8.神様の思い出作り、その二。自転車で、真冬の海岸沿いを走ってみる?
野鳥の声も聞いたし、姿も見た。
次の場所に向かおう。
神様に、人の世にいる期間を延長して、とは頼んでいない。
神様に、延長して、と頼んで、即、断られたら、立ち直れない。
神様が常世に還る理由を俺は、知っている。
寿命なんだから、引き延ばせるわけがない。
神様は、出会ったときからずっと、俺に優しい。
神様と仲良しのままでいたいなら、寿命に関わるお願いは、したらダメだ。
だから、思うだけにする。
いつも通りに、話しかけよう。
「神様は、自転車って知っている?」
「家の中で使うものなら、分かるが?」
と神様。
「家の中では、使わないんだ。外を移動するときに使うから。」
「その自転車、とやらがどうかしたか?」
と神様。
「自転車は、人が乗るために、人が作った乗り物だから、人の世のもの。
神様は、風で飛ばされたりしないよな?」
自転車は、神事で使うと聞いたことがないから、神様にとって、人の世の思い出になると思ったんだ。
肩に神様を乗せても、二人乗りにはならないから、道路交通法違反にもならない。
「風で飛ぶことはない。」
と神様。
俺は、レンタサイクルで、自転車を一台借りた。
「細長い乗り物だ。
志春は、乗れるのか?」
と神様。
「練習したよ。
最初は、三輪車、次にストライダー、補助輪つき自転車という風に、段々とバランスをとれるように。
今走っている自転車は、前輪と後輪だけだけど、乗り始めは、後輪に補助輪が二つ、ついているんだ。」
「自転車は、志春にとっての楽しい記憶か。言葉が弾んでいる。」
と神様。
「楽しかった。でも、神様との毎日も、負けないくらい楽しい。」
「小童は、楽しいことを楽しむとよい。」
と神様。
山のふもとにこもりだしてから、自転車にはほとんど乗っていない。
自転車は、一度乗れるようになったら、間があいても乗れるんだな。
一輪車は、間があいたら、乗れなくなっていたのに。
自転車を思いついて、作って、流通させた人は、人間の体の学習能力にも詳しかった?
体が、転ばないバランスを覚えている。
大人になっても。
サドルに腰かけて、こぎ出す。
「出発。サイクリングコースは、海が見えるから、神様は、移り変わる景色を楽しんでほしい。」
俺の肩に座っている神様は、機嫌よく、足をぶらつかせた。
「風がおこる。段々と速くなってきた。座っていながら、移動できるとは。
海と船、橋、海におりる鳥も見える。」
上機嫌の神様に申し訳ないけれど、海辺のサイクリングは、早めに切り上げた。
「顔が、寒い!冷たい空気で顔が痛い!冬の海は風が強い!」
「小童らしく、志春の鼻と頬が赤くなった。」
と神様。
「サイクリングは、冬の海岸でするもんじゃなかった。」
「志春。次は、決まっているのか?」
と神様。
「暖かい室内で、寒い海を見ながら、温かいものを食べたい。」
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