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小説の世界に転生しましたが、既に終了しているようなので安心です!?  作者: Debby
第二片/ふたひら

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11 氷晶の追及と淡桜の窮地

(い、胃が持たない……吐きそ……)


扉の前でルルが胃を押さえながら立ち尽くしていると、内側からそっと扉が開きマノン・シュクレ子爵令嬢が顔を覗かせた。


「ようこそ、三華(みはな)サロンへ」


ふんわりと笑みを浮かべるマノンにつられて ルルはひきつった笑みを浮かべるが、そんなことで肩の力が抜けるはずもない。


「お、お招きいただき、光栄に存じます──」


青い顔をしながらもなんとかそう返し、ルルはマノンの軽やかな言葉に誘われ一歩室内に足を踏み入れた。



(わぁ……)



その瞬間、目の前に広がる光景に ルルは胃痛を忘れた。


正面の大きな窓からは緑の木々を通して柔らかな光が差し込み、中央に置かれた白いテーブルを彩っている。

そして、その上に並べられたアンティークのティーカップからは、ルルが到着することが分かっていたかのように、湯気が立ち上っていた。


そこには、マノンの他に二人の令嬢がいたのだが、テーブルの中央に置かれたシルバーのティースタンドと、その上段に置かれたシュー生地に白色と淡いピンク色のクリームが詰まった二色の可愛らしいスイーツに、ルルは思わず声を上げてしまった。


「し、()()()()()()()!? ……っ! あ、も、申し訳ありません!!」


ハッとしたルルが勢いよく頭を下げた。その様子を見て、マノンがくすりと笑って言った。


「白い方は『バニラパフ』ピンク色の方は『チェリーパフ』というの。()()()()でしょう?」


ルルは前世でシュークリームが大好物だった。

しかし、この世界に『シュークリーム』は存在していない。

まぁ、ここにあるのだから、単に高級品だったというわけだろうが、作り方など覚えてもいないため二度と食べることができないと思っていたのだ。


(ん? 懐かしい……?)


「そうそう、チェリーと言えばね、あの窓から淡いピンク色の花をつける珍しい木が見えるのよ」


マノンの言葉に引っかかりを感じたが、次々と話を振ってくるマノンはルルに考える隙を与えない。


「『桜』が、ですか?」


ルルがそう口にした時、静かに名を呼ばれた。


「ルル・パックス男爵令嬢」

「は、はいっ!」


思わず姿勢を正して声のした方を見ると、テーブルの周りを囲むように置かれた四脚の椅子の一つに優雅に座る銀髪翠眼の令嬢がルルを見つめていた。


「……パックスさん、こちらフェリシティ・ウォード公爵令嬢よ」


マノンは、フェリシティを責めるように一瞥すると、ルルに彼女を紹介してくれた。


窓から入ってきた爽やかな風に、手入れの行き届いた長く美しい銀髪が揺れている。


高貴、それでいて繊細な印象。


そこだけを切り取ると穏やかな午後なのに、ルルを見つめる静かな瞳と凛とした声音、そして扇で隠された口元がこの場に不似合いなピリついた雰囲気を作り出していた──


「そして彼女がメイベル・クランベリー伯爵令嬢。私がマノン・シュクレです。

お二人とも、ご紹介いたしますわ。こちらはルル・パックス男爵令嬢です。本日はわたくしたちの招待に応じ、こうして参席くださいましたの」


先程フェリシティにフルネームで呼ばれた気がするが、その柔らかな印象からは想像できないほどの静かな怒りを感じるマノンの一声によって、その事実はなかったことにされたようだ。


名乗りは爵位が低い方からだが、紹介となると爵位が高いものから行われなくてはならないというのが正式なマナー。

いきなり名を呼ぶのもマナー違反だ。


それを高位貴族であるフェリシティが逸脱してしまったのだ。

ルルには理解できないが、腹も立つものなのかもしれない。


マノンの機転(?)によって何事もなかったかのように続行される紹介にルルが唖然としていると、笑顔を浮かべ、何かを促すようにルルを見るマノンと目が合った。


「あ。みっ、皆様お初にお目にかかります。パックス男爵家の、ルルと申します」


ルルの言葉を聞き、マノンは微笑み頷いた。

どうやら期待に応えられたらしい。


フェリシティに「掛けてちょうだい」と促され、メイベル、マノン、ルルがそれぞれの席に着いた。


その間一度もルルから視線を外さなかったメイベルが、自然な動作で足を組みテーブルに肘をつくと、心底分からないといった感じで口を開いた。


「失礼なことを尋ねるが、君は本当に『ルル・パックス男爵令嬢』で間違いないか?」


令嬢というには男前な言動に、彼女の持つ濡羽色の髪と氷晶色(アイスブルー)の瞳が纏う神秘的なイメージが、音を立てて崩れた。


「は? はい……」


何を聞かれているのか分からず、気の抜けた返事をしてしまったルルだが、とりあえず肯定する。


「君の髪色はパックス男爵と同じ淡い桜色のはずではなかったか? ──まさか、染めているのか?」


(じ、事前調査済み!? そうよ。自分たちが転生者であることを匂わせてきたくらいだもの。それくらい調べているに決まっている!!


と、いうことは……『A.既に正体が(転生ヒロインだと)バレていて扉の向こうで悪役令嬢が私を潰すために待ち構えている』?! やっぱり私がこの世界の主人公(ヒロイン)だったってこと?!)


髪色を隠すということは、ルルにとって『地味で目立たない平穏な学生生活を送り、無事に卒業する』という目標を達成するための第一歩だった。

それが早速バレているなんて!


(私は物語に関わるつもりがないって伝えないと──!)


一人パニックに陥り青くなっているルルに構わず、メイベルは続けた。


「この学園、毛染め(カラー)は禁止だ。……退学案件なんだが……何故わざわざ染めているんだ?」


メイベルの言葉で、ルルは物語とは関係のないところで自ら地雷を踏みに行っていることに──気づいた……

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