不動沼
短編で纏める予定でしたが、想定以上に長くなりそうなので、未完でも投稿OKとの事なので連載にしました(汗)
物語内での症例や本能行動及び、脳化学的な設定は、ここだけの話と理解して頂けると幸いです。
不動沼は、この辺りでは有名な心霊スポットだ。
昔ここで、殺人事件があったと訊いているが、かなり前の事なので、どんな事件だったか詳しくは知らない。
そして、何時しか殺さた人の幽霊が、出現ると噂される様になったみたいだ。
断ろうと思えば断れたはずなのに、今でも何故、行こうと思ったのか覚えていない。
「よぉっ弘樹、明日の夜、不動沼まで肝試しに行かないか」
始まりは、同僚の大仲隆からの電話だった。
「あ、肝試し…あんまり気が向かないなぁ。不動沼って、マジ出るヤバいって言うし、隆と二人って言うのもねぇ」
気怠そうに言うと、隆は他にもメンバーがいると、以外な答えが返ってきた。
「それがな、秋吉と千田も行くのよ」
「あぁ、あの二人なら行くわなぁ。オカルト大好きカップルだし」
秋吉和之と千田遥香は、同じ職場の同僚で、社内きっての超常現象好きが縁で、付き合っている二人だった。
「いや、何切っ掛けで、そんな話になった訳?」
「そんなのどうでもいいじゃん。で、行く?行かない?」
「分かった。ちょっと待って」
携帯電話を遠ざけ………、、、隣の真弓に訊いてみる。
「ねぇ真弓ちゃん、明日」
(ザッ、ザザザッー)ノイズが視えた…気がした。
「ねぇ真弓ちゃん、明日の夜だけど、隆達と不動沼に肝試しに行こうって、誘い来てるけど、行く?」
(ザ、ザザッー)また?
「うん、行く」
真弓の返事を訊いて、不動沼に行く事に……。
「…おい、弘樹、聞いてるか」
電話先の隆の声に、気付いて、慌てて返事を返す。
「あぁ、訊いてる訊いてる。あの二人がいるなら行こうかな」
あまり乗り気はしなかったが、不動沼に行く旨を隆に伝える。
「分かった行くよ。それで、何処に行けば良いんだ」
「駅から近し、国道沿いのコンビニに七時で」
「分かった。じゃ七時に」
コンビニに到着すると、三人は既に着いていた。
「悪ぃ、ちょっと遅れた」
「心配するな。俺等も、ついさっき着いたばっかだから。弘樹、お前は助手席な」
後部座席には、秋吉和之と千田遥香が既に座っている。
「あぁ、もちろん、あの二人の邪魔をする程、野暮じゃないよ」
「何か欲しい物あったら、今のうちに買って来いよ」
「あぁ、そうだな」
(ザッ)
「真弓」
(ザザッ)
「真弓ちゃんは、欲しい物ある」
「私、水でいい」
「分かった水ね」
「…うん」
ブラックコーヒーと水を買って、車に戻って、車に乗り込む。
「弘樹、お前が水を買うって珍しいな」
「あれ、何で水を買ったんだっけ?まっ良いか」
車に乗り込むと、不動沼に向かって車を走らせた。
あれだけ車の往来が、激しいかった国道を、山手へと向かって車を走らせると、街灯の無い片側一車線の道路に変わった。
何度か右折左折を繰り返し、荒れた舗装路を進んで行く。
不動沼までは車で行けない為、路肩に車を停車して、少し歩く事になる。
「よし、じゃあ行こうか」
懐中電灯の明かり以外は、何もない暗い小路を沼へと向かって歩く五人。
そんな場所だから、星空だけは綺麗に見える。
「星は綺麗だけど、流石に暗いし、静か過ぎて気味が悪いね」
「遥香、怖いなら一緒に引き返そうか」
秋吉が千田に言う。
「折角、ここまで来たし、真相を知りたいじゃん。和之こそ帰りたいとか」
