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豊満のグルメ ~チートスキル“スーパーマーケット”で美味しいスローライフのつもりが、なんか思てたんと違った件~  作者: 石和¥


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第23話 森の奥にあるもの

 食事が済んで、陽が傾いて。リールルが野宿をするつもりだと聞いたわたしは、シスター・ミアに彼女を泊めてもらうよう頼んでみた。

 当然のように快諾してくれたんだけども、当の本人は森が気になってしょうがないみたい。


「う~ん……わたしとしては、いますぐにでも向かいたいところなんだが」


「にゃ」


 無理、ってコハクが一蹴する。治癒魔法を掛けたときに、リールルのステータスみたいなものがわかったようで、まだ“魔境の森”に入るほどの力はないと断言されてしまった。


「いま、なんと言ったんだ?」


 獣人の子供たちは神獣様(コハク)の声が、わたしと同じくらいか、もっとハッキリと聞き取れてるみたいなんだけど、ドワーフにはわからないのかな。

 人間の子とシスター・ミアはほとんどわかんないと言ってたっけ。


 どうしたものかと思いつつ、コハクのコメントをオブラートに包んで伝えてみた。リールルには完全に真意が読めてしまったようで、いささか凹みつつも納得してくれた。


「そうか……まだまだ修行が足りないということだな。鍛え直して、装備も整えて、また出直すことにするか」


 そうしてもらえるとありがたい。正直これで野垂れ死にとか魔物のエサになるとかされると夢見が悪い。

 それとは別の問題として、わたしは少し興味を持ってしまった。


「ドワーフの隠れ里かあ……」


「にゃ?」


 行きたいの? という感じでコハクが訊いてくる。

 それはもちろん、行けるもんなら行ってみたい。でも、隠れ里というくらいだから余所者を受け入れるようなところではないというのはわかる。


「リールルは、その場所がわかってるの?」


「だいたいの位置はわかってきたが、ひどく曖昧な上に矛盾がある。情報源はあるが、信憑性に欠ける。……それも、著しく」


「?」


 聞いてみると、“魔境の森”にドワーフやエルフの隠れ里があるという話は、メルバでも知っている者は多いらしい。

 実際、昔はエルフやドワーフが“魔境の森”で暮らしていたとシスター・ミアも言っていた。その後も森に残っている者がいたことは知らなかったけど、それも秘密というほどではなく、同種族(ドワーフ)の間ではふつうに話されていたようだ。たぶん、エルフでも同じだろう。


「隠れ里の場所を知っているのは昔そこに住んでいた、最低でも100歳近い老人たちだ。彼らは隠れ里の話を、若い者にする気はない。だから、口を割らせる」


「……え? ……それは、どうやって……」


 聞きたいような、聞きたくないような。こっちの不安を知ってか知らずか、リールルはニヤリと笑って、カギ型にした指をクイッと捻るような仕草をした。

 首を、へし折る⁉ いや、それじゃ話を聞けないよね⁉


「酒を飲ませる」


 全然違った。それ、酒杯を傾けるポーズだったのね。紛らわしいというか、なんというか。


「あいにくドワーフは酒好きの酒豪ばかりだ。口を割るまで酔わせるには、かなり強い酒を、かなり大量に飲ませなくてはいけない。その匙加減を間違えると、ベロンベロンに酔っぱらった年寄りのホラ話しか聞けなくなる」


 ダメじゃん。ていうか、匙加減を間違えなくても酔っぱらった状態でしか話を聞けないんなら、それは信憑性なんて望めるはずもないよね。


「何人もの老いぼれドワーフから話を聞き出して情報をまとめて、ある程度の場所はわかった。そのあたりを探し回れば位置は特定できるはずだ」


 ただ問題は、とリールルは腕組みして顔をしかめる。


「そこまで行ったところで、すんなり入れるようにはなっていない。エルフなら魔法で、ドワーフなら技術で。隠れ里に近づく者を寄せ付けない仕掛けが施されているはずだ」


 その対策はできているのかと尋ねると、困った顔で首を振られた。


「だったら、いろいろと準備が足りないんじゃないかな」


「そうなんだよなあ……」


「どうしてそこまで焦ってるの? 急いでいかなくてはいけない理由でもある?」


 リールルは少しの間、逡巡するように視線を泳がせる。無理に話す必要はないけど、と言いかけたとき息を吐いてわたしに向き直った。


「あたしは純血のドワーフじゃない。父親はドワーフだが母親は人間だ。それでも鍛冶と目利きの腕は磨いてきた。メルバでも王国でも誰にも負けない自信はある。……いや、あった」


