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1-2.僚

1-2.僚


──次のニュースです。およそ一年後に開業を予定していた人工島“ビッグオーシャン”で、大学生・高石央太さん(22)が宿泊施設内で遺体となって発見されました。詳細は公表されておらず、警察は──


高校一年の夏。


私は放課後になると、真っ直ぐ“事務所”へ向かうのが日課だった。


事務所と言っても、場所は赤羽の1Kマンションの一室。向かい合うように並べた二台のデスクが、私たちの定位置だった。


窓際には小さな棚とベッド。その隣にテレビ。キッチンの横にはミニ冷蔵庫、奥にユニットバス。


生きるのに必要なものは、最低限揃っている。生活感と、少しの緊張感。そんな空間だ。


東京に来て、もうすぐ三ヶ月。

原宿も渋谷も、新大久保も、ディズニーランドも――全て私の“東京”にはなかった。


私がここに来たのは、別の目的があったからだ。どうしてもやりたいことがあって、両親を説得し、礼文島を出た。


――私がやりたいことに挑戦するために。


思っていたよりずっと現実は非常識で、刺激的だった。一線を越えてしまったような罪悪感。でもそれが、たまらなく面白かった。生きている感覚を明確に認識できた。


その日の夕方。私はいつもどおり相棒と向かい合って、テレビを眺めていた。


彼女は、吉岡恋よしおか れん。アラサー美女、ちょっとふっくらした体型に、印象的な大きな瞳。少女マンガの登場人物によくいそうなイケイケな性格とビジュアルは、本当にマンガ的だ。


私の大切な相棒であり、パートナーであり、そして時には、口うるさい姉のような存在でもある。


テレビでは、さっきのニュースが特集されていた。恋さんはそれを見て、あーだこーだと感想を並べたあと、それに関係あるようなないような、とにかくどうでもいい話をし続ける。まあ……いつものことだ。


私はいつものように肘をついて、彼女の話を半分…いや1割くらいだけ聞いて受け流していた。その声は、案外心地よい。眠くなるくらいに……


──ピンポーン。


不意に鳴ったインターホンが、空気を切り裂いた。


私は顔を上げた。来客なんて、滅多にない。宅配便を注文した記憶もない。


私は椅子を蹴って立ち上がり、玄関へ向かう。そして、ドア開けたその瞬間。


いた。


私より少し上くらいの青年。整った顔立ち、でも表情は切羽詰まっている。目が泳いでいた。


 お、お願いします!あ、あの事件の真相を知りたいんです!


青年はテレビを指差した。そこには“ビッグオーシャン”と、高石央太という名前。番組の中で、ついさっき流れた事件の考察が、MCとコメンテーターの間で繰り広げられていた。


それを話題にするには、あまりにも唐突だった。けれど、彼の声には切実さがあった。ただの興味本位じゃない。何かを賭けるような、ギリギリの必死さ。


私は息を呑んだ。言葉が出なかった。彼は、きっと"当事者"だ。直感でそう思った。


そのとき、背後から明るい声が飛んできた。


 いらっしゃいませー!どうぞどうぞ、お入りください!…未凪ちゃん、お茶お願い!


恋さんのテンションが跳ね上がっている。若いイケメンの訪問に“女スイッチ”が完全に入った。こういうところ、ほんとブレない。


私はため息まじりにキッチンへ向かった。

(チクショウ、何で私がこんなことを──)


知らなかった。この青年の訪問が、嵐の始まりになるなんて。事件が、すでに"次"に向けて動き始めていたことも。

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