表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/70

55 金緑石

翌日の朝、首長とガイルが宿屋まで見送りに来てくれた。


首長はリムネーまでの馬車を手配してくれた。

御者はガイルではなく、首長のおつきの御者だった。


ガイルは、ヴォラス山の後始末の陣頭指揮を取ることになっていた。

悪い気が溜まったところを、僕が渡した聖水で早く浄化させなくてはならない。

ミロステアの巫女長から派遣された、『気』が視える結界師に手伝ってもらうそうだ。


それに、ガルヘルムや盗掘者によって荒らされた箇所の確認も必要だ。

盗掘者は既にガルヘルムにやられているだろうが、骨でも見つかれば埋葬しなければならない。

やるべきことはたくさんあった。


僕とユイとリドは、馬車に乗り込んだ。


首長は昨日会ったときよりも目の下のクマが薄くなったようだ。血色も良くなり表情も明るい。

反面、ガイルはいつになくしんみりとした様子だった。


首長とガイルに別れを言った。


「お世話になりました。ガイル、元気で」


「また来た時には、絶対連絡しろよ」


僕とユイは、二人の姿が見えなくなるまで手を振った。



馬車は順調に進んだ。

アナトリカの街を出ると最初のうちは下りだったが、その後は多少の起伏があるもののほぼ平坦な道だった。

牛や羊が放牧されている長閑な景色が続く。

軽快な馬の蹄の音を聞きながら、気持ち良くなって時々うたた寝していた。


途中の昼食と夕食は、宿屋で持たせてくれたサンドイッチを食べた。

夜は、以前のように馬車の背もたれを倒して眠った。


翌日も馬車は軽快に進む。

緩やかな上りの道になり、周囲には森が多くなってきた。

昼少し前に、リムネーに到着した。

御者にお礼を言うと、『危険な熊を退治してくれた方を送ることができて光栄です』と言って恐縮していた。

一般の人には、最後までガルヘルムの存在も結界のことも伏せられていたのだ。



久しぶりにリムネーに来た。いつ見ても美しい街だ。

またゆっくり来たいと思っていたので、ちょうど良かった。


ユイと一緒にいられるのはこの街までだ。

ユイはここからミロステアまで歩いて行くと言う。

ミロステアまでユイを送って行こうかとも思ったが、ミロステアからノートスまでの山道を一人で帰る自信がなかったのでやめておいた。


荷馬車屋に行ってノートス行きの荷馬車を探して予約を入れた。

出発は明日の昼か。今日はリムネーでゆっくりしよう。


「ユイはいつ出発するの?」


「今日暗くなる前に出て、山小屋に泊まろうと思います」


昼食を食べるため、近くのカフェに入った。

お店の看板メニューの、湖で採れた魚が入ったキッシュとコーヒーを頼んだ。


テラス席で湖を眺めながら、美味しいキッシュとコーヒーを味わう。

しかも、目の前にはユイがいる。

ユイはキッシュを美味しそうに頬張りながら、僕に笑いかけた。

なんて穏やかで尊くて幸せな時間なんだろう。

ずっとこんな時間が続けばいいのに……。


食事が終わって店の外に出た。


「この後、ちょっと一人で行きたいところがあるんだ」


「私も買い物に行きたいです。ここにしかない薬草を買いに行きたいので」


「じゃあ、また後でこの場所に集合しよう」


解散して、別々の方向に歩いて行った。


僕は、ラザロの店に行くつもりだった。

アナトリカの後に立ち寄る約束をしていたし、買いたいものもあったのだ。


確か以前食事をしたレストランの近くだと言っていた。

レストラン近くを探していると宝石店があった。小さいが洒落た造りの店だった。

入ってみると、ラザロがいた。

旅の時とは違って、小綺麗な服を着ていて少し気取った雰囲気だった。


「ラザロ、久しぶり」


「これはこれは、タクミさんじゃないですか。来てくれると思ってましたよ」


ラザロは商売用の笑顔を見せた。

