3-3.徒
初めて同好会の面々とテーブルを囲んだ。僅かな時間であっても、そこに漂う空気は濃密で、私の胸の奥にじわりと染み込んでいった。
四年生の副会長は、滲み出る自信と高慢さを隠そうとしない。値踏みするような眼差しは、まるで一瞬ごとに人の価値を秤にかけているかのようだった。
隣の彩は寡黙を貫き、会話の一切に関心を示さぬまま、淡々とナイフとフォークを動かし続ける。
その対極にいるのが、三年生の女子。陽気で、誰とでも壁を作らない。笑い声ひとつで場の温度を上げ、自然と周囲を巻き込んでいく。
彼女に呼応するように、二年生の藍時が軽やかに言葉を交わし、輪の中心を担った。
そして一年生の海都。礼儀正しい所作と柔らかな笑みは、油断すれば安心感を抱かせる。しかしその微笑みに、どこまでが素顔で、どこからが仮面なのか——私にはまだ見極められない。
最後に、ホテル支配人の宮野。彼女はまるで別世界の住人のように、場に同席しているのに空気の層を隔てているようだった。
ただ一つ言えること——この中に、嘘をついている者がいる。
食器が片付けられたその刹那、藍時がまるで反射のようにポケットからカードを取り出した。言葉もなく手際よく配り始める。誰も驚かない。誰も止めない。異常なほど自然に。
彼らにとってカードゲームは、食事や睡眠と同じ“生活の一部”なのだろう。私はその異様さに気付きながらも、ただ黙々と料理を口に運ぶしかなかった。本来なら恋さんと情報を整理し合うべき時だったのに、容疑者たちがすぐそばにいる以上、軽率に言葉を交わせるはずがない。
——そう思った矢先。
お二人も、どうですか?
声をかけてきたのは海都だった。場の空気を読む、その自然さ。笑顔の裏に隠された意図を探ろうとしても、容易には掴めない。
えー。皆さんには敵わないですよー。何のゲームをされてるんですかー?
恋さんが声を柔らかくして応じた。その響きに、私は小さな違和感を覚える。媚びたのではない(と、信じたい…)。けれど、意図的に可愛げを忍ばせた声音——私には決して真似できない。
羨望と拒絶。その相反する感情が、胸の奥で静かにせめぎ合ったのか…いや、それとも最初から受け入れる気だったのかも知れない。
結局、恋さんはそのまま輪に加わり、"コントラクトブリッジ"に挑んだ。世界三大カードゲームの一つ。しかし、複雑なルールを前に、彼女はすぐに私に席を譲った。
"捜査の一環"と言われれば、断る理由はない。渋々カードを握った私だったが、いつの間にか、誰よりも真剣に向き合っていた。負けず嫌いの性分が顔を出し、次第に熱が入る。結果として、私のペアは一度も敗けなかった。偶然ではなく、確かな手応えがあった。
未凪ちゃんって、頭いいんだね。初めてなのにもう掴んでる。大学生になったらぜひうちに来なよ!……って、その頃には俺、卒業してるかもだけど、ははっ。
藍時の軽い口調が、勝利の余韻を冷たく削ぎ落とす。下の名前を呼ばれることを、私は一度たりとも許可した覚えがない。その一言だけで、胸に氷の棘が突き刺さる。
私が無表情のまま彼をやり過ごすと、恋さんが巧みに場を繋いでくれた。自然に人の輪に入り込み、すぐに馴染み空気を和らげる。その能力は、この仕事において大きく貢献する。
私は、人づきあいが得意な方ではない。数少ない友人に救われ、辛うじて高校では孤立せずに済んでいるが…
だからこそ、この場面では恋さんに救われた。カードゲームを通じて、私たちは徐々に同好会の輪に溶け込み、そして会話の端々から、いくつかの興味深い情報を拾い上げることができたのだ。




