1-4.親
何か分かりましたか?吉岡探偵!
市川さん、弊社は、"探偵事務所"ではなく、“殺人事件コンサルタント事務所”なんです!
恋さんはにっこり笑って訂正した。口調は軽快だが、内心は少し刺々しい。彼女のプライドに触れる呼び方だったのだろう。
んー……事件から日も経ってますし、警察が一度洗った現場ですからね。さすがに目立った手がかりは見つかりませんでしたねー。
海都は困ったように頷くと、ちらりと私を一瞥し、声を潜めて恋さんに囁いた。
そちらの寡黙な子……長谷川さん、でしたっけ。助手の方ですか?それにしても、捜査には不向きな格好ですよね。
あー、うちの長谷川が失礼しました。お客様に不安を与えるような服装で──
このやり取りは、後から恋さんに聞いた話だ。
(海都め……人を見た目で判断しやがって!)
恋さんはふいに表情を引き締め、核心を突くように訊いた。
ところで市川さん、高石央太さんが発見された時、この小屋は密室だった──間違いありませんか?
はい。報道では伏せられていましたが……中は内側から鍵がかかっていました。
海都の声に、静かな熱が宿った。
僕が地面に手と膝をついて踏み台になって、副会長が僕の背中に乗って窓から中を覗いたんです。そしたら、会長が倒れているのが見えて……急いで中に入ろうとしましたが、ドアには鍵がかかっていました。迎えの船の通信機を使って通報して、数時間後に来た警察が、会長の死亡を確認したんです。
恋さんは軽く頷きながらメモを取る。彼女の口調は柔らかいままだが、淡々と事実を整理していく。
事件当時、島にいたのは──あなた方トランプ同好会の六人と、ホテルの支配人。計七人。警察の調査でも、それ以外の人物がいた形跡はなかった。つまり、殺された高石さんを除く“六人の中に犯人がいる”わけですね。
はい……それは、間違いないはずです。
*
人工島“ビッグオーシャン”
約三年後の開業を予定していた、リゾートアイランド。当時の総理大臣肝いりで十年以上前から進められてきた国家的プロジェクトだ。
日本が誇る最先端技術を結集して、前代未聞の規模で作り上げられた人工の島は、国内外から多くの注目を集めていた。
世界各国から多くの観光客の来訪を見込み、新たな雇用を生み出し、"日本の新しいシンボル"となることを期待して、その機運は年々高まっていたのだ。
──だというのに。
そこで起きた一つの殺人事件によって、状況は一変した。
リゾート計画は無期限の延期が決まり、投資家たちはすぐさま資金を引き揚げた。報道は国内のみならず海外まで波及し、連日炎上。社内では責任追及の嵐が吹き荒れているという。
とはいえ、大学の同好会の合宿が、そのまま“殺人現場”に変貌するなんて。誰が予想できただろう。
クライアントの海都は、事件の容疑者でもあった。私と恋さんは彼に請われ、フェリーで三時間以上かけてこの島までやってきたのだ。
天気は最悪。鉛色の雲が垂れ込め、潮風は耳鳴りのように吹きすさぶ。嵐の前触れのような気配。そして何より、空気そのものが重い。気象や船舶の知識に乏しい私でも、今島から脱出することは不可能だと悟っていた。
――だが、もっと厄介なのは、悪天候ではなく“この人たち”と同じ空間に閉じ込められたという事実だった。
"この人たち”──事件関係者…すなわち六人の容疑者を指す。つまり、私たちは殺人犯と共に法の秩序に守られない無人島で、缶詰になったということだ。
遡ること、6、7時間前。恋さんと私が今朝港に着いたとき待ち受けていたのは、この六人。海都を含めた同好会の五人、そしてホテルの支配人である。
彼らは自分たちの手で事件を解決するため、再びビッグオーシャンを訪れることを決めた。しかし、素人だけで捜査をするのが困難なのは明白。そのため、インターネットで相談先を探していたところ、私たちに辿り着いたとのことだ。
しかし、なぜ警察に任せず自分たちでやらなければならないのか……
その最大の理由は、同好会副会長の母親が、この島の開発を任せられた企業の社長だということに起因していた。
副会長は親の会社の内定が決まっていたが、それも今や白紙に戻りかけている。だから必死なのだ。自分の手で一日も早く犯人を突き止めることで、母親の怒りを和らげ、少しでも信頼を取り戻すために。
一方で、他の同好会メンバーも、国を挙げての一大プロジェクトに泥を塗ったことに多少なりとも責任を感じていた。それに、自分たちへの疑いを晴らすため、真相を明らかにしたいという思いが強いようだ。
だが、その"焦り"は、島全体に伝染していた。
悪いことが起きる前触れ…私は何かよからぬものを、全身で感じていた。