さすが、根っからの商売人だ。僕の名前もしっかり覚えてくれている。


「どうぞ、自由にご覧ください」


店内を見て回った。どれもこれも美しい宝飾品ばかりだ。

僕はユイの水晶を壊してしまったお詫びに、何かプレゼントをしたいと思っていた。


「ユイさんへのプレゼントですか?」


「えっと、そうなんだ」


こちらのニーズまで把握している。恐るべし……。


「ユイがつけていたペンダントと同じ様なものはあるかな?」


「ユイさんのペンダントは東の大陸の水晶でしたね。あれは希少なものなので、ほとんどこの国には入ってこないんです」


そうか。同じ様なものは無理だとすれば、違うものにするしかない。

ペンダント以外のアクセサリーも色々あった。

だが、指輪はさすがに恋人ではないからやめておくとして、ブローチやイヤリングは普段つけてないから好きなのかどうかわからない。


だとしたらやっぱりペンダントだろう。

ユイはヒビが入ってしまったペンダントを、身につけずに大事にしまっていた。

ペンダントを贈ったら代わりにつけてくれるだろう。


並べられたペンダントトップを見比べる。が、どう選べばいいのかわからない。

今までの人生で女性にペンダントを贈ったことなんかない。

僕の経験値が全く足りなかった……。


「ペンダントをお探しですか?」


「そうなんだ。どんなものがユイに似合うかな」


「ちなみに、ご予算は?」


ラザロが探るように聞いてきた。確かに商売人にとってはそこが重要だ。

僕はアナトリカで受け取った懸賞金を、全部つぎ込むつもりだった。


「金貨四十枚で」


急にラザロの目の色が変わった。


そこからの動きは早かった。

ラザロは店の入口に鍵をかけると、僕を店の隅にあった扉の奥に通してくれた。

そこは小さな部屋になっていて、見るからに上質な椅子と机が置かれていた。

おそらく上得意客用の個室なのだろう。なんだか緊張する。


ラザロは、別室から平らな箱をうやうやしく持ってきた。

箱の中には、ペンダントトップがたくさん並べられていた。


ラザロは自分がつけているのと同じ白い手袋を僕に渡して言った。


「普段お店に出していない特別品です。どうぞ、ゆっくりご覧ください」


窓から入る光で、箱の中の宝石達がキラキラと輝いて見える。

こんなところまで計算されつくしているのだろう。


「ユイさんの銀髪には、ゴールドよりもシルバーの方が馴染むでしょう。シルバーのペンダントトップを持ってまいりました」


じっくり眺めているうちに、ある一つに目が留まった。

中央に深い青緑色をした宝石があり、その周囲を細かい銀細工で囲っていて、全体がダイヤの形になっている。リドの額の模様と同じ形だ。


「これ見せてもらってもいい?」


「どうぞ、手に取ってご覧ください」


白い手袋をして、そのペンダントトップを手に取って見た。

丘の上の祠にある聖なる泉の色に似ていて、とても綺麗だ。


「それは、アレキサンドライトという宝石です。陽の光で見ると青緑色ですが、ロウソクの灯りで見ると赤紫色に変わるんです。きっとユイさんに似合いますよ」


色が変わる宝石があるなんて知らなかった。ますます心惹かれた。

後は予算内に収まっているかだ。値段の表示がどこにもない。


「これって値段は?」


恐る恐る聞いてみる。


「金貨三十八枚です」


予算内だとわかってホッとした。これに決めた。


「じゃあ、これをお願いします」


アレキサンドライトのペンダントトップをラザロに渡した。


「ありがとうございます」


ラザロはうやうやしく、そして嬉しそうに言った。

ペンダントトップにチェーンをつけて、綺麗な模様が彫られた小さな木箱に入れてくれた。

まさか異世界に来て宝石を買うことになるとは、思いもしなかった。


ユイは喜んでくれるだろうか……。

緊張と期待で胸が高鳴った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