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外伝 ガーライル①

俺の親父は狩護師だ。

俺が生まれ育ったアナトリカは近くにヴォラス山といういい狩場があったということもあり、狩人や狩護師になる人が多かった。

山に入っては獲物を持ち帰ってくる親父を見て、幼い頃から憧れを感じていた。


俺が初めて親父と一緒に山に入ったのは、六歳のときだ。

親父が狩に出るとき一緒に行きたいとせがんだ。まだ早いと言われたが、俺はなぜだかどうしても着いて行きたかったのだ。

仕方なく親父は連れて行ってくれた。


『そばを離れるな』と言われていたが、草むらからいきなり出てきたウサギを追いかけて夢中になっていたら、気がつくと山の中に一人だった。

何度も親父を呼んだ。返事がないかと耳を澄ますが、奇妙な鳥の鳴き声や葉擦れの音しか聞こえない。歩き回ったが、どこに進んでいるのか方角も全くわからない。


やがて周囲が薄暗くなってきた。大きな木の根元に座ってうずくまった。

歩き疲れてお腹が空いた。転んで擦りむいた膝が痛む。

風が出てきたようで、葉擦れの音がザワザワと恐怖心を掻き立てた。

そして何より得体の知れない大きな何かが迫ってくるようで恐ろしかった。


俺を見つけてくれたのは親父が飼っている猟犬だった。

俺はいつの間にか泣きながら眠っていたようだ。

親父にしこたま怒られた。それ以上にあの時の恐怖が心に刻み込まれた。

今となっては、あの経験がいい教訓になっていると思う。

それから親父は、たまに狩に連れて行ってくれるようになった。


十五歳からベテラン狩護師のカイロスに師事して、一対一で指導を受けた。旅にも同行して狩護師として必要な技術や心構えを教えてもらった。

そして十七歳になって、正式に狩護師として登録して独り立ちした。


仕事は順調だった。誰とでも親しくなれる俺の性格が向いていたようだ。

二十五歳で幼馴染みのエリンと結婚し、息子が二人生まれた。

旅から戻るたびに息子が大きくなっていて驚かされる。もう少し大きくなったら一緒に狩に行けるだろう。


狩護師の仕事は楽しい。

いろんな人と旅をするのが好きだし、狩護師仲間との交流も楽しいし、狩護師ネットワークで情報を集められるのも助かっている。


だが、俺は一つのことを突き詰めるよりも、いろんなことをやりたい人間だ。

仕事も狩護師だけでなく、仕事仲介所に募集が出ている様々な仕事をやってきた。

力仕事はもちろん、大工の手伝いもしたし、調理の補助なんかもやった。

おかげで家の修理ができるようになったし、簡単な料理ならできるようになった。

そのことが狩護師の仕事をするうえでもおおいに役に立っている。


狩護師としての経験を積むうちに、指名してもらうことが多くなった。

そのせいか狩護師仲間の会合でも、発言力が高くなったように感じる。

どうであれ俺は俺のできることをやるだけだ。それでみんなに喜ばれるならこんなに嬉しいことはない。



***



数年前のこと。仕事仲介所で、俺に指名が入っていると聞いた。

コウ? ああ、確かノートスの宿屋で働いていた奴だったか。

気のいい奴だが、どこか変わった雰囲気だった。


コウは国内の街を巡りたいのだそうだ。はっきりとした目的地がない旅は珍しい。

期間も決まっていなかったので普通だったら引き受けないところだが、コウとの旅が面白そうだと思ったのと料金をかなり弾んでくれたので引き受けた。

結界師はベテランのソーマだった。何度も組んだことがあり、実力があるので安心できる。


コウは遠くの島から来たと言った。だから変わった雰囲気だと感じたのだろうか。

この国のことを知りたいから全ての街を巡りたいのだそうだ。


ノートスからアクティ、アナトリカ、リムネー、ミロステアと巡った。

コウは気前が良くて、旅の間の食事代も全部出してくれた。

いろんなことに興味を持って移動中にいろいろ質問してきたので、俺とソーマで何でも答えた。

人と話すのは好きなようだが、なぜか自分の出身の島のことだけは話そうとしなかった。


コウは色々と見聞きするなかで、特に女神の神殿について興味を持ったようだ。

ミロステアに着くと、しばらく滞在したいと言うのでそこで解散することになった。


解散になる前に、今後もいろいろと情報が欲しいと言うので、ノートスに行くことがあったらコウの家に立ち寄る約束をした。

コウが情報の代金を払おうとしたので不要だと言った。

コウはもう友人だ。友人から正規の仕事でもないのにお金を取るなんて変だろう。

代わりに街で食事をご馳走してくれた。竹細工をくれることもあった。あの山に生えてる竹をこんな風に加工するなんて器用なもんだ。

コウにもらったザルをエリンに渡すと、すごく便利だと喜んでいた。


狩護師以外の友人ができるのもいいもんだ。

でも、何でそんなにこの国の情報を欲しがるのだろうか……。

まあ、コウにはコウの事情があるのだろう。



***



初めてユイと一緒に仕事をしたのは、去年のことだった。


これまでいろんな結界師と一緒に旅をした。

その上で、俺にとって一緒に仕事をしたいと思える結界師は、とにかく質がいい結界を張るやつだ。


結界の質は人によって違う。それには性別も年齢もあまり関係がない。

経験は多少は関係するが、それよりも持っている資質の方が重要のようだ。


その点、ユイの結界は抜群に質が高かった。

獣道を歩いても痛くないし怪我もしない。また、雨もよく弾く。

結界師によっては、獣道を歩くと小枝が痛いこともあるし、雨は弾くが身体がじっとりと湿ってしまうこともある。だが、ユイの結界は完璧だった。


狩護師仲間に、ユイは抜群に能力が高いことを伝えた。

ユイが仕事をし易くするためだ。


狩護師には基本的に悪い奴はいない。だが、ベテランの中には、若い結界師に威圧的な態度を取る奴もいる。それも修行のうちだという理屈だが、俺はそうは思わない。萎縮すると実力を出せなくなることもあるし、そうなるとお互いに良いことは一つもない。

俺のお墨付きがあれば、そんな思いをしなくて済むだろう。


ユイは人見知りだし、少し自己肯定感が低いようだ。そのせいで実力を出し切れていないように見える。

だが、経験を積んで自信がついてきたら、もっと活躍できるだろう。

それこそ、この国一番の結界師になれる才能があるんだ。


ユイとは機会があればまた一緒に仕事がしたい。

狩護師と結界師は、協力し合ってこその関係だ。

お互いに研鑽を積んで、高め合っていければいいと思う。



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