41 盗掘者
「盗掘者の噂ってどんな?」
「しっ。聞かれたらマズイです」
ラザロが仕切りの向こうのアレクシスを気にして言った。
しっかり仕切られているので大丈夫だとは思うが、念のため小声にした。
「それで、盗掘者の噂って?」
「これは、宝石商仲間から聞いた話なんですが、くれぐれも内密にしてください」
僕たちが頷くと、ラザロは小声で話し始めた。
ラザロの話はこうだった。
以前から北の山には金塊が大量に採れる洞窟があるという噂がまことしやかに流れていた。
誰かがホラを吹いたのだろう、と最初は誰も相手にしていなかった。
だが、あるとき実際にそこで金塊を見つけたという男が現れた。
ラザロの仲間の宝石商のところに、金塊を持ち込んだのだ。
その男は、海外から来た盗掘者だったらしい。
この国の中でさえ一部の人しか知らない噂が、なぜか海外の盗掘者に伝わっていた。
どうやら、そういう情報を扱う闇のルートがあるらしかった。
金塊発見の話を聞いて、海外のある盗掘者がヴォラス山に向かった。
だが、一ヶ月以上経っても帰ってこなかった。
もし金塊の洞窟が無かったのなら、ある程度探した時点で諦めて帰ってくるはずだ。帰ってこないのは、きっと洞窟を見つけてせっせと金を採掘しているからだろう。
もしかしたら、独り占めしようとしているのかもしれない。
そう考えた盗掘者たちが、続々とヴォラス山にやってきた。
そして、次々と山に入って行った。
だが、誰一人として戻って来なかった。
「どのくらいの盗掘者がヴォラス山に行ったの?」
「正確にはわかりません。盗掘しようという奴らなので、あまり目立たないように行ったはずです。ですがおそらく、全部で二十人はくだらないでしょう」
あるとき、ついに一人だけ山から戻ってきた。
その男は大怪我をしていて、アナトリカで治療を受けたのだそうだ。
その男の話では、三人で山に入ったのだが、山の中で大きな熊に襲われたという。
他の二人は熊にやられた。自分だけ命からがら逃げてきたというのだ。
「大きな熊……」
「暗かったのでよく見えなかったようですが、かなり巨大な熊だったそうです。助かったのは奇跡だったと」
「その男って、まだアナトリカにいるの?」
「さあ、どうでしょうか。盗掘しに来たのがバレるといけないので、動けるようになったらすぐに海外に逃げたと思いますよ」
「そうか、身元を隠していたんだね」
「そうです。旅行のついでに山に行ったら転んで怪我をした、ということにしてたようです。そして、こっそり僕の知り合いの宝石商に連絡してきたんです。どうやら、金が採れたら引き取ってもらう約束をしていたらしくて」
そういうことか。
巨大な熊はガルヘルムで間違い無い。やっぱりガルヘルムが関係していた。
「その噂って、この国ではどのくらい広まっているの?」
「宝石商の中の一部の人しか知りません。さすがに盗掘者とのつながりがあることがバレると危ないですからね。ですからくれぐれも内密にしてくださいよ」
「わかった。でも、そんな秘密をなんで僕達に教えてくれたの?」
「それは、せっかく仲良くなった君達に危険な目にあって欲しくなかったからですよ。だから絶対にアナトリカに行っても山には近づかないでください」
ラザロは真剣な口調で言った。
「あと、ついでにアナトリカの後には是非リムネーの僕の店に寄ってくださいね」
それが本音なんだな。貴重な情報の代わりに宝石買ってね、というわけだ。
まあ、商人にとってそれくらいの取り引きは日常なんだろう。
ラザロを見て、人が良さそうだけど大丈夫かと心配していた自分が馬鹿らしくなった。
けして悪い人間ではないのだが、食えない奴だった。
もしかして、盗掘者と繋がっているのはラザロなのでは? とも思ったが、そこはあえて突っ込まないことにしよう。
「貴重な情報をありがとう。気をつけるよ。あと、アナトリカの後にリムネーに行ってラザロの店に寄るよ」
ラザロは満足そうに頷いた。
***
陽が傾いてきて、荷馬車は休憩所に入った。
夕食の時間になった。
昨日のように火を起こして、僕とユイは具沢山スープを作りはじめた。
残った食材を全部使い切って、昨日よりもさらに多めに作った。
少し昨日とは味を変えようとユイがハーブやスパイスを入れてくれた。
スープを仕上げていると、僕のところにアレクシスが近寄ってきた。
「これを皆さんでどうぞ」
ワインを三本渡してくれた。ノートスで仕入れたものだろう。
「ありがとうございます!」
アレクシスは不器用な笑顔で応えた。
その日の夕食は、大いに盛り上がった。
アレクシスも焚き火の輪に加わっていた。
アレクシスからワインが提供されたことを話すと、歓声と拍手が起こった。
みんなに注目されてアレクシスは照れ笑いをしていたが嬉しそうだった。
ワインはとても芳醇な香りとまろやかな味わいでとても美味しかった。
僕たちも御者たちも、みんな酔っ払って上機嫌になっていた。
あちこちで笑いが起こり、歌い出す者もいた。
ラザロはアレクシスに熱心に宝石の話をしている。いい取り引きにつながればいいが。
ユイはワインが好きなようだ。少し酔って顔が赤くなっている。
僕は、賑やかな宴会を眺めながら、ぼんやりと明日のことを考えていた。
港街アクティに到着するんだ。海外との窓口でありこの国で一番栄えている街だ。
「明日はいよいよアクティに到着だね。どんな街か楽しみだ」
「……アクティは久しぶりですか?」
ユイが言った。いや初めてだと言い掛けて、ハッと思い出した。
僕は遠い島からここに来たという設定なのだ。
港があるのはアクティだけだ。行ったことがないのはおかしい。
「あ、ああ。アクティに到着した時はすぐにノートンに向かったので、街はあまり見ていないんだ」
危なかった。うっかり設定を崩してしまうところだった。
「私はアクティには何度も行きました。銀髪の種族の情報を探していたので」
そうか。ユイはアクティの商店の前に置き去りにされたいたのだ。
そのことを思い出して、浮かれていたのが申し訳ない気分になった。
「私のことは気にしないでください。何とも思っていません。それより、アクティの街は詳しいのでよかったら案内しますよ」
「ぜひお願いするよ」
ユイがアクティの街を案内してくれるのか。楽しみだな。
何だかデートの約束をしたような気分だ。
僕がユイとのデートを妄想していたとき、ユイは何故か黙り込んでいた。
「タクミ。……聞いてもいいですか?」
「うん、いいよ。何?」
「この旅が終わったら、ガルヘルムを倒して北の祠の水晶玉を回復させたら、タクミは故郷の島へ戻るのですか?」
ハッとした。酔いが覚めていくような気がした。
「……ああ、島へ戻る予定だ」
「そうですか……。そうですよね……」
沈黙が続いた。
御者たちの笑い声だけが響いていた。