「メルバで、なにかあったの?」


 聞けば、雇われていた鍛冶工房でずっと下働きのまま商品を作らせてもらえなかったのだそうだ。最初はこれも修行だと思ってがんばっていたが、後から入った新入りがあっさり職人の座についたことで気づいた。

 このままだと、いつまで経っても下働きだと。


「技術では負けないと言ったところで、その技術を見せる機会がないんじゃ無意味だろ。だから、炉が空いているときを見つけて打った短剣を親方に見せたんだがな」


 鼻で笑われたんだそうな。それも、ものを見もせずに。たかが女の、それもガキが打ったもんなんて見る価値もねえと、振り向きもせずに吐き捨てられて。

 リールルは、その工房を見限った。


「ちゃんとドワーフの親方の元で修業がしたい。そこでダメだと言われたら諦めもつく。メルバにドワーフの鍛冶師はいない。腕利きはみんな、森から出てこないんでな。……だから、あたしは絶対に、ドワーフの隠れ里まで行かなくてはいけないんだ」


 なるほどね。ドワーフとしてのルーツをたどって、本物のドワーフの鍛冶師に会って、自分の実力を知りたいと。職人の世界は知らないわたしでも、その気持ちは理解できた。


「そっか……リールルが打ったその短剣、見てみたかったな」


「あるぞ?」


 そう言って携行袋から20センチほどの短剣を出す。


「そんなの持ってるなら、なんでオオカミ相手に使わなかったの⁉」


「……それは、その……血で、汚したくなかった」


「それで死にかけてちゃしょうがないでしょ⁉」


 それはそうなんだが……とかモゴモゴ言ってるのを無視して、短剣を見せてもらう。当然ながら、わたしに武器の目利きはできない。それでもリールルの打った短剣は見る者の気持ちを揺さぶるような鋭さと美しさを持っていた。


「素人目で見た感想でしかないけど、いい出来だと思うよ」


「にゃ」


 神獣様(ネコ)の目から見ても良い腕だという評価だった。どちらの目利きも、なんの保証にもならない気休め程度なんだけどね。


「……う~ん」


 いろいろと思うところはある。訊きたいことも言いたいことも、ないわけじゃない。でも、たぶん彼女が求めているのはアドバイスじゃない。


「ふにゃ~、にゃにゃん」


 自分と一緒なら行けるよ、って聖獣様は簡単におっしゃられる。

 ただ、わたしとコハクは従属契約で一心同体だけど、リールルのために聖獣の力を使うのはちょっと違うんじゃないかというニュアンスが含まれているようだ。

 彼女は救い守ってあげるべき無力な子供ではないし、危険を冒すのも彼女の個人的事情でしかないし。

 それは、たしかにそうかもね。でもこれ、リールルに伝えていいのかな……


「どうかしたのか?」


 悩んでるのはすぐにバレた。目を逸らそうとしたら、グイッと顔を近づけられた。近い近い……! そんな子供みたいな顔してキラキラした目で見られると、思わず情に流されそうになってしまう。


「コハクが……連れて行ってあげることは、できるって」


「本当か⁉ 頼むコハク……いや、神獣様!」


 グイグイ近づいてきたリールルの顔を肉球で押し返すと、コハクは少し考えてひと声だけ鳴いた。


「にゃん」


「神獣様は、なんと言っている?」


 一瞬どうしようかと思ったけど、わたしが悩む問題じゃない。ここは、コハクの声をそのまま伝えよう。


「連れてくかどうか、しばらく鍛えてから決めるって」

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