77.山の怪(け)スペシャルの成果を見にいこう!同級生だった人に仕事論を語ったら、エア仕事を疑われた。同級生だった人に自首を勧めてみた。
山の怪は、俺を捕まえにきた人達を、山の反対側まで引きずっていって、もう俺を狙いにこないようにしてくれた。
空が白み始めた頃。
完成したから、見にこい!と、山の怪が、俺を現場に案内してくれた。
言葉は分からないから、影のジェスチャーで。
俺の足元で、熊手みたいな、形になった影が、俺を、おいでおいでする。
俺も、山の怪も、山の怪が俺に憑く状態にすっかり慣れた。
山の向こうに、山の怪の芸術品を見に行く前に、山の怪に頼みたいことがあった。
ぐるぐる巻きのナイフの人と、使われていたナイフを、山の怪に見せた。
「山の怪、このぐるぐる巻きは、神様がしてくれたんだけど、山の怪が、こらしめてくれた人の仲間だから、ひとまとめにしたいんだ。運べる?」
山の怪は、尻尾を下げた犬の影になった。
山の怪じゃなく、神様がしたことだから、山の怪には運べないらしい。
山の反対側の様子を見に行く間は、ぐるぐる巻きを放置することになる。
ナイフだけは、誰かが様子を見にきて持ち帰ると危ない、と神様に言われて、あの人達の車が、折った枝に突き刺しておいた。
神様が、志春以外は、ナイフを抜けないようにしておくと言っていたから、ナイフはその状態にしてある。
山の怪に連れて来てもらった山の反対側。
落ち葉雪崩での移動中、体勢を崩したときに、顔からこけてた人は、顔を地面につけたままで進んだようだ。
変形はしていなかったけれど、顔の皮はむけていた。
尻もちついたひとは、ズボンの尻をついたまま。
ズボンは、破けているかもしれない。
見えないけれど、腫れているかもしれない。
脱げていなくて、良かった。
落ち葉雪崩で、まだ起きる予定がなかった生き物が目を覚ました。
目を覚ました生き物が、絡まっている人もいた。
俺は、初めて、人に絡まるアオダイショウをじっくりと見た。
マムシがいなくて良かった。
落ち葉雪崩から逃げ出そうと体をひねったり、跳びはねたりして、体勢を崩した状態で引きずられていたため、全員、何かしらの傷を負っている。
一人だけ、ほぼ外傷なしなのは、俺と同じ大学の同級生だった人。
「警察に自首して、捕まえてもらえば?」
俺は、同級生だった人に自首を勧めた。
「は?」
同級生だった人は、虚ろな眼差しで俺を見つけた後、目が覚めたように、びっくりした。
同級生だった人は、最初から最後まで、落ち葉雪崩の中で暴れたり、逃げ出そうとしたり、という抵抗をしなかったから、落ち葉雪崩による外傷は負っていない。
逃げ出そうとしなかったんじゃなく、逃げられるという考えが浮かばなくて、未来を諦めていたから。
「諦めて何もしないくらいなら、罪を償いに行ってきたらいい。
俺の件がなければ、金儲けに失敗しなかった、と原因が分かっているんだから、人の褌で相撲を取る稼ぎ方を変えたらいい。」
俺は、同級生だった人に、俺の考えをぶつけてみた。
通じるか、分からないけど、ウヤムヤにしたくなかったんだ。
「寝言、言ってるんじゃねえよ。」
同級生だった人の声に、元気はなかった。
俺のワンルームを無断で又貸ししていた母さんと、母さんをそそのかしたと思われる、俺の同級生だった人。
「母さんも、そちらも、二人は、同じ穴のムジナだと俺は思う。
他人のもので、金儲けすることに罪悪感がない、というが似ている。
今回、二人の立ち位置の違いが、行く末を分けた。
母さんは、警察へ連れて行かれた。
そちらは、人殺しを強要されて、抜き差しならないところまで堕ちる直前。
母さんに、警察へ行く選択肢があったなら。
そちらにも、警察に行く選択肢があっていいと俺は、思う。」
同級生だった人は、びっくりまなこで、俺を見つめている。
「母さんのこともそちらのことも、助ける意図がない、ということだけは覚えていてほしい。
母さんのしたことも、そちらのしたことも、俺は嫌だと思うし、二人のしたことを許そうとは思わない。」
同級生だった人は、うんともすんとも言わないで、考えている。
「そちらが自首しなくても、俺は平気だ。
他人だから。
今回、相手が俺だったから、そちらは人殺しにならずに済んだ。
今後も、自首しないで、同じ場所にいるなら。
手を汚さない仕事とは、いつまで無縁でいられる?
仕事って、自分の限界にぶつかって、苦労して、つかみ取るものだと俺は思う。」
「ああ。仕事、決まったのか?エア仕事じゃなく。」
同級生だった人は、俺が仕事について語ったことに、一番驚いていた。
なんだ、エア仕事って。
「人を見る目がなさすぎだ、と言いたいけれど、俺も色々あったんだ。
俺はいい出会いをして、仕事について、真剣に取り組んでいる。」
同級生だった人は、ぽつんと言った。
「やり直せるなら、やり直したい。こんなことになるなんて思わなかった。」
「仕事に対する考えの甘さを引きずったら、また同じ失敗すると思う。」
あとは、同級生だった人が、自分で決断すること。
俺は、今いる場所、我が家と山を挟んで、反対側の場所をマップで確認した。
俺は、一人を除いて、ボロボロになっている団体様から、離れて、深川さんに電話をかけた。
「深川さん、おはようございます。
勝利の朝日が、気持ちいい朝です。」
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