始まり
俺はユキ、ただの人間…ではない。俺は…
【三年前】
「ユキーあそぼー」
「あのなぁ…野営の準備中だぞ。暇なら手伝え」
「まあ、いいではないですか。」
「そうだぞー、こんな可愛い幼馴染なんて普通いないんだからよ」
「…はぁ…少しだけだ」
俺たちは冒険者だ。今回も依頼を受け、この森まで来ていた。依頼難易度はA、俺たちのパーティー【消えぬ焔】のランクはS、ランクが一つ違えばかなり差が出る。だから今回の依頼も簡単だと思った。今回の依頼、ダンジョンの調査にて、俺は突如気絶をした。そして目が覚めた時には、メンバー全員が死にかけていた。
「おい…何があって…」
「ユキ…正気に戻ったんだね…」
「待て…ひどい出血だ。すぐに回復薬を…」
回復薬が入っていたはずの袋を見ると既に全て使い切られていた。他のポーションもだ。
「何があったんだ…」
するとそこに一つの魔石が落ちているのに気がついた。
「それが…原因です…」
「マリア!喋るな。お前も出血が酷い…嫌…全員かなりヤバいぞ…クソ…急がねぇと…」
「俺たちはいい…このことを早くギルドに…」
「メンバーを置いて行けるかよ!」
「ユキ…ここは魔力で満ちているの…しかも混乱の魔力…」
「はい…でもそれは1人にしか作用しないようにできていました…」
「待て…混乱の魔力?…じゃあ…もしかして…これを起こしたのは…」
「考えるな!ガハッ…ゲホッゲホッ」
「はぁはぁ…ありえない…だって、マリアは聖魔法の使える職業の中でも最高職、天使の御使だ。レンだって防御職の中でも最高職のガーディアンナイト、それにカエデは…勇者じゃないか!それに対して俺は剣士だ。職業の中でも中の下、そんな俺がこんな…」
「ユキは気づいていないだけ…」
「はい。ユキさんはこのパーティーの主軸…」
「俺たちが判断を間違えたんだ…お前と戦う選択じゃなく、逃げる選択をしておけば…」
「あ…あぁあぁああぁ…」
「ごめんね…ユキ…世界を平和にするって約束…叶えられそうにない…」
「カエデ…やめろ…目を閉じるな!マリアも!レン!目を…閉じないでくれ…」
俺以外の全員が死んだ。俺は3人の死体を運び、この事実を報告した。そのあとはすんなり行った。あのダンジョンはランク変動系として認定された。Sランクの冒険者が挑めばSランクダンジョンになるし、Eランクの冒険者が挑めばEランクダンジョンになるからだ。だがその代わりモンスターはほぼ居らず、クリア方法がわかればすんなりと攻略できるダンジョンとなった。俺はすぐに冒険者を辞めた。俺には合っていない。俺には誰も救えないし、何も成せないと分かったからだ。そして3年が経ち、現在…
「今日も平和だ…」
俺は森の中で閉じこもるかのように暮らしていた。家は手作りだ。裏には3人の墓が置いてある。本当は故郷に帰してやりたいが、カエデは故郷に家族や親戚が少なく、墓を正式に管理できるものがいなかったため故郷には送れなかった。マリアはハーフエルフ、エルフの里出身だがハーフエルフはあまり良くされておらず、半ば強引に里を出て、里もマリアを捨てているような状況らしく送れなかった。レンは遺書が発見されて、内容には死んだらパーティーメンバーと共に眠りたいと書かれていたため…結果このような形となった。俺としても良かった。できるだけ毎日謝罪をしたかった。だがエルフの里や故郷、レンに関しては国を幾つか跨がなきゃならない。それを1日でこなしていたら、俺自身も死んでしまう。俺はそれでも良かった。だが、俺の命はこの3人によって救われたようなものだ。死ぬ気にはなれなかった。
「さて今日も狩りに行くか…」
ここは魔の森、魔族領に最も近い森でモンスターのほとんどがAランク以上、たまに魔族とも出会う。俺はここで暮らし、モンスターどもを狩りまくっていた。
「今日は…オーガ…しかも変異種か」
オーガはBランクだが、モンスターの変異種はランクが1から2上がる。つまりAかSといったところだろう。
「その程度じゃ勝てねぇよ」
『俺はあの3人にすら勝ったんだ…Sランク如き、余裕だ!』
一瞬でオーガを真っ二つにした。
「さて次だ!」