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33 終点

山を下って平地に出ると、分かれ道に出た。


「ノートスの街には行かずに、直接コウの家でいいだろ?」


「うん。このまま航さんの家で」


右の道へ進み森の中へ入っていった。

しばらくすると、なんだか見覚えがある景色の場所に出た。そうだ、航さんの家の前に続く道だ。森を抜けるとすぐ前に航さんの家が見えていた。


扉をノックする。しばらくして航さんが現れた。


「拓海!」


「航さん、ただいま」


「おかえり。ガイル、ユイ、お疲れさま。さあ、お茶でも飲んでいってくれ」


僕たちを家に上げると、航さんはハーブティーを淹れてくれた。

久しぶりに飲む航さん特製のハーブティーだ。


「コウ、最初に謝らせてくれ。タクミを危険な目にあわせてしまった」


ガイルが立ち上がって、航さんに頭を下げた。


「違うよガイル。それは僕のせいだって」


ガイルは僕がミロステアからの帰路で崖から落ちたことを話した。それに続いて僕が、自分の不注意だったこと、ガイルは充分に注意喚起してくれていたことを話した。

航さんは最後まで黙って話を聞いていた。


「旅に危険が伴うのは承知の上だ。ガイルのせいじゃない。これもいい経験になっただろう」


航さんがそう言ってくれてホッとした。

もし航さんがガイルに怒るようなことがあれば、北の祠への旅を一緒に行けないんじゃないかと心配していたのだ。

まあ、航さんなら冷静に判断してくれるとは思っていたのだが。



それから僕は旅の報告をした。

巫女長から聞いた水晶玉の異変のこと、ヴォラス山の怪物ガルヘルムのこと、この国と美波戸島の異変をくい止めるには北の祠に行かなくてはならないこと、それから、北の祠への旅にガイルとユイが一緒に行くと言ってくれたこと。

