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45 麓の街

ガイルは、馬車を街の中心近くにある大きな建物につけた。

首長の執務用の建物らしかった。

音が聞こえたのか、建物の中から首長と長老らしき人物が現れた。


「よく来てくれた。タクミ、ユイ。歓迎するよ」


首長は四十代後半くらいの男性だった。

温和な話し口調だが、キリリと太い眉と大きい目が意志の強さを感じさせる。

しばらく眠れていないのだろうか、目の下にはくっきりとクマができていた。

握手をした手は、分厚くて少し荒れていて、肉体労働をするような人の手だった。

計画を立てるだけでなく、自ら率先して行動する人なのだろう。


首長の横に並んでいるのが長老だろう。

八十歳は超えていると思われる。長い白髪を後ろで束ね、白い髭をたくわえている。

小柄だが筋肉質で、日に焼けた茶色い肌。おそらく長年狩護師をやってきたのだろう。

鋭い眼と貫禄がある佇まいで、故郷のじいちゃんを思い出した。



建物に入ると広いエントランスがあり、その奥に並ぶ部屋の一室に案内された。

部屋は首長の執務室だと思われる。

奥に大きな机があり、その手前に応接台と長椅子と椅子が二脚あった。

長椅子にガイル、僕、ユイが座り、ユイの足元にリドが座った。

向かいの椅子に、首長と長老が座った。


「馬車を用意していただいてありがとうございます」


僕は首長にお礼を言った。


「ガーライルから話は聞いた。遠方から来た君にこの国の未来を託してしまって申し訳ない」


首長は深々と頭を下げた。


「いいえ、僕の故郷の島のためでもあるのです。それに僕だけではなくガイルやユイも一緒ですので」


「ガルヘルムに関して新たな話があります」


ガイルは、僕が話した盗掘者の話をした。

首長も長老も驚いた顔をして聞いていた。そして話が終わる頃には、前にも増して厳しい顔つきになっていた。


「昨晩、警備していた狩護師から、近くの森で大きな獣の陰を見たと報告があった。ガルヘルムだとは断定できないが、餌を求めて動き回っていてもおかしくはない」


首長が言った。

こうなってしまっては、いつガルヘルムが街を襲ってきてもおかしくない。

街を守るために警備を強化しなくてはならないだろう。


「今は警備はどのような状況なのですか?」


僕は首長に聞いた。


「山道への入口や獣道がある場所は、厳重に警備をしている。だが、街と山との境界全体を網羅するには人手が足りない。境界に柵を作ってはいるが、完成まではまだ時間がかかるのだ」


