第47話 イントレラブル
スーパーマーケットの敷地外縁部で、そのひとは地面に倒れてもがいていた。青白い光で簀巻きにされている。これが、“拘束”か。
近づくわたしたちを悔しそうに睨みつけてくる。
「くッ、ころせ!」
おお、くっころ女子。ベタに女騎士とかではなさそうだけど、顔を見るとかなりの美少女だ。とはいえ同性なので、特に感じるものはない。
「こいつ、エルフだな」
リールルに言われて耳を見ると、まあ尖ってはいた。ファリナとフェイリナよりは尖ってて、でもエルフの隠れ里の連中ほどではない。
エルフ年齢で17歳以上、30歳未満てとこかな。
「アンタ、もしかしてリヴェルディオンの……」
回し者か、と訊こうとして止める。首に金属製の首輪が見えたからだ。
ファリナとフェイリナも着けられていた、“隷属の首輪”。命令に背くと痛みを与えるとか、さらに特注品だと命令を強制するとか、実にムナクソ悪い魔道具だ。
「……違うね。むしろ、あの子たちの……」
わたしが小さくつぶやくと、コハクとリールルが目顔でうなずく。
このエルフは、“森の巫覡”と呼ばれていた、ファリナとフェイリナのお仲間ではないか。
とりあえず、そこは伏せたまま、くっころエルフの前に立った。
「わたしたちの棲み処に侵入しようとした目的は」
「そんなもの、決まっているだろうが! 貴様らに奪われた、わたしたちの同胞を取り戻すためだ!」
やっぱりな、というのが半分。もう半分は、なんとなくの違和感と不審。
「それは、ひとりで? 自分の意思で?」
そう言って首輪を指すと、目が泳いだ。悔しそうにうつむきながら、怒った顔でこちらを見た。
「セルファに、命じられはしたが! あんなところに連れ帰る気などない!」
「セルファ?」
リヴェルディオンの武装勢力を率いる、自称“森の王”だそうな。要するに、あの白服のエルフだ。名前は知らなかったし興味もなかったけど、どうやら同族にも嫌われてるようだ。
「そのお仲間を取り戻した後で、連れ帰らないとしたら、どうするつもり?」
お前なんかに教えるわけがないだろう、という顔をしていたけど。そのまま黙って見据えていると、縛られ転がされたくっころエルフは諦めたように息を吐いた。
「南東の国境を超える」
「へえ……」
いまいる場所が人間の国であるエルテ王国の南端に近いとは聞いた。ここから南側一帯に“魔境の森”が大きく広がっていて、そこにエルフやドワーフの隠れ里があることもだ。ただ、森を超えた先に何があるのかは聞いた覚えがない。
どうなのかと首を傾げてリールルを見ると、呆れた顔で首を振られた。
「歩きだと、森を抜けるのに3月は掛かる。魔物のウヨウヨいる森で、子供ふたりを連れて、追っ手からも逃げ隠れしながら国境を超えるか」
本人も現実的じゃないことくらいは、理解しているようだ。
「“森の巫覡”のためなら、なんだってしてみせる! どれだけ難しいとわかっていても……!」
「難しい、ではない。不可能だ。絶対に」
リールルにズバッと言われて、くっころエルフはガックリと肩を落とす。
そう言うリールルも無謀で考えなしで頼りないところはあったけれども、このくっころエルフはそれに輪をかけて無謀で考えなしで頼りない。
強そうでもないし、賢そうでもない。おまけに“隷属の首輪”つきだ。単身でも逃げられそうにない。
「どうしたものかな」
どうやら悪い奴ではなさそう、とはいえ彼女の立ち位置やエルフたちの相関関係も知らない以上、無条件受け入れとはいかない。わたしなら“ストレージ”で首輪を外してやることもできるんだけど、外すべきかはちょっと迷う。
「にゃ……」
コハクから伝わってきたのは、ちょっと読み取りにくい感想だった。
意訳すると、“なんかウザ……”っていうか、あえて翻訳したら、“こいつに悪意はないし、こちらに危害を加える気もなさそうだけど、関わると絶対に面倒臭い奴だ……”というような感じ。
わたしも正直、同感だった。くっころエルフは意思の強そうな目をしているのだが、そこに宿る光がキラキラではなく、どこかギラギラした感じなのだ。
ファリナとフェイリナを大事には思っているのは、おそらく事実なのだろう。でもその思いが粘着質というか、ストーカー的な印象を受ける。
「にゃ?」
どっかに捨ててきた方がよくない? と聖獣様がわたしに提案してきた。
【作者からのお願い】
「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。




