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44 馬車

僕らの決起会が終了した。


テーブルには、空になった皿が大量に並んでいた。

今日はみんなよく食べた。ユイの皿には海老の尻尾が山のようになっていた。

新鮮な海の魚貝類が食べられるのはこの街だけだから無理もない。

そういえばノートスの市場では干物しか見かけなかった。


いつものように支払いをしようとすると、ガイルに静止された。


「首長から食事代も預かってきてるんだ」


アナトリカの首長から……? そういえば、さっきも首長に言われて馬車で来たと言っていた。

明日その経緯を詳しく聞かなくては。


宿屋に戻り、各部屋に分かれた。

なるべく早く帰りたいので、朝早く出発するとのことだ。

『早く起きる、早く起きる、早く起き……』呪文の途中で寝てしまっていた。



***



翌朝、早く目が覚めた。窓から朝日が入ってきている。

外を見ると建物の隙間から海が見えた。水平線は朝焼けでオレンジ色に輝いていた。


一階の食堂へ行くと、ガイルとユイがテーブルについていた。

リドもユイの足元にいた。


「おはよう。遅くなってごめん」


「いや、俺らも今来たところだ」


席に着くと、すぐに食事が出てきた。

昨日たくさん食べたので、まだ胃の中に残っている。

シーフードサラダを食べて、サンドイッチの半分とベーコンエッグはガイルにあげた。

朝食が美味しい宿屋というだけあって、サラダもサンドイッチも美味しかった。

リドは山羊のミルクをもらったようで、満足気だった。


食事が終わると、部屋に戻って身支度を整えて一階に降りていった。


既にガイルが支払いを済ませたところだった。

自分の分だけでも払うと言ったが、首長からお金を預かっていると言って払わせてくれなかった。

ガイルは食堂から袋一杯の何かを受け取っていたが、間違いなく食料だろう。


宿屋を出ると、馬車が準備されていた。


今まで乗ってきた荷馬車と違って、人が乗る専用の馬車だ。

幌付きの荷馬車と似ているが、三分の一くらいの大きさで軽量化されている。

御者の席の後ろに、前向きの座席があった。三人くらいは余裕で乗れそうな広さだ。

座席にはクッションも付いていて、乗り心地は良さそうだった。


「これは首長専用の馬車なんだが、特別に貸してくれたんだ」


「え? 首長って街のトップってことだよね。いいの?」


これって、VIP待遇じゃないか。ガイルは一体どんなことを首長に話したんだろう。


「まあ、いいから乗ってくれ」


馬車には、御者側から乗り込むようになっていた。

僕とユイとリドが乗り込むと、ガイルは御者の席に着いた。

ユイは馬車に乗り込んでからフードを取った。


「出発するぞ。急ぐからちょっと揺れるが我慢してくれ」


馬車が動き出した。

まだ人通りが少ない街道を、馬車が進んでいく。

荷馬車に比べると、倍以上の速さだ。景色が流れる速さが明らかに違っていた。


しばらくすると街を抜けて道が土になった。少し揺れはしたが問題なかった。

道が内陸の方に曲がり、海が遠ざかっていった。


ガイルが話し出した。


「悪いが、タクミのことや結界のことを首長と長老に話させてもらった。ガルヘルムの討伐とも関係するからな」


「それは構わないよ。その方が僕だって動きやすくなるだろうし」


危惧しているのは、結界が不安定になっていることが知れ渡ってパニックになることだ。

そこがわかっていて上手く差配できる人にバックアップしてもらえるのはありがたい。


「首長と長老ってどういう役割なの? 一緒じゃないの?」


「ああ、タクミの島は制度が違うのか。この国では街の運営を首長と長老が共同で行っているんだ。首長は政治やお金に関することを掌管していて、街民によって選ばれる。長老は幅広い知恵と人脈を持っている人物で、先代から指名されるんだ。代々、狩護師のなかから指名されている」


現代の民主的なところと、昔ながらの村的なところを、融合したような運営方法なんだな。


「この国ってことは、ミロステアもそうなの?」


ユイに聞いた。


「そうです。ミロステアでは、巫女長が長老をやっていますよ」


巫女長を長老と呼ぶのはイメージが合わないが、役割としては確かに知恵と人脈を持っていそうだからピッタリだ。長老というのは役職名のようなものなのだろう。


「それで、首長と長老は何て言ってるの?」


「俺たちに全面的に協力してくれるそうだ。必要なものは全て提供すると言ってくれている」


良かった。ネイトと話した後に少し心配していたのだ。

ネイトは討伐は自分ら狩護師でやるから、警備要員として来てくれたら助かると言っていた。

この状況で僕なんかがヴォラス山に行くと言ったら、止められるんじゃないかと。



馬車は休憩所に立ち寄った。

かなり駆け足なので、こまめに馬を休憩させなくてはもたないのだ。

ガイルは馬に水と餌をあげていたが、餌に回復薬を混ぜていた。


「結界師が作る薬って、馬にも効くんだね」


「ええ。人間だけでなくて動物にも効きますよ。リドが大怪我を負った時も、薬で回復しましたから」


馬は回復薬のおかげですっかり元気になったようで、すぐにでも走りたそうに土を蹴っていた。


休憩所を出るとき、リドは馬車に乗り込まなかった。

馬車が出発すると馬と並んで走り出した。リドにとっては散歩のつもりなのだろう。

馬は初めのうちはリドに警戒していたが、すぐに慣れてきたようで仲良く並んで走っていた。


馬車はその後も順調に進んだ。

昼の休憩では、宿屋で作ってもらったサンドイッチを食べた。


途中で何度か休憩を挟んだが、かなり進んできた。

ずっと緩やかな坂道を上がってきたので、標高も高くなっているだろう。

やがて空が暗くなってきたので、休憩所に入った。


ガイルは馬の世話をすると言うので、僕が火を起こした。

今日は鍋がないのでスープは作れない。

代わりに、ガイルが買ってきたハムを厚切りにして串に刺して焼いた。

途中でハムにチーズを乗せて焼き、チーズが溶けてきたところでパンに挟んで食べた。


夜は、馬車の座席の背中の部分を後ろに倒して、少し斜めの状態で眠った。

夜行バスの座席を思い出した。

僕とユイの間にリドが寝たので、リドの毛が暖かかった。

ガイルは寝袋のようなものを持ってきていて、休憩所にあった物置小屋で寝ていた。



翌日も、朝早く出発した。空にはうろこ雲が出ていた。

坂が多くなり少しペースは落ちたが、昼過ぎにはアナトリカの街に到着した。


街に入ると、馬車の速度を落としてゆっくりと進んだ。

今までの街よりこぢんまりとしていて素朴な雰囲気の街だった。

人通りは少なく、街全体がそれほど活気がないように見える。

アクティの後なので、余計にそう感じるのかもしれない。


そして、どことなく陰鬱な空気が流れていた。



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