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2-3.救

 ──俺から言えるのは、そんなところかな。じゃ、俺は腹減ったから、なんか食べるもん探してくる。またなー。


気楽な口調でそう言い残し、藍時はロビーの奥へと消えていった。


フェリーで言葉を交わしたとはいえ、藍時とはほぼ初対面だった。それにも関わらず、彼は終始、恋さんに対してもタメ口で、年上に対する配慮が微塵も感じられない態度は、正直少し鼻についた。


恋さんも同じ印象を持ったはずだが、彼女はプロだ。感情に呑まれず、仕事として割り切っている。私に足りないのは、まさにそれだった。


今必要なのは、好き嫌いではなく情報。たとえ相手に好感が持てなくても、耳を澄まし、言葉の端々に引っかかるものがあれば拾い上げる──それが、事件解決への唯一の道だ。


藍時の軽薄な物言いにいちいち引っかかってしまう時点で、私のプロ意識が不足しているのは明確で、彼のような相手こそ、恋さんのように適切な距離を保ちつつ、冷静に観察すべきである。


藍時から得られた情報をまとめる。


央太がいかに繊細な性格だったかを教えてくれただけでなく、トランプ同好会の人間関係についても語ってくれた。


同好会のメンバーは央太を含め六人。四年生が三人、一、ニ、三年生が一人ずつ、という構成だ。


まず四年生の三人について。昔から特に親しかったのは央太と副会長の女性で、交際の噂もあったが、本人たちは否定していたという。一方、同じ学年の彩は二人と殆ど口を利かず、他のメンバーとも表面的な関係に留まっていた。どこか距離を置いている人物らしい。


そして、気になる話がもう一つあった。ビッグオーシャンプロジェクトを推進していた企業の社長令嬢である副会長は、同社に内定が決まっていた。それは何となくすんなり受け入れられたのだが、同じく央太も、その会社から内定を得ていたという。偶然か、必然か──その判断はまだ早いが、何かが繋がっているような気がした。私の中では、二人の結びつきを強めると共に、不穏な影を落とす。


三年生の女性メンバーについては、詳しいことは聞けなかったものの、誰とでも分け隔てなく接するタイプで、いわばムードメーカー的存在とのこと。央太とも仲が良く、藍時は"そんな人が会長を殺すわけがない"と断言していた。


そして、一年生の海都。藍時と海都は暇さえあれば大学構内の同好会室でよく遅くまで話し込んでいるよう。海都は積極的に私たちの会社をネットで探し出し依頼をかけた張本人である。付き合いは最も短いはずなのに、央太の死を誰よりも悲しみ、悔やみ、普段温厚な彼が犯人への強い怒りを感じていたという。やはり、"そんな人間が犯人なわけはない"と言っていた。


人の評価は、しばしば主観に染まりすぎる。


どれほど涙を見せようが、どれほど善人に見えようが、容疑の目は平等に向けなければならない。推測ではなく、事実に基づいて判断する。それが殺人事件コンサルティングのルールだ。


ちなみにホテルの支配人について尋ねてみたが、藍時は"直接話したことはない"とのことだった。昨年の合宿が初対面で、会ったのはその時以来だという。


 ……未凪ちゃん、あの子、ちょっとイヤな感じだったわね。でもまあ、話は聞けたし、良しとしましょう。さて次は──私もお腹空いたし、その前にシャワーも浴びたいわね。……でもこの天気じゃ、外に出るのはちょっと……。


その時だった。


 あの、お客様……


振り向くと、バスタオルを貸してくれたホテル支配人の女性が立っていた。どこかおずおずと、けれど親切心が滲む顔つきで、私たちに声をかけてきた。


 あっ……さっきは、ありがとうございました!


 いえ、とんでもありません。それより、お客様……よろしければ、お部屋までお送りいたします。エントランスに車を止めおりますので、こちらへどうぞ。


私と恋さんは顔を見合わせ──そして、思わずハイタッチをした。お礼を言うよりも先に、笑みが溢れた。


嵐の中でようやく見つけた小さな“救い”。


それは一瞬だけ、私たちに温もりをくれた。

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