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豊満のグルメ ~チートスキル“スーパーマーケット”で美味しいスローライフのつもりが、なんか思てたんと違った件~  作者: 石和¥


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第28話 リヴェルディオンの挑発

「“ディーラー”?」


 わたしが聞いたこともないと知った領主は、少しだけ落胆した表情になった。それから気を取り直したようで、簡単に説明を始める。

 100年ほど前、凶作続きで飢えに苦しんでいたエルテ王国の辺境に不思議な人物が現れたのだそうな。

 彼は奇妙な服を身にまとい、聞き慣れない名を名乗った。そして見たこともない物資を手に入れる力と、高度な知識を持っていた。穏やかな性格で心優しく慈悲深く、人間にも亜人にも分け隔てなく接し、わずかなお金と引き換えにたくさんの食べ物を与えてくれた。それはとても美味しく栄養豊富で、とてつもなく安かった。

 飢えた王国辺境の民は彼を聖者として崇めた。貧しき者も飢えから解放され、誰もが彼に感謝した。

 彼は食べ物だけなく、辺境の地でも育つ作物の苗や種も与えてくれた。みんなで力を合わせて努力して、長き凶作から農業を立て直すことができた。もう大丈夫だと、辺境の者たちは喜びに沸いた。

 幸せな日々は、30年ほど続いた。


「なぜ30年? その後は?」


「殺された。誰が何のために手に掛けたかは判明していない」


 なにその尻切れな寓話。ふつうは教育的意図とか教訓的要素とか、宗教的理想論とかが乗っけられるもんなんじゃないのかな。


「現実は、そんなものだ。誰もが幸せになる結末など、夢物語でしかない」


 わたしの不満は、あっさりと聞き流された。


「もし、わたしがその“ディーラー”だったとしたら、どうだったというんですか」


「大恩ある聖人を害したのはエルテ王国が犯した歴史的大罪だ。彼に連なる者なら子孫として不義を詫び、償うのがこの国の為政者として取るべき道だと考えていた」


 どうなんだろ。わたしのスキルと似たものは感じるけれども、そんな名前で呼ばれる覚えもないし、関連性も感じない。聖人君子のように語り継がれているそのひとと、個人的な趣味と私利私欲で動いているだけのわたしは違う。同じ扱いをしてほしいとも思わない。

 そう伝えると、領主は安堵したような失望したような拍子抜けしたような顔でうなずいた。


「なるほど。承知した。私から伝えることは以上だ。これを最後に、貴殿への接触も干渉もしない。願わくば永くこの地に()ってほしいとは思うが、それも単なる個人的な感想でしかない。邪魔をした」


 領主は言うだけ言って、そそくさと帰っていった。


「にゃ」


 思ってたのと違うね、と言うコハクに、わたしも同感だと答える。だからと言って商人ギルドに伝えた条件を変える気は、いまのところない。領主から聞いた話を全て鵜呑みにする気もない。


「戦争か……罪もないひとたちが巻き込まれなければいいけど」


 そんなわけないよね。戦が起きれば被害を受けるのは、弱くて貧しい者たちだ。わたしにできることがあれば助けてあげたいとは思うけど、“スーパーマーケット”だけでなにができるのかは、まだわからない。

 さらに言えば、それをするべきなのかも、だ。


「かろりーさま、おはなし、おわった?」


 待ちかねていた子供たちが、大部屋の扉から礼拝堂に顔を出す。


「うん、お待たせ! それじゃ、みんなで丘の上まで行こうか!」


「「「はーい!」」」


 フードトラックはなくなってしまったので、子供たちと手をつないで孤児院から歩くこと15分くらい。わたしたちはバーベキューをしたときと同じ丘の上に着いた。雑草のなかに花が咲いていて長閑な風景だ。

