傀儡霊媒
当初、入れる予定の話ではなかったのですが、追加してしまいました。
博士から送られて来たファイルには、今まで知らされていない史実が書かれていた。
これは、長蟒蛇神社が火災時に失われたと思われていた文書の写しらしく、今から千年程前に大陸から渡来した怪異についてと、封印した場所が書かれていた。
そして、その怪異が復活しない様に、管理していたのが長村の住人で、主に長蟒蛇神社の祀り事を取り仕切っていた千藤家が守っていたと書かれてあった。
封印された怪異に関しては文章の欠落や欠損で読み解く事は出来なかったが、本体を封印する際、力を三つに分散させる事で封印したそうだ。
三つに分散した力は、封印された本体を解放しようと、新たな怪異へと変異した為、神社の地下に結界を作り、三鬼面の像に封印したらしい。
「それが25年前から続く、一連の事件と言う訳ですね」
「豊橋礼二達が、封印を解かなければ避けられた事件でもあったと言う訳だね」
「豊橋礼二は、生きている可能性はあるのでしょうか?」
「まぁ、可能性は低いだろうね。それと博士から送られてきたファイルによると、豊橋礼二には協力者がいたんだ」
「協力者ですか…?」
豊橋礼二に協力者がいたと言う、寝耳に水の様な話に吾潟刑事は困惑する。
「協力者の氏名は狢塚冨市。狢塚家は由緒ある傀儡霊媒の家系だったけど、そこの頭首が突然に亡くなったらしくて継承者が途切れたんだよ」
色々黒い噂のある狢塚家と言う事もあり、何らかのトラブルに巻き込まれたのではないかと言われているが、真相解明に至らなかった。
「その傀儡霊媒師の狢塚冨市が協力していると…」
「元傀儡霊媒師家系の…だけどね。この狢塚冨市は傀儡霊媒の次期継承者と言われていたが、継承は出来なかったと言われている」
「そうですか。でもどうして今回の事件に狢塚冨市が協力していると分かったんですか?」
「おそらくだけど、マユさんの飼い主だった千藤真弓さんが、所持していたと思われる殺生石に関する文書と一緒に、一枚のメモと豊橋礼二と狢塚冨市が少年院時代に、一緒に写る写真が置いてあったそうだ。記録を確認したら、確かに二人は同じ頃に少年院にいたそうだ」
「では、そのメモに狢塚冨市が共犯者と書かれていた訳ですね」
「そうだね。元傀儡霊媒師家系の狢塚冨市が絡んでいるとなると一筋縄ではいかない恐れがある。何としても蠱毒の法を食い止めて、本体の解放を止めないといけない」
今は蠱毒の法と本体再生阻止、人質の救出を目的に、車を長村に向けて走らせるだけだった。
「吾潟君、この先に秋子さんがいるらしいから、そこで下ろしてくれるかな」
「はい、分かりました。お気を付けて、私は長蟒蛇神社で最勝寺博士と合流します」
200m程、車を進め左カーブを抜けた路肩に侍園秋子の姿があった。
「秋子さん、お待たせしました」
「いや、それ程待ってないよ。この先に例の石碑があるんだな。標、それじゃあ行こうか」
「はい、秋子さん」
二人は博士に言われた場所に向かって30分程歩くと、石碑の前に立つ人影に気付く。
「誰か居ますね」
「そうだな。豊橋礼二では無い様だが」
新月の夜に、全身黒い服の男が立っていた。
向こうも、こちらに気付いた様だ。
その身なりと鋭い眼光から、一目で堅気では無いと分かる風貌をしている。
「すみません。ここで何をしているんですか?お名前と理由を訊かせて頂いてよろしいですか」
こんな人気の無い場所にいる時点で怪しいのは、もはや確定事項だが、目の前の男に八ッ坂は職質をする。
「あぁ、俺は狢塚って言うもんだ。お前等は?帯刀してるところを見ると…あぁ、祓い屋かぁ。祓い屋なら、訊いた事くらいあるだろ」
そこにいたのは豊橋礼二の協力者であり元傀儡霊媒の家系だった狢塚冨市、その人だった。
「あぁ、あのペテン師集団の身内だったか」
侍園は無遠慮に狢塚をペテン師呼ばわりする。
「酷え言われようだな…。ちょっと言い方を変えただけで、騙したつもりは一度も無いぜ。騙されたと騒ぎ立てる方がよっぽど、たちが悪いと思うがな」
懐中電灯の灯りだが、狢塚冨市が怪しく嗤っているのが見てとれた。
「狢塚の家系は、傀儡霊媒を得意としていたが、お前は使えるのか?」
秋子が問いかけ八ッ坂が補足を入れる。
「確か最後の傀儡霊媒師は、狢塚富治氏でしたね?」
「あぁ、それは親父だ。嫌な親父でねぇ。殺し以外は、犯罪ギリギリの仕事を請け負う様な親父だったが、傀儡霊媒師最強と言われていたぜ。死んじまったら最強も糞もねえがな」
