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動き出す過去

 パンクを修理し、少年は深々と頭を下げた。

 

「隣街まで結構遠いわね。気を付けて帰ってね」


 ミアは少年を気遣うように、言葉をかけた。

 

「本当にありがとうございます。ぜひ今度うちのレストランに来てくださいね」


「レストランの子だったのね。なんてお店?」


「『シャルル ラポーレ ラズ』っていいます」


 ラズ…。ミアの中で、この響きの記憶をたどっていた。

 どこかで聞いたことがある、そしてそれは決して希望の記憶ではない。

 

 そして、あの事故の日にその名前は刻まれていた。

 

 

 ――事故の日の病院で

 ミアと、母親は車に轢かれた若者から離れられず、一緒に病院まで来ていた。

 しかし、助からなかった事を聞き、ミアの母親はまるで身内のように泣いていた。

 

 冷たく暗い部屋の奥へと運ばれたその若者。

 そのとき、警察官がつぶやくように口にした名前――「レイ」。

 きっと、遺留品の中から見つけたのだろう。

 

 あとは、店の住所と電話番号が書かれていた封筒。この中には何やら金属製のプレートが入っていたようだ。

 そして、彼のポケットから手紙のような折りたたまれたものが、見つかったと話していた。

 そこに書かれていた人の名前が

 

 「ラズ」

 

 この情報を手掛かりに、電話をかけているのを覚えていた。

 大人たちが、大慌てであちこちに連絡している情景が、ミアの中には残っていたのだ。


 そして、警官はこう伝えていた。

 

 「レイさんが交通事故に巻き込まれました。……残念ですが。」

 

 と。

 

 そんな、病院での出来事が、「ラズ」の一言で昨日のように記憶がよみがえった。

 

 

 ミアは、強めな口調で少年を引き留めるように問いかけた

 

「そのレストランって、ラズさんって人がやっているの?」

 

 少年は、きょとんとしながら答えた

 

「はい。僕のお母さんです。お父さんは……レストラン開く前に亡くなっちゃったんですけど。レイっていいます」

 

 ミアは、何の運命のいたずらなのかと、嘘のような偶然に、喜びでも落胆でもない感情に胸が締め付けられた。

 

「そして、僕はノアって言います。お母さんの手伝いで学校休みの日だけ手伝ってるんです。なのでぜひ休日に」


 ――ミアの中で止まっていた時間の秒針が、カチリと音を立てて動き出した。

 多く知らされない日々。向き合いたくても向き合えなかった時間が音を立てて進み始めた。

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