 昨夜は真っ暗ななかで出したので地形が平坦か、草原にいる生き物を踏みつぶさないかと心配だったけど。明るいところであれば安全の確認もできる。

 念のため子供たちには少しだけ離れていてもらって、実店舗召喚(小)を召喚する。


「“スーパーマーケット”」


 ドーンと現れた巨大な建物に、子供たちのみならずシスター・ミアとリールルまでもがあんぐりと口を開けて固まってしまった。


「……な、なんだこれは⁉ おいカロリー、なんなんだ、この馬鹿デカい家は⁉」


「家、ではないんだけどね。お店だよ。わたしの力で出すことができる、異界の商品を扱うお店」


 わかったようなわからないような、って顔で近づいていくリールル。店の正面にある巨大なガラスをペタペタと触って、素材と透明度に驚いている。

 ふらふら歩いているうちに入り口の自動ドアが開いて、ビクッと後ずさるのがちょっと面白い。


「そこが入り口だよ。みんなで入ってみようか……」


 店に歩いていくわたしの背後で、急にコハクの気配が変わった。ぐるる、って小さく唸り声を上げて警戒態勢に入ったのがわかる。


「コハク、どうかし……たぁッ⁉︎」


 飛び掛かってきたコハクが大型化してわたしを押し倒す。バキンッ、と青白い火花が散って、目の前に砕けた矢の残骸が落ちてきた。


「……なに、これ」


 矢を弾いた火花は、どうやら魔法的な防御結界のようだ。何十体ものゴブリンを撥ね飛ばし轢き殺しても傷ひとつ付かなかったフードトラックと同じか。

 そっか、それがお店にも張られているのね。


「ありがと、コハク。それより、いまの……⁉」


「にゃ!」


 攻撃を受けた、……って、誰から⁉ モフモフを傷つけるヤツとか、絶対許さないよ!

 周囲を見渡すけれども、わたしの目に敵らしき相手の姿は見えない。いや、そんなことは後回しだ。


「みんな、無事⁉ 怪我してない⁉」


 慌ててシスターや子供たちの安全を確認する。どうやら結界のなかには入っていたようで、見たところシスターやリールルも含めて誰も傷ついてはいない。

 ただ驚いた顔で固まってるだけだ。


「みんな、建物のなかに入って! いますぐ!」


“入店を承認しますか?”


 次々に自動ドアをくぐる孤児院のメンバーを、全員承認。安全のために奥まで入って、物陰に隠れていてもらう。

 広大な“スーパーマーケット”の店内なら、孤児院の全員が入ったところでなんの問題もない。生きていくための物資はなんでも揃ってるし、資金もあるからいつまで籠城し続けたところでなんの問題もない。


 問題が、あるとするなら。


「……ほぉ? これはこれは……」


 この世界の、悪意の存在。


 自動ドアの前で声のした方を振り返ると、白い服を着た偉そうな男と、黒いフードをかぶった怪しげな男がゆっくりとこちらに向かってくるところだった。ふたりとも馬に乗って、腰には剣を吊っている。

 声を掛けてきたのは白い方で、黒フードより立場が上のようだ。さっきの矢は黒フード男が放ったものらしく、手にした弓には次の矢がつがえられていた。


「それ以上、近づかないで!」


 黒フードの男はわたしの警告を完全に無視して馬を進め、連続で矢を放ってくる。飛んできた矢は3本とも防御結界に弾かれ、火花が散って砕けて落ちた。


「なるほど。敵意に反応する結界か。この女が“ディーラー”だな」


「お(あつら)え向きに、聖獣もいます」


 ニヤニヤと小馬鹿にした笑みを浮かべて、男たちはどんどん近づいてくる。


「コハク、あいつら倒すことは?」


「にゃ」


 できるとの返答。ただし、エルフは妙な魔法を使うので油断はできないという。


「……エルフ?」


 たしかに、耳は長く尖ってる。顔も整ってるようだけど、そんなことは正直どうでもいい。


「それって、もしかして領主が言ってた、エルフの自治領(リヴェルディオン)の連中?」


「にゃ」


 たぶん、と言ってコハクが男たちの後方を指す。百メートルほど離れたところで、黒フードをかぶった集団が草むらに伏せているのが見えた。


「あいつら、ずっとわたしたちを監視してたのかな」


「にゃ!」


 話は後だとコハクに促されて、わたしたちも店内に入る。

 近づいてくるエルフたちを窓越しに見ていると、入り口から10メートルほどのところで防御結界に阻まれていた。結界がどの程度の効果なのかは不明ながら、敵の侵入と攻撃を阻止する機能があるのは間違いない。


「「かろりーさまぁ……」」


「大丈夫だよ。このなかにいる限り、あいつらは手を出せない」


 不安そうな子供たちを落ち着かせるために、わたしは笑顔で伝える。手を出せないのは事実だとしても、わたしたちも外に出られないんだよね。どうしたものかな。

 エルフたちは何度も矢を放ってくるが、結界はすべてを弾き飛ばして砕いてしまった。最後はなにか魔法を放ったみたいだけど、それも結界に無効化されたようだ。


「弓か……」


 そうだ。レベルアップした“スーパーマーケット”には、アウトドアグッズのコーナーで弓が売られてた。オモチャではなく明らかに殺傷力を持った、ゴツくて大きい狩猟用の弓だ。日本だと、たぶん銃刀法違反になる。当然わたしは、そんなもの使うどころか触れたことさえない。