「警備の交代要員もままならないと聞いています。それに、みんな精神をすり減らしていて限界にきているようです」


ガイルが言う。ガイルも警備に加わっていた。

現在も警備に当たっている狩護師仲間の状況は一番良く分かっているはずだ。


「柵が完成していない地区の住民は避難させた方が良いかもしれないな」


長老が言った。見た目よりも若々しくて張りがある声だった。


「避難となると、もっともな理由がなければ、住民達に疑念が広まるだろう」


首長が言った。


「住民達も、様子がおかしいとざわつき始めています。いっそ公開した方がいいのではないですか? 何かが起こってからでは取り返しがつきません」


ガイルが首長と長老を交互に見ながら言った。

二人は難しい顔をして考え込んでいた。


「凶暴な熊が麓に降りてきたとでも話して避難させよう」


長老が言った。

こうなってしまっては、もう待ったなしだ。


「僕らは明日にでもヴォラス山に出発したいと思ってます」


「ガイルにも言ったが、我々は君達に必要なものは何でも提供する。人員でも武器でも装備でも、何でも言ってくれ」


「ありがとうございます。三人で相談するので時間をください」


僕らは退室した。

その部屋では引き続き首長と長老が、街民の避難について話し合うようだ。

首長に呼ばれて、別室にいた数人が部屋に入って行った。


別の空いている部屋に入って、今後のことを相談することにした。


「まずは武器や装備についてなんだが、必要なものはあるか?」


ガイルが僕とユイに聞いた。


「防寒具が欲しいんだ。ヴォラス山はこの時期はかなり寒いと聞いたから」


「わかった、任せておけ。いい店を知ってるから後で買いに行こう。ユイはどうだ?」


「これの補充をしたいのですが」


ユイは腰に下げていた袋から、『クナイ』によく似たものを取り出した。

忍者が戦う際に使う、敵に投げる小型のナイフのような武器だ。

以前ユイから基本的な格闘術を身につけているとは聞いたが、こんな飛び道具も使うとは知らなかった。


「武器屋にあるだろう。これも後で買いに行こう。ユイは防寒具はどうだ?」


「自分だけなら結界で寒さも防げます」


結界師は、知れば知るほど有能だ。


「武器や装備についてはそれでいいな。次は、人員についてだ。首長は必要なだけ人員も出すと言っているが、どうしようか」


「でも、今は討伐隊の希望者はいないんだよね」


「討伐隊はな。だが、ガルヘルムは大勢でいれば襲ってこないから、北の祠まで大勢でついてきてもらえば、安全に行けるだろう」


「そうすると、街の警備が手薄になっちゃうよね」


「それはそうだな。警備を強化するから、人手は今以上に不足する筈だ」


「ガルヘルムはこの近くにまで現れたんだよね。今大勢の狩護師が山に入って行ったら、逆にこの街を襲ってくるかもしれない。それだけ狡猾な奴みたいだし、飢えているなら何をしてくるかわからない」


「その可能性もあるな」


僕はユイがガルヘルムと闘うことを避けたいと思っていたのだが、この状況で人員を出してもらうわけにはいかない。それに、武器まで準備してやる気になっているユイにダメだと言うのは失礼だと思い直した。


「僕たちだけで出発しよう」


「ああ。俺は元々そのつもりだった」


「私もそれがいいと思います」


三人の意見が一致した。気持ちも一つになっている。


「よし、決まりだな。首長に話してくるよ。その後、街に買い物に行こう」



***



衣料品店に行くと、様々なものが並んでいた。


「何を揃えたらいいだろう」


「そうだな、まだ冬でもないから、弓を引く時に邪魔にならない程度にしておこうか」


今の服装に付け加える防寒具として、ハイネックのインナーウェア、毛皮のベスト、指が出ている手袋、レッグウォーマーを購入した。


次は、武器屋に行った。

ユイが持っているクナイと同じものは無かったが、少し小さくて似たようなものがあった。


「この方が軽くて上手く投げられそうです」


「あそこで試してみたらどうだ?」


ガイルが店の隅を指差した。そこには、お試し用の的があった。


ユイは五メートルほど離れたところから、的に向けてクナイを投げた。

軽く投げたように見えたが、クナイは『ビュンッ』と音をたてて、的の真ん中に突き刺さった。

ガイルが『ヒュー』と口笛を吹いた。

すごい。俺の弓矢よりも精度が高いのではないだろうか……。



買い物が終わると、ガイルは首長が手配してくれたという宿屋に案内してくれた。

街で一番いい宿屋で、一番いい部屋を準備してくれていた。


夕食に誘ったが、ガイルは自宅に戻ると行った。

確か、奥さんと息子が二人いると言っていたな。

明日から危険な旅になる。無事に戻れる保証はないのだ。

今日はゆっくりと一家団欒を楽しんでくれるといい。


明日の朝、宿屋の一階に集合することにして、ガイルと別れた。


ガイルが勧めてくれたレストランで、ユイと食事をした。

普段は混んでいるそうだが、客は少なく静かだった。

『凶暴な熊が麓に降りてきた』という話が既に広まっているのだろう。

恐怖で家に閉じこもる気持ちはわかる。


お酒を飲む気分にもなれず、簡単に食事を済ませて宿屋に戻った。

ユイとリドにおやすみを言って、それぞれの部屋に分かれた。

一番いい部屋だけあって、広々としてベッドもフカフカだった。



明日からいよいよ本番だ。

ベッドは快適なのに、なかなか眠りにつけなかった。



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