詳細は後から話すとして、重要なことだけをかいつまんで話した。


「そうか。そんな事になっていたのか。拓海もいろんな経験をしたみたいだな」


航さんは話を聞き終わると静かに言った。

事の重大さがわかっているのだろうかと心配になるほど冷静だった。


ガイルとユイは、次の旅の計画をしようと言った。


「問題はガルヘルムの討伐が成功したかどうかだな。それによって、必要な人員や装備も変わってくる。もし失敗したとしても、何らかの情報は得られているはずだ」


ガイルが言った。確かに討伐の結果がどうだったかの情報は重要だ。


「討伐の結果って、いつわかるんだろう」


「そろそろ伝わってくるはずだ。わかったら報告するよ」


「どちらにしろ、女神の聖水が完成したら出発ですよね。完成はいつ頃になりそうでしょうか?」


ユイが聞いてきた。


「巫女長は一ヶ月くらいかかると言っていて、あれから一週間は経っているから、あと三週間ちょっとくらいかな」


「わかりました。三週間後からノートスの仕事仲介所に宿泊して待機しておきます」


「そうしてくれると助かるよ」


確か巫女長は聖水が完成しだいここに届けてくれると言っていた。

もしミロステアで聖水を作っているのならユイに届けてもらおうかと思ったが、女神がどこにいるのかわからないとも言っていたのでやめておいた。

どうやって届けてくれるのだろうか。


「ガイルはどうする?」


「アナトリカの状況しだいだな。これから一旦戻って、人手が足りないようだったらそのまま滞在するのでアナトリカで集合にして欲しい。どちらにしろ連絡するよ」


「わかった」


ガイルとユイはこの後仕事紹介所に行くと言った。僕は家の外まで見送った。

二人の姿が見えなくなると、本当に旅が終わったのだなと寂しい気持ちになった。



***



「なんか逞しくなったじゃないか」


居間に戻ると、航さんが僕の姿を見て言った。


「そうかな。あんまり自分じゃわからないや」


「ガイルとユイともずいぶん仲良くなったみたいだな」


「うん。さすが、航さんイチオシのメンバーって感じだったよ。実力もそうだけど、人として信頼できて本当にいい仲間だった」


「良かったよ。いいチームになったみたいだな」


僕は、航さんとの約束を破ったことを謝った。

異世界から来たことは言わなかったが、今回の旅の本当の目的を話してしまったからだ。


「そんなことは構わないさ。タクミがそうすべきだと思ったのなら。それに、そのおかげで二人とも北の祠に行くと言ってくれたんだろう? いい判断だったよ」


航さんはそう言ってくれた。



「それは?」


航さんは弓と矢筒を指差した。


「途中で宿泊した山小屋に置いてあったので、もらってきたんだ。ガイルと狩に行ってこれでウサギを捕まえたんだよ」


「そうか、タクミは弓道部だったもんな。こんなところで役に立つとはな」


「北の祠に行くまでに、もっと腕を上げないと。ガルヘルムと闘うことになるかもしれないからね」


航さんは弓を手に取って見た。


「ん? ここは修理してあるな」


「これは僕が崖から落ちた時に折れちゃって、ガイルが修理してくれて……」


それで思い出した。御守りのことだ。


「そうだ、崖から落ちた時、この御守りに守られたんだ。これって一体何だったの?」


首から下げていた空っぽになった皮袋を取り出して航さんに見せた。


「ああ、それはな……後で話すよ。それより、島に戻る方法はわかったのか?」


「それは、女神にしかわからないんだって。巫女長は、この国を救うために女神が僕をここに呼び寄せたのだと言っていた。だからこの国を救ったら女神が元の世界に戻してくれる筈だと」


「そうか」


さっきから航さんは僕の話にあまり驚かない。淡々と聞いている感じだ。

ある程度、想定済みだったのだろうか。


「疲れただろう。夕食を作るよ。風呂が沸いてるぞ。タクミはゆっくり風呂に入ってこい」


「あー、嬉しいよ。山小屋も宿屋もお風呂が小さくて、ゆったりできなかったんだ」


「うちの浴槽は特注なんだ」


航さんは得意気に笑った。



***



久しぶりにゆったり湯船に浸かった。

ああ、生き返る〜〜。実際、本当に死にかけたからな。


本当に逞しくなったんだろうか。僕は自分の身体を見た。

全く意識していなかったが、確かに少し日焼けもしたし筋肉もついたかもしれない。

ガイルのせいでハードな獣道を通ったし、そういえば狩にも行ったな。

だがそれよりも、自分では精神面が逞しくなったような気がしている。

なにせ、あのガルヘルムと闘うつもりになっているのだから。


身体が温まって少し眠くなってきたので、風呂から上がった。


居間に戻ると、いい匂いがしていた。


「夕食ができてるぞ。座ってろ」


何だか今日の航さんはすごくサービスがいい。

旅から戻ってきた僕を労ってくれているのだろう。


「ほら、チャーハンだぞ。お前が戻って来ると思って米を炊いておいたんだ」


「米だ! ありがとう」


ん? 僕が戻ってくると思って? 僕が今日戻ってくるのがわかっていたのか?


いや、わかる筈がない。もしミロステアを出たときに誰かが伝書鳩を飛ばしていたとしても、僕が崖から落ちたせいで二日以上遅れたのだ。


「なんで僕が今日戻ってくるってわかったの?」


航さんはニヤニヤしている。いたずらっ子の顔だ。


「いいから、冷めないうちに食べろ」


「じゃあ、いただきます!」


久しぶりの米は、僕のお腹と心を満足させた。素材の味を活かした優しい味のスープも美味しかった。そういえばガイルのスープは少し味が濃かったかもしれない。


「ご馳走さまでした。お腹いっぱいになったよ」


お腹が満たされると、途端に眠くなってきた。

自分でも目が半分しか開いていないのがわかる。


「お前、眠たそうだぞ。疲れてるんだから今日はもう寝たらいい」


航さんが僕の顔を見て笑いながら言った。


「そうする。旅の詳しい報告は明日にさせてもらうよ」


二階の部屋に行きベッドに横になると、すぐに睡魔がやってきた。

僕も秒で眠れるようになったな、と思った次の瞬間、深い眠りに落ちていた。



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