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3-4.婆

直接事件と関係するかどうかは分からない。だが、彼らを理解するうえで“トランプ”という存在を抜きには語れない。


彼らは皆、それぞれに“マイトランプ”を持っていた。バイシクル、タリホー、ビー──世界的に名の知れたブランドで、プロマジシャンや本格的なカードプレイヤーが愛用する代物だ。札の厚み、切ったときの滑り具合、手に吸いつくような質感……素人目には大差ないように思えるが、彼らはそこに徹底的にこだわっていた。カードを広げる音や切るリズムさえも、美学の一部として楽しむのだという。


ある者は"バイシクルの白は光の下で映える"と語り、別の者は"タリホーの裏模様は勝負の集中を乱さない"と熱弁する。その姿を見ていると、彼らにとってトランプは単なる遊び道具ではなく、自分を映す鏡のようなものだと分かる。


私の中でのジョーカーのイメージは“最強のカード”だった。切り札としてどんな局面もひっくり返す万能の象徴。しかし彼らの世界では、それはむしろ“不要物”にすぎないという。


世界三大カードゲーム──コントラクトブリッジ、ジンラミー、ポーカー。そのいずれでも、ジョーカーは使われない。混ぜられたとしても、最初に抜かれる。つまり、居場所を持てない存在なのである。


もう一つ、興味を引かれたのは彼らのニックネーム文化だ。キング、ジャック、エース…呼び合う名は、全てトランプに由来している。だが面白いのは、それが適当に付けたあだ名ではなく、本名とどこかリンクしている点だった。


高石央太は"おうた"→"おう"→"キング"、市川海都は"いちかわ"→"いち"→"エース"、といった具合。言葉遊びのようでいて、仲間同士にしか分からない一体感を生む仕掛けだった。こうした工夫を最初に考案したのは央太で、遊び心をルールに変え、グループの結束を強める――リーダー気質の彼らしい発想だった。


聞けば、この同好会は大学一年のときに央太と副会長が立ち上げ、すぐに彩が加わって三人が初代メンバーになったという。表向きは軽いサークル活動だが、その内実は強固な結びつきと独自の伝統に満ちている。カードゲームという共通言語を介して、彼らは“仲間である証”を築いていた。


 へー!でも、佐々木さんだけはなんで“クイーン”とかじゃなくて、苗字そのままなんですか?


恋さんが不思議そうに問いかけると、即座に誰かが声を上げた。


 それはね、“ササキ”っていうゲームがあるからなんだよね!


 えーっ!トランプにそんなゲームが?初耳です!じゃあ“佐々木”じゃなくて“ササキ”なんですねー!


 キャハハハハ!吉岡さん、それ面白い!


 恋でいいですよー♫


 じゃあ恋さん、私も叙歌って呼んでください♫


ササキ…そういえば、かなり前から彩の姿を見ていない。彼女はこういうガヤガヤした場所は、好まない性格なのだろうか。


場をひときわ大きな笑いで揺らしたのは、二色叙歌にしき じょか。二十二歳のN大学三年生だ。一浪しているため、年齢的にはストレートで入学した央太たち四年生と同じである。


彼女はどこか恋さんと似ていた。笑ったときの無邪気さ、雰囲気、フォルムまでも…並んでいれば"姉妹です"と紹介されても信じてしまいそうだ。だが、特徴的な髪型のコーンロウが、その錯覚をあっさりと壊す。二人が並べば、似ているのに決して混同しない、不思議なコントラストが浮かび上がる。叙歌はもともとテンションが高いタイプだが、そこに酒が加わったことで、場の熱気は一層激しく燃え上がった。


恋さんもいつの間にかグラスを手にしていた。彼女が酒を口にするのは珍しくないが、それは単なる嗜みではない。酒は彼女にとって、相手の心を解かせるツールでもあった。杯を酌み交わすことで生まれる信頼感。酔いが回るほど、口も軽くなる。私は年齢的にも対人スキル的にも真似できないが、恋さんは笑みを浮かべ、無邪気に振る舞いながら、さりげなく事件の核心に触れようと探りを入れていた。


しかし――決定的な情報は得られなかった。


容疑者一人ひとりと向き合っても、言葉の端に引っかかるものはない。どれも"普通"で、耳をすり抜けるような些細な話ばかり。けれど、それが却って不気味だった。沈黙よりも、真実を覆い隠すかのような平凡さ。私はそこに作為めいたものを感じずにはいられなかった。


捜査一日目が終わろうとしていた。央太が殺された理由は見えない。密室の謎も解けない。容疑者は確かに絞られているはずなのに、核心は遠ざかるばかり。


その夜、私は心の奥で叫んでいた。


(──この事件、一筋縄ではいかない)


間違いなく、まだ見えていない何かが潜んでいる。ら

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