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43 団結

「ガイルじゃないか!」


「タクミ、ユイ、会えてよかった。これから探し回ろうと思ってたんだ」


「てっきりアナトリカで待ってるのかと思った」


「そのつもりだったんだがな、訳あって迎えに来た。色々と話しておきたいこともあるしな」


話したいこととはガルヘルムの討伐についてだろう。僕も共有したいことがあったから丁度いい。


「ん? その犬は」


ユイの足元にいるリドに気がついた。リドはガイルに警戒しているようだった。


「もしかして、狼犬か?」


「はい。リドといいます。私の家族です」


「よく一目で狼犬だとわかったね」


街中で見たら、大型の犬だと思うのが普通だ。

なんですぐに狼犬だと分かったのか、不思議に思った。


「ああ。強くて賢いから、狼犬を猟犬として飼うことは狩護師の夢なんだ」


「戦力になるかと思って連れてきたんです」


「間違いない。すごい戦力だ」


ガイルはずっとリドから目を離さずに言った。

もしかして、自分の猟犬にしたいと思っているのではないだろうか、と少し思った。


「これから宿屋を決めて荷物を置いてから食事に行こうと思ってたんだ」


「じゃあ、俺が泊まる宿屋にしないか? すぐそこだ」


ガイルが泊まっている宿屋に連れて行ってくれた。


「ここが、朝食が美味しい宿屋です」


ユイが小声で教えてくれた。



宿屋で部屋をとって荷物を置いた後、一階に降りていった。


「今日は、決起会だ。俺のおすすめの居酒屋でどうだ? 海鮮が美味しい店なんだ」


僕もユイも賛成したので、海鮮が美味しい居酒屋へと向かった。



日が暮れかけて、辺りは薄暗くなってきた。

アクティは東側に海があるので海に落ちる夕陽は見られないが、ほんのりピンクとオレンジが混ざった空が海に映って美しかった。

潮の香りが混ざった風は湿り気を増して、肌寒さを助長していた。


居酒屋は、海鮮市場のすぐ近くだった。

扉を開くと、まだ早い時間なのにすでに賑やかで騒がしかった。


「いらっしゃいませ」


料理を運んでいる途中の女性が声を掛けてきた。綺麗な女性だった。

運び終わるとすぐにこちらにやってきた。


「大事な話をしたいんだ。隅の方の席にしたい」


女性が案内してくれたのは壁際の席で、さらに前後が壁で仕切られていたため半個室のようになっていた。ここならよほど大声でもなければ、会話が聞こえることはないだろう。


「適当に注文しちゃっていいか?」


メニューを見ながらガイルが言った。


「うん。海老とイカの料理もお願い」


「イカはゲテモノじゃないのか……」


ガイルがつぶやく。

確かに、見ようによってはイカもゲテモノっぽくはある。


先ほどの女性が注文を取りに来た。美人だな、とまじまじと見てしまった。

もともと整った顔立ちにばっちり化粧をしていて、切れ長の目とふっくらした唇が強調されている。

長い髪を結い上げているが、顔の横に垂らした後れ毛がセクシーだ。

そして豊かな胸を目立たせるような露出多めの服で、つい胸元に目が行ってしまう。


「ガイル、いつも来てくれてありがとう」


「いつもに増して混んでるな」


「二日前に東の大陸からの船が着いてね、その船乗り達が来てくれてるの」


他のテーブルを見ると、同じような服を着た集団がいた。さっき帆船に木箱を積み込んでいた人達と同じ服だ。

ゆったりとしたシャツにベスト、ゆったりとしたパンツの裾をブーツに入れている。

おそらくあの人達が、東の大陸から来た船乗りなのだろう。

横に座っていたユイは、これまでよりも深くフードを被った。


ガイルはいくつかの料理を注文した。けっこう量が多そうだが大丈夫か?


「ここは、昔からよく来ている馴染みの店なんだ。さっきの娘はアンナといって、この店の看板娘なんだ。美人だろう?」


「そうだね。キレイな人だね」


「アンナが目当てでこの店に来るやつも多いんだ。俺はもちろん料理が美味いからだぞ」


大丈夫。それは疑ってないよ。ちゃんとわかっている。

ガイルはただの大食いなわけじゃなくて、グルメだってことを。


アンナがビールを注いだジョッキを三つ持ってきた。


僕の視線を感じたのか、アンナは僕にジョッキを渡す時に軽くウィンクしてくれた。


「おい、タクミ。顔が赤いぞ」


ガイルがからかって言った。

違うんだ。デレてるんじゃなくて、見ていたことがバレて恥ずかしくなっただけなんだ。

すると、横に座っているユイの方からひりつくような気配を感じた。ユイを見ると、フードを深く被っていて表情が見えない。

もしかして怒ってる? いや、気のせいだろう。


「よし。今から決起会だ。明日から忙しくなるからな」


三人で乾杯した。リドも山羊のミルクをもらって飲んでいた。


「それで、なんでガイルはわざわざ迎えに来てくれたの?」


「首長にお前のことを話したんだ。そしたら、少しでも早く来て欲しいと言うので、馬車で迎えに来たんだ」


首長がわざわざ……。期待してもらっているのか?


