第24話 ふわとろチーズオムレツとカリカリベーコン
翌日から、コハクによるリールルの特訓が始まった。朝起きてすぐから延々と走り込み、その後は聖獣姿のコハクを相手に木の棒で戦っていた……みたい。付き合う気はないので、わたしはその間、子供たちと孤児院の掃除やお洗濯、そして食事の用意だ。
「コハク、リールル! ご飯だよ!」
「「「ごはんだよぉー!」」」
どこにいるのかわからないので適当に声を掛けると、草まみれの土まみれでヘロヘロになって帰ってきた。
「ぜんッ、ぜん、かすりもしない!」
「にゃ」
修行が足りなすぎ、って呆れた顔でツッコまれてる。リールルも細身ながら肩とか腕、背中の筋肉はしっかりついていて、鍛冶師としては鍛えられてると思う。でも、冒険者みたいに戦うための身体じゃないんだろうな。
……って、全身ぷにぷにのわたしが、とやかく言えた義理ではないか。
井戸で簡単に汗と汚れを落として、ふたりも食卓にやってくる。今朝のメニューはバターで焼いたパンとチーズオムレツとベーコン、サラダとミルクだ。
赤白黄色緑とカラフルな食卓に子供たちのみならずリールルとコハクも小さく歓声を上げる。
「おいしッ」「たまご、とろとろ」「あかいの、すきー!」
「ぱん、いいにおい……」「あまくて、すっぱい」「あかいの、もっと!」
チーズオムレツ用にはハインツのケチャップをボトルで出した。それぞれ手が届くところに1本ずつ置いてるので好きなだけかけ放題だ。ケチャップはトマトの味が濃いハインツのが好きなんだけど、子供たちにも好評のようで嬉しい。
サイズは子供たちの手の大きさを考えて約400グラムのにした。もっと大きい約600グラムとか約950グラム、さらに大きい約1.5キロのもあるというからアメリカ人どうかしてる。そんなデカいの、子供どころかわたしでも持てあます。
「これも美味いな……カロリーの作るメシは、どれも信じられないほど美味い」
ヘロヘロだったリールルも、ケチャップたっぷりのチーズオムレツとバター付きパンに感動している。
フワフワでトロトロに焼き上げたチーズオムレツに、たっぷりのケチャップ。これぞ、ひとつの幸せのかたち。単純にして明快な朝食の定番。子供舌と笑われても、美味いものは美味いんだ。
香ばしい香りで脂がまだジワジワいってる、波打ったカリカリのベーコンもたまらない。
個人的に、日本の食品でアメリカにハッキリ劣っていると思うのがベーコンだ。正確に言うと、一般的に流通している安い謎ベーコン。あれは薫製風味の液体に漬けただけの加工肉で、ぜんぜんベーコンじゃない。焼いてもカリカリにならないし、風味も偽物っぽい。良し悪しはともかく、ベーコンとは違う何かだ。
もちろん日本にもちゃんと燻製された正しいベーコンは売っているんだけど、あまり見かけないし、庶民には怯むくらい高価だったりする。
アメリカ人にとってベーコンは強い思い入れのある日常食材なので、来日したアメリカ人からは(日本での食事で唯一と言ってもいいくらい)失望され苦言を呈されることがある。
「……ふぅ、満足」
満足はしたし、美味しいとも思うんだけど。わたしはそろそろお米が恋しい。
“スーパーマーケット”で探してみたら、タイのジャスミン・ライスとインドのバスマティ・ライス。どちらも長粒種のインディカ米だった。アメリカでもカリフォルニア産のジャポニカ米が売ってたはずなんだけどな……
「カレーが食べたいな……」
「にゃ? にゃにゃ⁉」
ボソッとつぶやいた声に、コハクが敏感に反応する。それ、どんなの? 美味しいの⁉ って、思いっきり食いついてきてる。
「うん! すぅーっごい美味しい。わたしのいたところだと、めちゃくちゃ大人気だった料理だよ」
「にゃ!」
「なに⁉ そ、そんなにか」
コハクとリールルは驚いているし、子供たちも思わず固まっている。彼らはみんな、全身で“たべたい!”って言ってる。そんな期待に満ちた目で見られてしまったからには、がんばってカレーを作るしかない。
まあ、主にわたしが食べたいからなんだけどね。
「それじゃ、今日の晩御飯はカレーにする?」
「「「するうぅーッ♪」」」
「にゃうーん♪」
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