 とはいえ、ここで怯えていてもなにも解決しないことくらいはわかる。

 あいつらの狙いが“ディーラー”とかいうものだとしたら、孤児院のみんなを巻き込んだ原因はわたしなんだから。


「コハク。すぐ戻るから、みんなを守っていてくれる?」


「にゃ」


 聖獣様に護衛を任せて、店の端まで延々と数十メートルを走る。やっぱり、これ店内用に自転車いるかも。

 アウトドアグッズのコーナーには、昨夜見たままの狩猟用弓矢が並んでいた。商品についたプレートによれば、複合弓(コンパウンドボウ)というらしい。弓の両端には滑車がついていて、どうやら張力(弓を引く力)をアシストもしくは増強する機能のようだ。

 価格は約1万5千円(100ドル)前後から約4万5千円(300ドル)まで様々。良し悪しはわからない。数値も色々書いてあるが、判断するほどの知識もない。そもそも、こんなデカい弓をわたしに引けるのかな。


「あ」


 ふと振り返った反対側の棚には、ボウガン――プレートの表示によれば“クロスボウ”というらしい――が並んでいた。

 こちらも大小様々で値段も色々。コンパウンドボウよりも価格帯は少し上なのだけれども、プレートの説明書きによればクロスボウは安全簡単に弓を発射可能状態に(コッキング)できると書いてある。

 矢をセットしたら引き金を引くだけ。スコープもついてて素人でも当てやすそう。これなら、どうにかなるかもしれない。


 とっさに目についた約3万6千円(240ドル)ほどのお薦め品を、追加の矢といっしょに購入。これも弓の両端に滑車がついていて、引くのが軽いんじゃないかと思ったのが選んだ理由だ。

 説明書を見ながらクロスボウの先端にあるリングに足を掛け、器具を使って背筋運動みたいな姿勢で弓をセットする。

 なるほど、さすが文明の利器。これなら女性の体力でもなんとかなる。レベルとともに向上しているらしいわたしの体力が、いわゆる“女性”の範疇に入るのかは不明だけど。

 危ないので、まだ矢はセットしない。クロスボウと矢を抱えたまま、急ぎ足でみんながいる入り口近くまで戻る。


「にゃ?」


 それがカロリーの……弓? ってコハクが首を傾げながら訊く。そうね、このクロスボウ、見た目は宇宙人の光線銃みたいだもんね。さて、間違っても子供たちに向かないように先端を外に向けながら矢をセットする。


「……それじゃ、ちょっと脅してくる」


「にゃ」


 コハクも護衛についてきてくれるって。うちの相棒は頼りになる。

 わたしがクロスボウを抱えてドアから外に出ると、結界ギリギリに立っていたエルフの()()はあからさまに見下したような顔で声を掛けてきた。


「ああ、これはこれは。今度の“ディーラー”はコソコソ逃げ隠れするだけかと思ったら、少しは気概というものも……」


 狙うこともないくらいの距離だったので、クロスボウを構えてすぐに黒フードの脚を目掛けて引き金を引いた。

 最初にお返しするなら、こちらに矢を射ってきた相手だよね。


「がッ⁉」


 プシュンと軽い音で発射された矢は、黒フード男の脚に真っ直ぐ突き刺さり、あっさりと後端の矢羽根まで肉を貫いて止まった。


 ……怖ッ! なにこの威力⁉


 内心は震え上がりつつも顔だけは平静を保ち、わたしはうずくまる黒フードを見据えて言った。


「他人に弓を向けるなら、自分も射られる覚悟くらいしてるでしょう?」


 呆然としている白服と、痛みに顔を歪める黒フード。憎しみを込めて睨みつけてくる男たちに、笑みを浮かべて追い打ちをかける。


「ああ、ごめんごめん。コソコソ後ろから女子供を()ってくるような男だもの、そんな()()はないかー!」


「なに、を……ッ」


「覚えておいて」


 低い声で静かに告げると、エルフたちは口をつぐんで蒼褪め始めた。わたしの威嚇に合わせて、聖獣姿のコハクがぐるると男たちに唸り声を上げているせいだろう。

 

「わたしたちの仲間に危害を加えるなら、それが誰であろうと、どんな理由があろうと、わたしたちの敵。今回は警告だけで済ませてあげたけど……」


 わたしはトントンと、額を指で叩く。次はここを狙うと男たちに宣言する。


「今度は、手加減しないから」


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― 新着の感想 ―
まさか、クロスボウからとは。 アメリカ、行ったことないからしらんかったが、恐ろしいものがスーパーにあるんだな。
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