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3-1.怠

古本宮野ふるもと みやの──この人工島リゾートの支配人である女性は、とても四十四歳とは思えないほど、若々しい。


三年前にこのプロジェクトに加わり、その後支配人に抜擢されたという。経歴を聞けば、二十歳で学生結婚と出産を経験し、大学は休学を挟みつつも卒業。その後離婚し、シングルマザーとして子育てと仕事の両立に追われながら、地道にキャリアを積み上げてきたのだという。


 人と接するのが、好きなんです。


そう言って笑った顔には、不自然な営業スマイルの仮面はなかった。目元の柔らかなシワも、むしろ清潔感に繋がっていた。髪は光を弾き、肌には年齢を感じさせるものがない。声には芯があり、話し方には余裕と知性が滲む。


車での移動時間は僅かだった。私たちの宿泊するコテージは、受付棟から目と鼻の先にある。


その短い時間、彼女が話してくれたのは主に自身のプライベートに関することで、事件には一切触れなかった。だが、こういう“余談”の中にこそ、のちに効いてくる伏線が潜んでいることを、私は知っている。


央太が使用していたコテージを使うわけにはいかず、空いていた一棟にエキストラベッドを入れてもらい、恋さんと私は相部屋で宿泊することになった。


どうやら、依頼料が無料だったせいか、当初はコンサルタントが一人しか来ない想定だったようだ。だが、それを責める気にはなれない。私が逆の立場でも、同じ判断をしたかも知れない。


そんなことに思いを巡らせている間にコテージに到着。宮野はなるべく濡れないよう、ギリギリまで玄関に寄せて停車してくれた。


親から"年上を敬え”という教育を受けてきた私は、当然のように恋さんにシャワーの順番を譲った。


その間、私は暖房の温度を最大にし、濡れた服を脱ぎ、持参の部屋着に着替え、髪を丁寧にドライヤーで乾かした。そしてベッドの上で毛布にくるまりながら、静かにこれまでの経緯を整理していた。


死亡推定時刻は深夜で、容疑者全員が"その時間は自室にいた"と証言している。だが、いずれも証明の手段がない。アリバイは存在しないに等しかった。


遺体や殺害現場の状況から考えて自殺の線は薄い。この島にいたのは、被害者を除き六人──つまり、犯人はこの中にいる。


共犯の可能性も排除はできない。だが、もっと根本的な問題がある。


――誰も、央太を殺す理由が見つからないのだ。


恨み、嫉妬、利害関係、トラブル──何一つ、明確な動機を持つ人間がいない。トリックにしても同様だ。密室の謎は依然として未解決。誰がどうやって部屋を施錠し、消えたのか。その手がかりすら、まだ見えていない。


事件発生直後に現場を直接調査できれば、何かしら痕跡が残っていたかも知れない。だが数週間は経過していて、警察が引き上げた後に、有力な証拠が残っているとは考えにくい。


さらに、この暴風雨。すぐに屋外を捜索するのは現実的ではない。結局、今私たちにできることは、ただ、容疑者たちに地道に話を聞き続けることだけだ。


――それがわかっていても、どうしても、心は少しずつ緩んでいく。


 ただいまー。すっきりしたわ。次、どうぞー。


恋さんが戻ってきた。


私は一瞬、立ち上がろうとした。が、すぐに思いとどまった。髪はすでに乾かしたばかりだし、暖房のきいた部屋は、天国のように温かい。もう一度濡れるのも、髪を乾かすのも億劫だった。


冷静に考えれば、あれだけ雨に打たれた後だ。シャワーを浴びて体を温め直し、清潔にしておくのが正解だったのだろう。


……だが、面倒くささが、それら全てを上回った。


それは、ただの“怠慢”だった。コンサルタントとしての判断ではなく、一人の人間としての、細やかな甘え。


けれど、こうした些細な感情こそが、人の判断を狂わせることはよくある。

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