第45話 ケチャップ&メスアップ
「これは、やってもうたねえ……」
目の前に広がる光景に、わたしは思わず天を仰ぐ。晴れ渡った空の下、屋上のテーブル席は幸せそうな笑顔がいっぱいで、ほっこりはするのだけれども。
「おぉいしぃいいいぃ……ッ!」「なに、これ……」
「うま、うっまッ」「しゅ、しゅごく、おいしッ」
渾身の出来だったミートソース&ミートボール・スパゲッティは子供たちに大好評。かけ放題のパルメザンチーズと、トッピングし放題のシュレッドチーズも売れ行きが良い。
トマトの爽やかな酸味、そして野菜とチーズと大量の牛挽肉が織りなす甘みとコクと旨味。これは、異なる物との調和ではない。こってりしつつもこってりした複合的脂肪風味、五臓六腑に染み渡るようなカロリーの味だ。
「あ、あの、カロリーさま……」
はい。わかってます。シスターが指す方を見るまでもない。子供ら、服にめっちゃくちゃミートソース跳ねてる。食べ方は、それなりにキレイなんだけど。麺とフォークに慣れてないせいか美味しくてテンションアップしているせいか、服の胸元がみんな絵の具振り撒き前衛芸術みたいになってる。
「しゅっごい、ちゅるんて」
「うん、ちゅるんて、なるね⁉」
そうそう、わかる。“ちゅるん”て入ってく感じがスパゲッティの美味しさを引き立ててるんだよね。そして、その“ちゅるん”、の瞬間に麺の端っこが魚のシッポのごとくビチビチッてトマトソースを跳ね散らかすのだ。
うん。不可抗力。
「だいじょぶですよ、シスター・ミア。まったく問題ありません」
わたしはシスター・ミアに笑いかける。
わたし個人としては問題ないけれども、衣類が高価なこちらの世界のひとから見ると、血の気が引くような惨状なのかもしれない。
「お風呂の前に置かれた白い箱は、服を洗う機械なんです。あれで回せば、すぐに落ちますよ」
そろそろ子供たちの普段着を洗濯しようと思っていたところだし、洗濯物が増えるくらいは想定内。たかだかトマトの染みだ。洗濯機で回して落ちればそれで良し。落ちなかったとしても安売りのTシャツだし。地味目の色合いを選んだから、ちょっとの染みくらいは目立たない。はず。
「ああ、これは美味いな。実に、素晴らしく美味いぞ」
落ち着いた口調で言ってるけど、リールルもけっこう跳ねてるね。あなたは大人なのに。胸をショットガンで撃たれたひとみたいになってるんだが、知らん。
大人も子供も神獣様もみんな、めっちゃ美味しそうにスパゲティをすすっている。いつだって、どんなときだってチーズとケチャップは正義だ。これ、アメリカの常識。
「いい天気だねえ」
わたしは空を見上げる。キラキラした青い空の下で、みんな揃って、美味しいご飯を食べる。こんなに幸せなことはない。
「にゃ」
なんで目を逸らすの? って、現実逃避してるわたしを、コハクが笑った。
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