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小説

灯火の縊死

作者: 永井晴


辺りは真夜中のように闇に包まれています。小屋には少年がおりました。中は小さなテーブル上に、か細い蝋燭だけが灯っています。逆にそれ以外は、みんな真っ黒の世界なのでした。

少年は寒そうです。震えて仕方ないのです。ぼんやりと橙に染まる自らの指先は影と光を同時に撫でました。先の見えない闇の中に、分厚い宝石のような光の塊が浮かんでいるのです。

少年は辺りの暗闇にも怯えていました。音沙汰もなく、ただ孤独が広がる世界。少年は灯火に手をかざしました。するとそれは急に根元を細くして、消えてしまった後の暗闇を暗示しました。少年には灯りの密度が高くなったような気もしました。何でもなかったはずの灯りは、その後には調子を崩されたメトロノームのように、絶えず小刻みにふるえていました。それは若さの灯火なのでした。

輪っかの影が少年の首を過ぎました。力無く震える指先は縄の目にくい込み、乗りかかった椅子も頼りなく感じられました。一挙一動の軋みが暗闇を揺らします。しかし灯火の美しさはその時一番に光るのでありました。少年の緊張は静かに盛りの時を迎えていたのです。


幸か不幸か、少年は目を開けました。辺りは平らな明るみに包まれています。それは少年の見たことの無い景色でした。窓の外には何軒もの小屋が同じように建っているのが見えます。また、そこから出てくる人々の姿も次々と認められるのです。そんな時少年は何故か空っぽでした。床には途切れた縄が短くうずくまっています。そんなふうにして、この無味の光をただ浴びるのでした。

我に返ると、少年は灯火が今にも消えかかっているのに気づきました。ーーまた夜が来た時に、これがないと大変になってしまうーーそれは大きさは変わらないと見えるのに、暗闇の中で見たよりも随分弱い光で、何か薄橙のレースの切れ端でも閃いているような感じでした。遠い昔この炎の中にあった、真に明るいあの結晶はもう消えてしまったのです。

少年は肩にかかった縄をはらいました。すると灯は根元の方から急速にくびれて、あっという間に一切が消えてしまいました。小屋には煙の嫌な匂いが漂い、早朝の光は知らん顔をして少年を照らしていました。

死に損ないの彼は生涯というものを歩みました。大人になっていったのです。彼の見た世界というのはとても広いものでした。そして時々、彼のいたのと同じようなきれいな灯りの小屋を見かけることもありました。しかしどうでしょう。この世界はあんなに暗闇ではありませんでした。しかし小屋の濃い闇の中に、一つの小さな光が輝くのです。彼は妬みました。しかし、仲間には決まってこんなふうに言うのです。

「見ろよ。あれは外の怖い臆病者のやることさ。俺らはもう堅牢になったのさ」

仲間もいつも、そんなことを言いたげでした。しかし本当は彼も、仲間も知っているのです。そして危険も承知でそこへ舞い戻り、あの灯火の光に包まれることを夢見ているのです。

「さあ行こうぜ。あんな狭い世界で、何が得られるってんだい」

遂に彼は、あれ程痛切できれいな光には出会うことはありませんでした。夜を見たのも、遠い昔のあれきりです。

ーーもう誰もいない彼の小屋には、屍のような煙が頼りもなしに漂い続けます。またある小屋の少年はきれいな灯りを抱きしめたきり、それからずっと動くことはなかったと言います。

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