「冨市、人形すら真面に傀儡出来ない未熟者のくせに、人に傀儡を施すとは何事だ!」
冨市は人を操れる自信があった…しかし、結果は惨憺たるものだった。
一度は降霊が成功して操れていたが、途中で傀儡の霊糸が切れて正気に戻った為、金銭を受け取る事が出来ないどころか警察を呼ばれて、敢え無く現行犯逮捕されてしまった。
この時、狢塚冨市17歳、詐欺の一味として逮捕、起訴されて少年院送りとなった。
「親父は俺が逮捕され少年院送りになった事より、人に傀儡をした事に怒るような親でな。なぁ祓い屋お前たちも変だと思うだろ…思うよな」
同意を求められたところで否定も肯定もする事なく、八ッ坂は豊橋礼二との関係を訊く。
「そうですか。ではその少年院で豊橋礼二と出会ったと言う訳ですね」
「礼二かぁ…そんな奴いたなぁ。で、お前は何故?あぁ祓い屋の中に、警察に組みしている奴らがいると訊いた事があったわ。いや、参ったなぁ、俺は警察が嫌いでねぇ…まぁ死んでくれや」
そう言うと狢塚は、獣の毛が生えた腕を二人に向かって振りかぶる。
「危ない!」
二人はその場から素早く飛び退くと地面を強打した狢塚の拳が、土煙を上げながら地面を穿つ。
「外したかぁ、まぁいいか…次は外さねぇからな」
二人の元に叩きつけられた狢塚の腕には猿の毛が生えていた。
「何故、狢塚の腕に猿の毛が生えている?それに新月の夜に自我を維持しているのは何故だ?」
侍園の疑問に狢塚が反応する。
「猿ちょっとに噛まれてな。お前等と一緒で怪異耐性あるから問題ねぇがな。俺は親父より優秀でね。此れしきの怪異を傀儡するくらいどうって事ねぇわ」
狢塚の腕から黒い塊が剥がれ落ちると、毛むくじゃらの大猿が姿を現す。
「傀儡霊媒は厄介ですね。そっちがその気なら遠慮はしません。秋子さんもお願いします」
「分かった。抜刀一閃」
「権能犬神」
侍園が切り、八ッ坂が犬神を模倣して攻撃したが躱された。
「そんな攻撃当たらねぇよ。俺こそが最強の傀儡霊媒師だからな」
猿を操りながら、不適に嗤う狢塚は更なる攻撃を加えようと身構えたが、殺生石に視線を移すと、動きを止めて話を始めた。
「礼二…そう、少年院に来た時は既に、あいつは蛇の怪異に取り憑かれいたなぁ。お互い退院したら、俺が祓ってやると言ったら喜んでよう…まぁ、そんな事はどうでもいいか」
狢塚が、一体何の話をしているのか咄嗟には、理解に出来なかった。
「何の事か分からないって顔だな。8年前だよ3人を集める為に、俺が一芝居打ったって訳さ」
その話に侍園が反応する。
「8年前の事件に、お前が関与していると…」
「あぁ、そうさ。俺は傀儡霊媒師だぜ。強力な怪異が手に入る可能性があるのに、手を付けない道理が何処にある」
「貴方は怪異を手に入れる為に、豊橋礼二達を利用したと言う事か」
「利用?解放と言って欲しいぜ。3人の替え玉を用意して、こっちまで運ぶのは骨が折れたぜ」
「ふん、物は言い様だな狢塚、それで豊橋礼二は、生きているのか?」
「何を言っている?奴なら8年前に死んでいるだろう。そうでなければ、新たに人を取り込む必要はない事を知らないのか?祓い屋も大した事ねぇなぁ」
狢塚が二人を挑発していると気付き、侍園が注意を促す。
「情報を精査しろ標。奴の言葉が嘘であれ本当であれ優位を取って、こちらを操ろうとするのが傀儡霊媒の手だ」
「承知してます秋子さん、隙は見せません。やはり豊橋礼二は、既に死亡している様ですね」
「そうだな。状況から8年前も今回も首謀者は狢塚と言う事だろうな」
拮抗状態が続くかと思われたが、狢塚が先に動いた。
「いや~、嬉しい誤算だ。お前等が殺生石に傷を入れ、霊力をぶつけた事で、封印が今にも解かれようとしているぞ」
殺生石の割れた部分が、怪しく青黒く光っているのが分かった。
「何が起こっている?封印が解ける?」
状況に思考が追いつかない。
「祓い屋、礼を言おう。猿、石を殴れ!」
傀儡された猿は、拳を大きく振り上げ殺生石に一撃を加えると、割れた石の下から強い邪気を纏った何かが噴出する。
「ほう、これはいい。猿掴め」
傀儡猿は、その何かに掴み掛かり動きを制圧すると狢塚が拳を叩き込む。
「霊糸結束」
猿ごと霊糸で束縛し完全に動きを封じると、狢塚は猿に飛び乗った。
「もうここには用はねぇ。俺は先に行くぜ」
狢塚を乗せた猿は、大きく跳躍すると木を飛び移り暗い森へと消えていった。
八ッ坂と侍園は、為す術無く狢塚が消えた暗闇を、ただ眺めるだけだった。




