告白の葛藤
――カラン
ドアベルが鳴り、学校帰りの青年がいつものようにレストランへ入ってきた。
ラズは、キッチンで下準備をしながら、その少年に声をかけた。
「ノア、お帰り。今日も予約いっぱいなの。手伝い頼むわね?」
学校のカバンをキッチンの物入に押し込め、手慣れた仕草でエプロンの紐を締めていく。
「本当は今日平日だからさぁ、手伝う予定なかったんだけど?」
ノアというラズの息子と思しき青年は、少しの不満を言いつつも、その顔は立派なギャルソンへと変貌していく。
準備に取り掛かろうとしたそのとき、木漏れ日の席に二つの飲み終えたコーヒーカップが目に映った。
「誰かきてたの?」
あまり興味がない口調で、ラズに聞いてみた。
「うん。ミアちゃんて子がね」
その名前をきいて、ノアは自転車がパンクした日のことを思い出した。
「え?ミアちゃんて、もしかして隣の街の?休日に来てねって言ったのに」
ノアは、ミアとの出会いと経緯をラズに説明した。
「そうだったのね…。ノアがミアちゃんをここに導いたってことか…」
それは偶然なのか、必然なのか――。
ノアには聞こえないほどの声で、ラズはため息のようにつぶやいた。
ラズは、ミアのことをノア話すべきか少し悩んでいた。結果としてレイがミアの身代わりになってしまったことを。
ノアには「交通事故で」ということしか伝えていない。それは、たとえ一瞬でも人を恨むようなことがあってはいけないと思っていたからだ。
事態がよくわかっていないノアは
「何の話してたの?」
ノアの無邪気な質問に、ラズは「今ではないかもしれない」と思った。
いつか話すその時まで、ノアにはもう少し待ってもらおうと思った。
少し弱気かもしれないが、ノアを信じているからこそ、大人になったときに話そうと心に決めた。
「女の子同士の話なんだから、内容を聞くのなんて野暮よ?」
ノアも、首をかしげながら
「ふぅん、まぁ、いっか。また来てくれるかな?」
と呑気に片づけを再開した。
ラズは、こんな少し能天気なところにもレイの面影を感じて、胸が温かくなるのを覚えた。
そして、くすりと笑った。
Fin.
第3部
シャルル ラポーレ ラズ ― 芳醇のその先 ―
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