追放された雑用薬師、実はパーティの命繋ぎでした〜目に見えない呪いを治していた俺ですが、自分を大切にしてくれるエルフの少女と幸せな薬房を開きます〜
ブックマーク・評価・感想などいただけますと励みになります!
回復魔法が使えないからと「役立たず」扱いされて追放された薬師が、自分を大切にしてくれるエルフの姫様と出会い、本当の評価と幸せを手に入れるお話です。
愚かな元仲間たちが自滅していくスカッと感と、後半のほっこりとした空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。
「あ、そうだそうだ、忘れてた。おいレイジ。お前、今日でクビだからな」
ダンジョン深部の野営地。揺れる焚き火の向こうで、ガルドは大剣を床に突き立て、嘲るように鼻で笑った。
「……え? ガルドさん、流石にう、嘘ですよね……?急にどうして」
「いやいや、どうしてって言っても……普通分かるんだろ。お前、戦えないじゃん。攻撃魔法どころか大した回復も使えない。荷物持って道端の草こねてるだけの奴、いつまでも置いておけるかよ」
後ろで他の仲間もくすくす笑っている。
傷を一瞬で塞ぐ回復魔法はたしかにすごい。だが、冒険者を本当に追い詰めるのは、消えない疲労や蓄積する呪い、精神の摩耗だ。傷が治っても痛みの記憶や毒までは消えない。それで命を落とす奴を、レイジは何度も見てきた。
レイジの固有技能『霊草調合』は、そうした目に見えない歪みを治すためのものだった。
皆が無事に帰れるように。
ただそれだけを思って、毎晩睡眠時間を削り、薬を調合してきた。このパーティが連戦できたのは、そのおかげだったはずだ。
……だが、彼らには何一つ伝わっていなかった。
「……分かりました。今までありがとうございました」
反論はしなかった。自分たちの力を過信し、裏の仕事を鼻で笑う相手に、何を言っても無駄だと察したからだ。それに……
(流石にこんな危機感のないところいるといつか死にそうだしな……)
虚しさはあった。だが同時に、肩の荷がふっと下りるような、変に冷めた感覚もあった。そんなに思い入れはなかったらしい。
荷物を手早くまとめ、小さな小瓶が並んだ箱を地面に置く。
「……最後に、これ置いておきますね。栄養剤のストックです。気をつけて」
「はっ、そんな怪しい薬なんか誰が飲むかよ。臭いし。とっとと失せろ。匂いがとれなくなっちまうし。ほら、しっしっ」
投げつけられた言葉を背に受けながら、レイジは一度も振り返らず、暗がりの中へ歩き出した。
パーティを離れ、とりあえず麓の街まで降りる。
路地裏をあてもなく歩いていると、壁際にうずくまる影が目に入った。
金髪の長髪に、尖った耳。エルフの少女だ。荒い息を吐きながら、苦しそうに胸をかき抱いている。
「大丈夫ですか……!?」
「……触るな。……いつものだ。腕の立つ治癒術士でも無理だった……もう、剣すら持てん……」
シエル。かつて凄腕と噂された元・高位冒険者だ。
落ち窪んだ目、乱れた魔力、肌の乾き。普通ならただの不調で片付ける違和感。だが……
(傷じゃない。長年の激闘で蓄積した精神の摩耗と、深い呪い……これ、絶対普通の回復魔法じゃ届かないやつだ)
「じっとしていてください。すぐ作りますから」
腰の袋から霊草を取り出し、その場で手早く指を動かす。根を押し潰し、抽出した汁に魔力を馴染ませていく。
数分後、微かに光る緑色の薬液ができた。
「これ、飲んでみてください」
「……気休めなど……っ」
「いいから、飲んで!」
「いやでも……これは流石に匂いが……」
「いいから!!!」
まっすぐに見つめ返し、無理やり瓶を握らせる。シエルは一瞬呑まれたように目を丸くし、そのまま薬を飲み干した。
「――っ!?」
シエルが息をのむ。
体が急激に熱くなり、何年も魂に絡みついていたような苦しみが波が引くように消えていく。羽が生えたように体が軽い。指先から、体の芯に至るまで、ずっと失われていた感覚が、忘れていた『普通』が、どんどん、どんどん体の奥から溢れ出してくる。
視界の霧が嘘みたいに晴れ、体中に血が巡るのを感じる。今なら何でもできるんじゃないか、とすら思えるほどに好調だ。
「何だ……これ……? 呼吸が……痛みが……消えた……?」
「……よかった。効いたみたいですね」
レイジが胸を撫で下ろした瞬間、シエルがガタガタと震える手でレイジの肩を掴んできた。
「あなた……一体何者です!? 大聖女の魔法でも駄目だったのですよ……!? それを、こんな一瞬で……!」
「え? いや……ただの薬師ですけど……。できることも雑用ぐらいですし……」
