第30話 食後の気づき
「うまかった……」
「ああ、ほんとに……、ほんとーに、うまかったなぁ……」
犬獣人のボーイズ3人組は巨大なダブルチーズバーガーを平らげて、どこかやりきった顔でバニラシェイクをすすってる。
「ベイス、このおいも、たべる?」「ありがと」
「オーケル、このとり食べてみろよ」「じゃあ、ちーずの、あげるよ」
隣でピザとフライドチキンを食べてた人間の男の子たちも混ざって、あれこれサイドメニューをシェアしてる。
食べ物の見た目がほぼ茶色いこのグループ、全員のメニュー合わせたら1万キロカロリーくらいありそう。ボリュームもすさまじかったのに、ほぼ食べ切ってるのはすごい。さすがにお腹いっぱいで苦しそうだけど。
「すっごく、おいしい……」「あまぁ……」
「すごく、キラキラしてるね?」「なんだろ、このカリカリ?」
少し離れたところに座ってる女の子グループはお互いに頼んだものが気になったみたいで、あれこれ話しながら少しずつシェアしてたりしてる。みんな嬉しそうに味わってるのがかわいい。
男の子グループのメニューが全体に茶色いのに対して、女の子グループのはえらいカラフル。それがジェンダーの違いなのか食事量と食欲の問題なのかは不明。
アサイーボウルとフルーツボウルを頼んだ子たちは、なにが入っているのか興味津々。フルーツの下に入ってるカリカリは、たぶん焼いた穀物とナッツじゃないかな。あーでもないこーでもないと楽しそうなので、口を挟むのはやめておいた。
「「おいしいいぃ……」」
ニーナちゃんとエイルちゃんが身悶えながら飲んでるのは、ドーナッツ・ショップで買ったストロベリー・シェイクだ。プラスティックのカップに中身のピンクが透けてて、上にホイップクリームが乗ってる感じが女の子っぽい。アメリカのはドーナッツもシェイクもめちゃくちゃ甘いんだけど、気にするどころか大喜びしてる。
お姉ちゃんのイリーナちゃんも、はしゃぐ妹たちを見ながら幸せそうな笑顔だ。
「……美味い。素材も調理法も全くわからんが、うまいぞ」
リールルはといえば、スシを口に運んでは笑みを浮かべている。お箸の使い方はわからなかったようで、スシに突き刺してる。まあフォーク文化圏ならそうなるか。ついてきた醤油は、上から掛けてしまったみたい。それも特に珍しい対応じゃない。
フードコートの店で売っていたのは、いわゆるカリフォルニア・ロール的な太巻きタイプだ。サーモンとまぐろと、たぶんアボカドとクリームチーズ。赤白緑オレンジと、やたらカラフルだ。アメリカン人のイメージする“スシ”は、ネタが上でシャリが下にある寿司ではなく、こういうのなんだよね。
「この白いのは、かれーのときの白いのと似ているな」
「お米ね。同じだけど種類が違ってて、その“スシ”に使うライスは粒が短くて粘り気があるの」
「そうだな。かれーのときのは、香りと触感が違った」
どっちも美味い、と満足そうにスシをひょいひょい口に放り込んでいく。
「わさびを、ちょっとだけつけると美味しいよ」
「ワサビ?」
「その小さな袋に入った緑色のスパイス。けっこう辛いから、ちょっとだけね」
皿に盛られたワサビの塊をガバッと口に放り込んで悶絶するリアクションとかネット動画で見たことあるけど、ホントにやったら大惨事なんでちゃんと忠告しておく。
リールルはニューッと袋から絞り出して、箸の先で香りを嗅いだ。鼻がツーンとなったのか少したじろいだけど、わたしのアドバイス通りスシにちょっとだけつけて味わう。
「……ああ、これは面白いな。ワサビをつけると、後味がさわやかになる。たしかに美味い」
とはいえ途中で多めにつけてしまったのが効いたらしく、鼻を押さえて涙目になっていた。
さて、みんな満足してくれたみたいなので、今後どうするかを考えなきゃね。
「かろりーさま」「おしっこ……」
ニーナちゃんとエイルちゃんに言われて、他にもトイレに行きたい子がいない確認する。意外に我慢していたのか、総勢7人を連れてフードコートから移動する。
「ちょっと我慢してね、こっちだよー!」
天井近くの案内プレートを見て、フロア奥のドアに向かう。お客さん用トイレに子供たちを入らせて、ふと見ると通路の奥に従業員以外立入禁止のゾーンがあった。
「人もいないのに、裏側はどうなってるんだろ」
個人的な興味で覗くと、バックオフィスなのか薄暗い廊下が広がってた。少しは進んでみると、近くでゴォーンと機械が唸りだしてビクッとなる。唸るような作動音を聞いて、それがボイラーなんだとわかった。
そっか、このフロアはフードコートだから給湯設備があるんだ。冷静に考えると当たり前なんだけど、そこで改めて思い当たった。
「……ということは、お風呂に入れるんじゃないかな」
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