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外伝 ガーライル②

仕事が早く終わった。

行商人の同行でアクティからノートスまで徒歩で移動する予定だったが、運よく荷馬車の席に空きが出た。空けておいても勿体無いからと、途中の荷下ろしを手伝う事を条件に格安で乗せてもらえたのだ。


珍しく次の仕事の予定までかなり期間が空いている。

力仕事でも何でもいいから働こうと仕事仲介所で探してみたが、これといった仕事の募集はなかった。

ちょうど市場が開催される日だ。市場が終わったら新しい仕事が出るかもしれない。


仕事仲介所の建物の二階以上は宿泊施設になっていて、登録している狩護師や結界師は、仕事を待つ間は安く泊まれる。そして仕事の依頼があると斡旋してもらえるのだ。


仕事仲介所に宿泊すると、翌日、指名の仕事の依頼がきた。

コウからだった。明日からの仕事だ。空いていたのでもちろん引き受けた。

コウからの依頼なら、日程さえ合えば全て引き受けるつもりだ。近況を伝えに行こうと思っていたところだったので丁度いい。

コウの甥が女神詣をしたいらしい。どんな奴か楽しみだ。


待ち合わせ場所のコウの家に行った。

一緒に旅をするのは、タクミという青年だった。

コウと同じく、ちょっと変わった雰囲気をしている。その異国風の服のせいだろうか。

コウの甥だというからわんぱく坊主を想像していたが、なんだか頼りなさそうだ。

辺境の島から来たばかりで、この地に慣れていないせいかもしれない。


そのタクミの印象は、旅の間にどんどん変化していった。


タクミは旅慣れていない割には、獣道でも俺のペースについてきた。

旅の初心者は、たいてい途中で根を上げてペースダウンや道の変更を願い出てくるものだ。

もちろん、相手の様子を見て無理はさせないように調整して歩くが、タクミの場合は食らいついてくるので、ついいつものペースで歩いてしまった。


一緒に狩に行った際には、タクミは初めて扱う弓矢で見事にウサギを捕らえた。

俺は弓矢だけは苦手なので、タクミが弓矢を使いこなしていることに正直言って驚いた。

また弓矢をただの道具としてではなく、丁重に扱っているところにも感心した。

俺は道具を大事に扱う。道具にはそれを作った人の魂が込められているし、使う人の想いも積み重なっていくものだ。だから敬意を持って道具を扱うべきだと常々思っている。


そして何より、狩に対して真摯に取り組んでいることに、とても好感を持った。

俺は狩を遊び感覚でやる奴は嫌いだ。命と向き合っていることを忘れてはならない。

それに、タクミは自分の手柄だと自慢することもなくとても謙虚だった。

とても気持ちがいい奴だ。


タクミとの旅は順調だった。一緒に組んだ結界師がユイだったせいもあるだろう。

ユイの結界のおかげで獣道を快適に進むことができた。


だが、順調に進んだのはミロステアに着くまでだった。



***



タクミは女神の神殿に行った後、何だか様子がおかしかった。

希望していた女神詣が叶ったんだ。それに巫女長にまで会えたという。普通なら目的を達成できて満足するところだろう。

ところが、一人で考え込むことが多くなった。夜も眠れていないようだ。

ユイに聞いてみたが、心当たりがないと言う。ユイも心配していた。


何か問題でも起きたのだろうか。

そういえば、巫女長に会った感想を聞いたときに『本当に知りたかったことは分からなかった』と言っていた。翌日にも巫女長に会いに行ったくらいだから、きっとタクミにとって大事なことだったのだろう。


心配だがタクミの個人的な事だろうから、あまり踏み込んではいけない。

もし俺たちの力が必要な事だったらタクミの方から相談してくれるだろう。



ミロステアからノートスへ移動している途中で、タクミが崖から落ちた。

雨で滑りやすくなっていたうえ、薮から飛び出してきた雉を避けようとしてバランスを崩してしまったのだ。


俺のせいだ。俺があのとき出発する判断をしてしまったから。

崖の下を必死に探した。雨の中でタクミの名前を呼び続けた。

だが、どこにも見つからなかった。


空が暗くなり始めた。俺は絶望していた。こんなに探しても見つからないなんて……。

もしかしたら無事で自力で移動したのかもしれない。一番近くの山小屋に行った。すると、山小屋の前にタクミが倒れていたのだ。

どうやってここまで来たのだろうか。大きな怪我はないようだったが、身体がすっかり冷たくなっていた。

急いで暖炉に火を起こし、タクミの身体を暖めた。


タクミはなかなか目を覚さなかった。

俺の狩護師としての経歴に傷がつくとかは関係なく、ただただタクミに生きていて欲しかった。

タクミ、お願いだから目を覚ましてくれ。


夜になってタクミは目を覚ました。

一旦目を覚ましたものの、まだ予断を許さない。高熱が出ていたのだ。

それに、外見からはわからないが内臓を損傷しているのかもしれない。


またタクミが寝入ったとき、魔除けの仮面を彫った。

何かしていないと悪いことばかり考えてしまう。タクミのために何かしていたかった。

そして、必死に神に祈ったーー。


タクミがまた目を覚ました。

熱も下がってきて無事なようだ。俺は神に感謝した。

その後タクミが完全に復活したので、魔除けの仮面は暖炉にくべた。

タクミは持って帰りたいと言ったが、役目は終わったので燃やして土に還した方がいいと言うと納得してくれた。

こんな奇妙な物を持って帰ってどうするつもりだったのだろう。重たいし部屋に飾るには趣味が悪い。

やっぱりタクミは変わっている。でも、そう言ってくれて少し嬉しかった。



***



タクミとの旅は、これまでのどの旅とも違っていた。

仕事で同行したのだが、タクミとはそれ以上の関係になれた気がした。


友達とも違う……、そう、仲間だ。

これまでは旅の仲間とは言っても、どこか仕事の相手として接しているところがあった。

だが、タクミとは本当の仲間になれた気がしたんだ。


だから、タクミが秘密を打ち明けてくれたときには嬉しかった。

この旅の本当の目的や巫女長と話した内容、それにタクミが持つ能力についても話してくれた。

思っていたよりも重たい話だった。この旅の目的は、故郷の島を救う方法を探すことだったのだ。タクミはそんな重責を担って旅をしていたのか。


さらに、この国の結界を安定させるために北の祠に行くように巫女長から依頼されたというのだ。この国の命運まで背負わせてしまった。


タクミは北の祠に行くと言う。そして、一緒に北の祠に行くメンバーについて悩んでいた。ガルヘルムと闘うことになるかもしれないからだ。

危険な旅に俺とユイを巻き込みたくない、と思ってくれていたようだ。


俺とユイはその旅に志願した。

迷う余地はない。タクミがこの国のために立ち上がろうとしているのだ。


俺は俺にできることは何でもやろうと心に決めた。

この国を救う勇者を支援するために。



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