追いかけてくる者⑵
入学式の日、私は心を弾ませながら登校した。白い大きな美しい校門を過ぎたところ、桜の降る中、女性陣がキャーキャーと騒いでいた。蛇族の女性だけでなく、様々な種族の女性が黄色い悲鳴を上げているその輪の中にやつがいたのだ。漆黒の髪は下の方で一つに結ばれており、つり上がった涼し気な金色の目は見るものを惹きつける不思議な光を宿し、穏やかに微笑む唇や目元のほくろがそのつり目のきつい印象を和らげていた。美しい、それは私でもわかったが、でもその瞳の奥にほの暗い何かを感じて私はなるべく彼を見ないようにしながら講堂にむかった。何より相手は蛇族だったし…。
入学式が始まり、新入生代表の名前が呼ばれた。「八重村オロチ。」その名前が呼ばれると女の子たちの囁き声が聞こえた。「まあ、オロチ君ですって。」「頭もいいのね。」「蛇族の長で、美形で、頭も良くて、優しいだなんて!」蛇族の長、それぞれの種族にはそれぞれの長たる血筋がいる。狐なら九尾家だし、私たち蛙なら銭家だ。そしてオロチの家、八重村家は蛇族の長たる血筋、本当に天は何物をやつに与えたのやら。そしてまあ、彼の新入生代表のスピーチがこれまた素晴らしかったものだから女性たちはもうメロメロのデロデロになってしまったのだった。
「なんか、気に喰わない。」むすっとしながら私は中学時代からの友達、蟾蜍尼子に愚痴をこぼしてた。「何が気に入らないのよ、緑。」「あの男よ。」「まあ、わかった、緑の得意分野である執筆能力で負けた気がしたから気に喰わないんだ!」私は図星をつかれて真っ赤になりながら慌てて言い訳を並べる。「違うわよ!へらへら人のよさそうな笑顔を作ってるけど、あれは絶対腹黒よ、裏では何をしてるか分かったものじゃないわ。案外他の子とかを殴ってたりして。」尼子が少し青ざめながら何かを目で訴えてくる。「何よ、尼子。あんたもあのなんちゃって紳士に夢中とか言うんじゃないでしょうね?」「なんちゃって紳士とは上手くいったものだね。僕、君に何か嫌われるようなことしたっけ?」透き通った低い声が後ろから聞こえてきた。私はもう、振り向きたくなかったが首が勝手にギギギっと動く。もちろん、後ろに立っていたのは八重村オロチでした。