「愚かな……! これのどこが雑用ですか!確かに薬の匂いはクセがあります。なんというか、独特、というか毒の……しかし、 魂レベルの不調をここまで綺麗に治すなんて……こんな効果の前では匂いなんて些細なこと!あなたは本物の薬師です!」
ずっと「怪しい薬」「役立たず」と言われ続けてきた。
だからこそ、その一言は深く深く心に刺さった。
自分のしてきたことを、初めてまともに見てくれた。熱いものが、込み上げてくるのを止められなかった。
数日後。
買い出しに出た中央広場で、見覚えのあるボロボロの三人組が、縋るような足取りで近づいてきた。
「レ、レイジぃ……っ!!」
ガルドだった。
かつての勢いは見る影もない。酷いクマをつくり、顔色は土のように落ち、まともに立つことすらできていない。後ろの仲間も、虚ろな目で地面にへたり込んでいる。
「ガルドさん……? その格好、どうしたんですか」
「頼む……! あれだ、あれをくれよ!もうあれがないとやっていけねえっ!死んじゃうんだよぉ!」
(あれ?ああ、薬のことか)
レイジがいなくなった後、彼らは残された薬を使い果たしたのだ。
そして薬が切れた瞬間――長年溜め込んでいた疲労、不眠、精神の摩耗、そして呪いが一気に吹き出してきたのだ。
まともに力が入らず、集中も続かない。簡単な依頼でさえ全滅しかけ、命からがら逃げ帰ってきたらしい。
「あれが無いとダメなんだ……! 回復魔法をいくらかけても、この怠さと激痛が消えないんだよ! お前の、そう!薬が必要なんだ!」
「戻ってきてくれレイジ! 雑用なんて言わないから……お前がいないと無理なんだよ!」
レイジの足元に手をつくガルド。今も痛みに苦しんでいるようで、必死にこらえているようだが、あふれる涙と鼻水でグチャグチャだ。自分たちがレイジの仕事にどれだけ救われていたか、失って初めて、心の底から理解したのだ。
だが、その姿を冷ややかな目で見下ろす者がいた。
「……見苦しいですね」
シエルが静かに一歩前へ出た。レイジをかばうように立ち塞がる。その全身から、かつての凄腕冒険者らしい威圧感が滲み出ていた。
「自分の無知でこの方の価値を踏みにじり、追い出しておいて……都合が悪くなれば泣きつくのですか。侮辱した相手に頼るなど、都合が良すぎます」
「な……ッ、俺たちはレイジに話してんだろ!」
「レイジ様の答えも同じですよ」
ガルドが縋るような視線をレイジに向けた。
だが、レイジの心はもう、揺れない。ガルドの目をまっすぐに見返す。
「……ガルドさん。僕はもう、僕の仕事をバカにする人のためには作れません。自分を必要としてくれる人のために使いたいんです。……さようなら」
「待て……! 頼むレイジ、待ってくれ――ッ!」
背後で叫び続けるガルドたちを残し、ふたりは歩き出した。振り返る気は、もうなかった。
その後、「銀翼」がかつての勢いを取り戻すことはなかったらしい。
重い疲労と原因不明の体調不良から抜け出せず、依頼をこなすこともできなくなり、やがてパーティは崩壊したという。
一方、街の外れ。森の入り口近くに小さな店ができた。
看板には『霊草薬房』と書いてある。
「レイジ様、今日もお客さんが見えていますよ」
「ありがとう、シエル。すぐ行く」
シエルの助けを借りて開いたこの店は、連日賑わっていた。
長引く不調や倦怠感に悩む冒険者や街の人が訪れては、レイジの薬で息を吹き返し、晴れやかな顔で帰っていく。
「本当に楽になりました。助かりました、レイジさん」
「レイジ様の薬は、やっぱりすごいですね」
傍らでシエルが、温かいお茶を置いて微笑む。
自分の仕事を認めてもらえること。感謝されること。
そして、自分の技術を信じてくれる人が隣にいること。
「よし、今日も頑張って作るとするか」
レイジは小さく微笑むと、すりこぎを手に取り、静かに薬鉢を回し始めた。
「うっ……効果のため仕方ないのは分かりますが……、流石にもうちょっと、店の印象のためにも、その、匂いを……」
「ええ、薬ってこういうものじゃないの?」
今日も、のんびり薬を作る。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも「スカッとした!」「エルフ姫が可愛かった!」「面白かった!」と思っていただけましたら、ページ下部の**評価星(★★★★★)**やブックマークで応援していただけると非常に嬉しいです。
また、他にもサクッと読める短編や、追放・ほのぼの系の作品を投稿しています!
他の作品は、作品ページにある作者名をクリックすると一覧で見られます!気になる方はぜひ覗いてみてください。




