25年前の事件
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深夜1時、二人は不動沼の畔に立っていた。
「通常の企業なら、普通に時間超過ですね。俗に言うブラック企業でしょうか」
吾潟刑事は、愚痴とも聞こえる言葉を吐きながら、周辺の探索は、しっかりと熟している。
「特捜課霊能係は、警察機関の中でも、かなり特殊だからねぇ。夜メインに活動する地方公務員は、我々くらいだろうね」
所謂、霊や妖に代表される怪異は、夜の方が活発に活動する為、自然と夜間勤務が、増える事となる。
「ですよねぇ。寧ろ夜の方が、霊能係の活動時間ですもんね。それはそうと、この時間帯でも、不動沼は特に異常は無さそうですね」
「不浄な何かが発生した言うには、澱みが少ないね。周辺の空気が澄んでいるのか、不浄独特の大気の重みが、皆無なのも気になる。25年前の事件後、不浄の集まりで、澱みが数年続いたとデータはあるが、今はそうでもない」
四人のパニックの発端は、ここ不動沼にあると踏んで来てみたが、痕跡は無かった。
「ここまで、清浄されるのには最低でも2〜3年くらい掛かるでしょうか」
「そうだねぇ…もっとかもね。ある条件を満たしていなければ、だけど…。これは、あの四人に一度会ってみる必要があるね。判断は、それからにしよう」
二人は、不動沼自体に不浄は無い、若しくは消えたと判断して、当事者の四人に話を聴く事にした。
「隆、警察から不動沼の事で、質問があるから、都合の良い日は、何時かって言われたけど、どうする」
「俺達、悪い事した訳じゃないから、呼び出されるって、ちょっと変だよな。薬物でもやってるって思われているかもな」
「うん、可能性あるよね。秋吉と千田は、不動沼での事を、聴かれるだけだろうと言ってたけど」
「まぁ行ってみるしかないな」
「四人一緒じゃ無くても、良いとは言ってたけど、出来たら一緒が良いよね。今度の土曜日当たりはどう?」
「分かった。その日、俺も空けとくわ。一緒の方が心強いし、秋吉と千田にも、土曜日で連絡しておくわ」
そう言うと、隆は電話を切った。
「八ッ坂係長、25年前の事件ですが、自分当時は小学生で、ほとんど記憶に無いんですが、ただ犯人達が子供ながらに、怖いと思ったのは覚えてます」
「僕は、当時3歳だから、全く記憶に無いんだけどね。25年前の事件はデータから大体の全容は把握してるけど、再確認しておこうか」
不動沼女性殺人事件、横畑絵里子さん(当時19歳)が不動沼で遺体で発見された。
縛られた痕跡と、暴行の跡が複数箇所あった為、殺人と断定された。
容疑者として逮捕されたのが、野間口則文(当時20歳)、西所浩二(当時18歳)豊橋礼二(当時17歳)の三人だった。
横畑さんを誘拐したのは、強姦目的だったと自供しているが、三人とも殺すつもりは無かったと、殺意は比定した。
三人は誘拐及び殺人罪で、後に刑が確定した。
野間口則文、実刑禁固15年。
西所浩二と豊橋礼二は、実刑を望む声が多かったが、少年院送致となり更生プログラムにより社会復帰を目指す事となる。
「この三人、万引きで補導歴があるくらいでしたが、横畑さん殺害後に、野間口と西所は、強盗未遂事件も起こしているんですよね」
「横畑さんの遺体発見後の、約一ヶ月後に銀行襲撃して、西所所有の車で逃走中に逮捕されてるよ」
「その車から、横畑さんの血痕と毛髪が見つかった事と野間口と西所の供述から、豊橋を含む三人の犯行と、断定された訳ですね」
「ここまでは、通常捜査の情報だけだね。しかし、この事件は、後に怪異絡みだと発覚したんだ」
この事件が発覚するまでは、不動沼は人が、ほとんど踏み入る事の無い場所だった。
事件が起きた事で、不動沼に不浄が溜まり出したと言われている。
「つまりは、人が不浄の溜まり安い道筋を作った。と、言う訳ですか」
「と、言うよりは、最初に持ち込んだのは、この三人と言うべきかな」
元々、自然には浄化する力が備わっているらしく、通常は放っておいても清浄されて、全く問題無いらしい。
一部、祟り神化する場合はあるが、今回は関係ないので、省略したいと思う。
「それで、25年前の事件と、今回の四人と関連があると言う根拠は何ですか」