「あ、でも明日のアナトリカ行きの荷馬車を予約しちゃったよ」


「大丈夫だ。さっき解約してきた」


「え? 今日会えなかったらどうするつもりだったの?」


「その時は、明日荷馬車屋の前で待ってるつもりだったんだ。でも会えてよかったよ」


なかなか強引な方法だが、確実ではある。



料理が次々と運ばれてきた。

魚と野菜を煮込んだもの、いろんな貝のガーリック炒め、魚介のアヒージョ、イカのフライ、それから山盛りの海老のソテー、などなど。けっこう盛りだくさんだ。


「美味しい! 本当に全部美味しいよ」


ガイルと一緒だと、いろんな種類が食べられるのが嬉しい。

たくさん注文しても、残る心配をしなくていいからだ。


「この海老、とっても美味しいです!」


珍しくユイもたくさん食べている。かなりの海老好きのようだ。

しばらく絶品の海鮮料理を堪能した。


少し落ち着いてきたら、自然とガルヘルム討伐の話になった。


「ネイトを寄越してくれてありがとう。討伐隊の話は聞いたよ。苦戦してるみたいだね」


「そうなんだ。その後に、二度、討伐隊が出たんだ」


ガイルの話によるとこうだった。


二回目の討伐隊は、狩護師八人、結界師二人の、合計十人と、おとりとして山羊を連れて行った。

おとりの山羊を木に繋ぎ、近くに五人ずつが身を潜めて待っていた。ガルヘルムが山羊を襲ってきたら、全員で取り囲む手筈だったのだ。

だが、ガルヘルムは疾風のような素早さで山羊を奪って逃げていった。

あまりの速さに対応できず、数本の矢を射るのが精一杯だったのだが、その矢も届かなかった。


三回目の討伐隊は、狩護師八人、結界師二人の、合計十人でヴォラス山に向かった。

狩護師三人、狩護師二人と結界師一人、狩護師二人と結界師二人の三つのグループに別れた。

狩護師三人のグループがおとり役となり、他のグループがその近くの藪に身を潜める。ガルヘルムがおとり役を襲ってきたら、他のグループが一斉に周りを取り囲む作戦だった。


おとり役は、わざと声を上げたり目立つ行動をしてガルヘルムを誘い出そうとした。ところが、ガルヘルムが襲ってきたのは、身を潜めていた狩護師二人と結界師一人のグループだったのだ。


慌てて全員が集まってくると、ガルヘルムは逃げて行った。

だが、狩護師一人と結界師一人が、ガルヘルムの爪に引き裂かれて重傷を負ってしまった。

身を潜めていたグループは、離れたところから闘うことを想定して、弓矢を使う者を配置していたのだ。接近戦では防戦すらままならなかったという。


「ついに人間の被害が出てしまった」


ガイルは苦痛に満ちた表情だった。


「いや、ずっと前から人間の被害が出ていたみたいだよ」


僕は、ラザロから聞いた海外から来た盗掘者の話をした。

内緒と言われていたので、情報の提供元は秘密にして詮索もしないことをガイルに約束してもらったうえで話した。


「それでその人の話だと、すでに二十人以上の盗掘者が山に入ったまま姿を消しているそうなんだ」


「なるほど。海外から来た盗掘者か。それなら俺たちにも情報が入らなかったはずだ」


さすがの狩護師ネットワークでも、闇ルートで流れる情報まではキャッチできなくて当然だ。


「普通に考えたら、その盗掘者達はガルヘルムに襲われたってことになりますよね」


ユイが言った。


「そうなるな。ガルヘルムからしたら、待っていたら獲物が向こうから次々にやってきたというわけだ」


「そうだ、思い出した。一人だけ生還してアナトリカで治療を受けている人がいるはず。その人から何か新しい情報が聞けるかもしれない」


「ああ、思い当たる奴がいたよ。旅行中に転んで怪我をしたとか言って治療を受けてた。でも治療した結界師の話だと、どう見ても転んだ怪我ではなかったそうなんだ。ガルヘルムのこともあったから回復したら話を聞こうと思っていたんだが、ある朝忽然と姿を消していたんだ」


そうか、もう逃げられた後だったか。


「生還した盗掘者から、闇ルートにガルヘルムの話が広まるのは時間の問題だろう。そうしたら、もう盗掘者はやってこないってことだな」


ガイルがそう言った後、少し沈黙があった。


「ガルヘルムの餌が無くなったってことですね」


言いにくいところを、ユイがズバリと言ってくれた。

盗掘者とはいえ、同じ人間が食べられるのは気持ちのいいことではない。

まあ、ここにきて善人ぶったところで意味がないか。


「今までは、盗掘者が餌食になっていたおかげでこちらに被害が来なかったんだよね。それが無くなったとなると次は……」


最悪のことが頭をよぎった。おそらく、ガイルもユイも同じことを想像しただろう。

もう、待ったなしなんだ。


「次の討伐隊の予定はどうなってるの?」


「前回、怪我人が出てしまったからな。ガルヘルムの凶悪さが狩護師の間で伝わって、討伐隊に名乗りを上げる人がいなくなったんだ。警備をしてる者達の士気も下がってる」


僕はガイルを見た。ガイルの士気は下がっていない。むしろボルテージが上がっているようだ。

ユイを見た。フードの奥から力強く僕の目を見て、ゆっくりと頷いた。



「僕らの出番だね」



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