「そ、そんな訳無いじゃん。僕だって真相知りたいし…」
どうやら帰りたいのは、千田では無く秋吉なのかも知れない…と思った。
真っ直ぐに沼に延びた小路以外は、背丈程の雑草と細く伸びた木々のみが生えた、殺伐とした何もない雑木林を抜けた先に、例の沼が見えて来た。
「どうやら着いたみたいだけど、特に何も無いな」
隆が見たままの感想を口にする。
泥臭さが鼻を突く以外、至って普通の沼にしか見えなかった。
「まぁ、こんな場所に一人で来たら怖くて、幽霊が居たって勘違いしても可怪しくないだろうね。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「あぁそうだな。秋吉、千田もう帰ろうぜ」
隆も、これ以上いても何も無いと帰る事に同意した。
踵を返し、来た方へ歩き始めた時、異変が起きた。
「ねぇ和之帰るよ。ねぇ和之どうしたの」
秋吉和之だけが一人、沼の方へと歩き始めていた。
「ねぇ、帰ろうよ。どうしたの?そっちは沼だって、行っちゃ駄目だって、和之ねぇ!大仲君、弘樹君、和之が、和之が」
二人同時に振り向くと、秋吉は沼の中へと入る寸前だった。
「何やってんだ。あいつ」
「分かんねぇけど、早く止めないと」
急いで秋吉に駆け寄り、沼から引き離してみたものの、訳の分からない事を口走りながら、虚ろな表情のままで、こちらの言う事は、丸で聞こえていない様子だった。
「おい、しかっりしろ秋吉分かるか……駄目だ。兎に角、ここを離れるぞ」
泣きじゃくる千田と、虚ろな秋吉を連れて、どうやって戻ったか全く覚えいないくらい、必死に急いで車に乗り込むと、真弓の姿が無い事に気付く。
「あれ、真弓ちゃんがいない。隆、真弓ちゃん探しに行かなきゃ」
すると、隆は苛立ちを剥き出しにした口調で捲し立てた。
「あ、真弓ちゃん、誰の事、言ってるんだ。弘樹、お前まで可怪しくなったのか」
「いや、そうじゃなくて俺等、五人でここに…」
皆まで言う前に、隆が言葉を遮る様に比定する。
「五人?違うだろ!何言ってんだ。最初から、ずっと四人だろ!どうしたんだよ弘樹」
これまでの事を頭の中で省みる。
「隆から、電話あって、…行くと言って、集合場所に行き…コンビニ入って、俺は助手席、秋吉と千田が後ろで、隆が運転して不動沼に…あれ?」
そして、気付いた。
最初から、真弓が何処にもいない事に…。
「真弓ちゃんって、誰だっけ?」
そんな時、千田遥香の悲痛な叫び声が、車内に響く。
「私もう嫌っ、こんな所いたくない。そんな事どうでもいいから、早く車を出して」
千田の必死の訴えに、隆が急いで車を発進させた。
途中、正気に戻った秋吉だったが、沼での出来事は、全く覚えいない様子で、本人だけが、何事も無かった様に、振る舞っているのを見て、やっと落ち着きを取り戻した俺達だった。
それでも誰一人言葉を交わす事無く、だだ車は、静寂な時間と共に、来た道を帰って行くだけだった。
「ちょっと、コンビニ寄るわ」
その静寂を破る隆の声に、皆が喉が渇いている事に気付かされる。
「あぁそうだね。何だか喉渇いているし」
「私も…」
秋吉と千田も同じ事を考えていた様だ。
コンビニに到着して、車を降りるとフロントグリルの部分に何が付着いている。
「何だこれ…糸か」
最初は、蜘蛛の糸か何かと思った。
「これは動物の毛じゃない?」
良く見ると、車のあちらこちらに絡まる様に何本もの長い毛が着いていた。
「髪の毛だよ!ヤバいよ!僕が、僕が、連れて来たんだぁ」
秋吉の一言に、この場に居た全員の背筋が凍り付く。