「あぁ、それね。野間口と西所は、8年前に殺害されているのは承知してるよね。犯人は未だ不明とされているが、ある理由で公にしていない。それこそ怪異が絡んでいるからさ。そして、豊橋は現在も行方不明なんだ。まぁ、これから明らかにしていくさ」
秋吉和之の場合
「不動沼に行くのは、今回が始めてです。他の皆んなも、そうだと思います」
「僕、不動沼の事は、ほとんど覚えていないんです。気付いたら車の中だったので」
「コンビニに立寄って、車の髪の毛見た時は、気が動転したと言うか、僕が憑依されたんだと思ってしまって、はい」
「えっ、あれは髪の毛じゃ無かったですか。良かったぁ、もし僕が霊に取り憑かれて連れて来たんだったら、どうしようと思ってました。本当に良かった」
千田遥香の場合
「不動沼に行こうと言い出したのは和之…秋吉君だったと思います」
「私と秋吉君は、オカルト好きと言うか…そんな感じなので、反対しませんでした」
「大仲君が帰ろうと呼びかけたので、来た道を帰り始めたんですが、秋吉君だけが何故か沼の方に向かって…」
「誰かが『髪の毛だ』と叫んだのを訊いて、そのまま気を失ったみたいで、その後の事は分からないんです」
大仲隆の場合
「不動沼に行こうと、誘って来たのは、千田さんでした。もちろん秋吉君が行く事も訊いてます」
「遠見君を誘ったのは俺です。学生時代からの友達です」
「車を持っているのは、俺だけだったので…肝試し面白そうだなって思って、不動沼に行ったんです…でも、あんな事になるなんで」
「髪の毛は、本物じゃ無かったと訊いて、正直ほっとしています」
「変わった事ですか…秋吉君が、沼に入ろうとした事と…あの時は、慌てて岸から離しました。あと、遠見君が5人いるとか?そんな事は言ってましたが…いやいや俺達の他には誰もいないですって」
遠見弘樹の場合
「大仲君に誘われました。最初は行く気無かったです…自分でも、何故行くって言ったのか」
「千田さんの叫ぶ声を訊いて振り向いたら、秋吉君が沼に入ろうとして、必死に止めて…後は夢中で沼を離れ車に戻りました」
「五人と言ってたと…そうですね。きっと僕の勘違いだったと思います。だって最初から四人しか居なかったんですから」
「真弓ですか…周囲に居た人も、僕が『真弓ちゃん』と言ったの聞いているんですね…でも、知らない人だと思います」
「質問は以上です。ありがとうございます」
「あの僕達、何か悪い事したんでしょうか?」
心配そうに、弘樹は八ッ坂標に訊いてみる。
「いや、あくまでも形式的な物なので、君達が何らかの事件に、関わっていると疑っている訳じゃ無いから、ご心配なく」
「そうですか。それ訊いてほっとしました」
八ッ坂の言葉に、弘樹はやっと緊張から解放された。
「しかし、これだけは言っておくよ。もう二度と、不動沼には近付かない事だね」
「分かりました。ありがとうございます」
遠見弘樹が、廊下の角を曲がったところで、別室から、高天原朱鳥が出て来た。
「どうだった高天原君」
八ッ坂標が、別室で四人の様子を伺っていた高天原朱鳥に問い掛ける。
「そうですねぇ。二人居ました」
八ッ坂の問いに、二人と高天原は応える。
「厳密に言えば、二人居たと言った方が、しっくりきます」
「つまりは、今は居ないと言う事かい」
「はい、今は感じませんが、原因の根元の可能性は十分あると思います」
「そうか、吾潟君はどう思う?」
話を振られる事を、想定していなかった吾潟刑事は、慌てて繕う様に話を繋げた。
「あ、え~と、そうですねぇ。自分が感知した限りでは、一人だけでしたが、不浄化は感じませんでした」
「うん、分かったありがとう。因みに誰だったかな」
「遠見弘樹です」
「やはり彼は、自覚は無い様だけど、憑依いていたと判断しても良さそうだね」
今回の件に関係があるとは言えないが、あくまでも可能性の話である。
「高天原さん、その、もう一人って誰ですか?自分は全く分からなったです」
吾潟刑事の問いに、高天原朱鳥が応えた。
「秋吉和之、彼は要注意人物になるかも知れません。肉体の不浄化の痕跡を、確認しました」
肉体の不浄化、それは肉体を保持したまま、怪異へと変化する事を意味した。
終盤の展開まで考えてましたが、中盤の展開を細かく設定していませんでした(汗)
グダグダになったらスミマセン(笑)




