなんだよね」
矢っ張り。
「えっ、」
胸がどきどきする。
「だから、おれと付き合ってください…」
「いいよ」
急に視界がキラキラしだす。
「え、えっ…そんなあっさり…マジで!?」
「うん。」
「こ、これからよろしく…」
凄く視界がキラキラ、ふわふわで、目が焼けそうだ。
丁度横断歩道に着いたので、男子と別れた。
家に帰り、笑顔で「ただいまー」と言う。
部屋のドアをガチャ、と開ける。
ゴトッ。
鞄を床に落とした。
ベッドにダイブする。
足をバタバタ動かす。
外ではサー…と雨の音が聞こえた。
「あーあ」
又同じことの繰り返しか。
食べて、飽きる。捨てる、笑う。
同じことの繰り返し。
辞めたくない、辞められない。
私は毎日目玉焼きを食べる。
「明日も目玉焼き、楽しみだなー」
目玉焼き、目玉焼き、目玉焼き。
ふと呟いてみた言葉は宙に浮かんで消えた。