「嫌ぁぁぁぁぁ」
「何でなんだよ。何処でだよ。こんな事なら、こんな事なら」
千田は髪の毛を見て気を失い、秋吉はオロオロするばかり、隆は車に着いた髪の毛を引き千切りながら叫び散らす。
その様子を見ていた周囲の誰かが、110番したらしく、警察まで来る騒動となってしまった。
そして、そんな中、車のガラスに写る真弓の姿が、はっきりと遠見弘樹には視えた。
翌日、一人の男と警察官がコンビニの前に立っていた。
「事件性は無い様なので、今回は厳重注意と言う事で帰しました」
「それで、髪の毛らしき物は何だった」
八ッ坂標は、報告した巡査に訊いた。
「何でもあれは、植物らしいです。羊歯や苔類と言う事ですが、数本だけ、主にマネキン等で使われている人工毛髪も、混ざっていた様です」
一先ず、事故や事件は無かったと言う結論に納得した標だったが、念の為に不動沼にも行く事にする。
「まぁ何も無い事に、越した事は無いが、植物片と数本の人工毛髪ねぇ。我々、特捜課(霊能係)としては少し気になるので、不動沼へ案内出来るかな。え~と…」
「松尾です。では、ご案内します」
「それじゃあ、松尾巡査、案内よろしく」
松尾巡査の先導で、不動沼に向かう。
「吾潟君、前のミニパトが案内するそうだから、後を着いて行って」
吾潟秀一郎は、ある特殊能力を買われて、自衛隊から引き抜かれたと言う経歴を持つ、異色の刑事だ。
「了解です係長。25年前の事件と関係が、あるんですか?」
「うーん、行ってみない事には何ともねぇ」
「そうですね。だたの集団パニック症候群の可能性もありますしね」
集団パニック症候群、集団ヒステリーとも言うが、元は集団で生活する生物が、外敵から身を守る為の本能でもあった。
鳥でも動物でも、一個体でも外敵感知すると、警戒音で鳴いて仲間に報せ、一斉に逃避行動を取るあれである。
人間の場合、ただシンプルに逃げると言う行動や危険回避に反応出来ない事で、焦りや不安、恐怖からパニックに陥ると、現段階では言われいる。
脳の発達と、現代社会の生活が関係しているらしいが、専門家では無いので詳しくは知らない。
これらの現象を見分け、判断して、超常現象や霊的現象を正常化するのが、八ッ坂達であり特捜課霊能係なのだった。
林道の、少し広くなった路肩に車を停めると、三人は不動沼へと歩き始める。
成程、不動沼に続く小路に羊歯や苔類が、あちらこちらに見て取れる。
髪の毛らしき植物片も木の枝から、下がっているのも確認出来た。
「あれを髪の毛と勘違いしたんですね」
吾潟刑事が指差す方に、目をやりながら八ッ坂標が応える。
「昼間ならそうでもないけど、夜だと勘違いしても仕方ないね。冷静に判断出来る精神状態でも無かっただろうしね」
林道から歩いて、約10分程で不動沼が見えた。
「あれですか。大きな沼ですが、見た目、何処にでもありそうな普通の沼ですね」
沼の様に、水が何処にも流れず溜まり蟠っている場所は、不浄な物も溜まり安いのだが、ここ不動沼は、それ程でも無かった。
沼よりは、池塘に近い水底には、かなりの泥土が堆積している様に見受けられる。
「泥にはリンやガスは溜まってそうですが、特に怪しい物は無さそうですね。今のところは」
吾潟刑事が、そう言うのも、不動沼周辺は、ほぼ摺鉢状の地形で、不浄が溜まり安い形状になっていた。
「よし、吾潟君の言う通り、今は大丈夫だろうね。夜に出直そうとしよう」
二人は周辺を調べ、怪しい場所に当たりを付けると、不動沼を後にした。