76.選手交代。山の中では、山の怪スペシャルが炸裂。俺は、山の怪が苦労していた一人と向かい合う。神様と一緒に。
暗闇で、目印にならないように、スマホの画面は暗くしている。
「志春。良くやった。山の怪が動く。」
と神様。
今の俺は、自分が無茶をして得るものより、失うものの方が多いと知っているから、無茶はしない。
俺は、ネットショップ〈神棚〉を経営していて、商品のイラストを描く画家でもある。
俺が、怪我して、イラストを描けなくなったり、ネットショップ〈神棚〉の経営ができなくなる事態は、絶対回避。
俺と神様の毎日は、今日が終わっても、終わらない。
全員を山の中に引き込めなくて、取りこぼしがあったとしても、引き込めた人数を山の怪に任せる。
選手交代。
俺は、神様と一緒に、まだ山の中に入ってきていない人と対決する。
山の怪が苦労していた人は、目的の俺を見たらどう動く?
俺の周りにいた人達の足元の落ち葉が、一斉に動き出した。
雪崩のように、一方向へ。
雪崩は、上から下だけど、落ち葉雪崩は、重力は無視。
奥へ、奥へ。
落ち葉に乗っている足ごと山中へと、猛スピードで動いていく。
落ち葉からおりようとしても、おりられない。
靴の裏を確かめようとして転ぶと、転んで尻もちついた状態で、山中に引き込まれていく。
動かない俺に手を伸ばして、俺を捕まえようとする人もいた。
どこからともなく集まってきた鳥が、キツツキが木をコツコツするみたいに、落ち葉の上に乗っている人にくちばしを突き刺している。
現れた猪は、落ち葉の上にいる人めがけて、勢いよくぶつかっていく。
猿は戦利品を持って逃げた。
猿は、したいことをしただけ?
猿にぽかんとしていると、猿は、落ち葉の雪崩がない場所に腰を落ち着け、戦利品の自慢大会を始めた。
猿は、自由だ。
俺は、落ち葉がなくなった土の上を歩く。
神様に、声をかけてもらいながら、窪みを避けて、山からおりていく。
俺が、山から降りていくと。
一人、車の中に乗ったままの人がいた。
休憩していろ、と言われていた若い人は、山の中にいた。
車の中で寝そべっている人は、俺が我が家の庭にあることに憤慨していた、車の中。
車の中で寝ていたから、山の怪は、この人に手を出せなかったのかもしれない。
のんびり構えているようなら、山中に引き込まれた人達からの連絡はまだなさそう?
俺は、座席を倒して寝転んでいるその人側のドアを開けようとした。
ドアは、俺が開ける前に開いた。
「あれ?無事なんだ?全員やられた?」
その人は、軽い口調で、笑いながら、車から降りてきた。
「俺がいるから、まー、いいんだけど。使えねーな。」
その人は、山をチラッと見てから、俺に謝った。
「退屈させて、ごめんね、志春くん。」
この人も、俺を殺すことは諦めていない。
山の中にいた人よりも、迷いがなさそう。
「逃げおおせたときに、家に帰るとふんで、一人残したのであろう。」
と神様。
「ラスボス?」
「ラスボス?漫画の読みすぎ。
志春くんは、見た目以上にタフで賢いみたいだから。」
その人は、話しながらナイフを取り出した。
「時短のために、話をしながら、死んでもらうよ?」
一番、怖い人だ。
怖いが連続したけど、俺の感覚は麻痺したりしない。
ピンチだ。
ナイフをかわすとか、俺の許容範囲を超えている。
どうしよう。
「志春。頼るが良い。」
と神様。
え?でも。
神様と我が家との縁は、切れたって。
ナイフを持った人は、俺にナイフを見せびらかしてから、俺に突き立てようとしてくる。
「この者は、家にではなく、志春に害意を持っておる。」
と神様。
家に攻撃されているんじゃなく、俺への攻撃意思があり、という判定だから、神様に助けてもらえる?
俺は、スマホの画面を男に向けた。
「神様。目の前にいるナイフを持った男から、俺を助けて。」
金属がこすれる男がして。
ナイフを持っている男の手から、ナイフが落ちた。
今、スマホから棒状のものが飛び出した?
幻影?
長細い棒が、ナイフを持っている人の手から、ナイフを叩き落とした気がする。
「志春を、害することはならぬ。」
と神様。
ありがとう、神様。
俺は、俺がすることをする。
「今、何かしたよな。
自分でしたのか?誰かにしてもらったのか?」
「俺の勝ちは決まっている。そちらさん全員、山にも、ここにもいない人も含めて、二度と、俺に関わらないなら、反省しなくてもいい。」
俺は、強気に出た。
「志春くんは、無駄に前向きで、鬱陶しいから、早めに終わらせる。うちの情報、全部出して、死んで。」
ナイフは、一本じゃなかった。
一本落としたのに、もう一本出てきた。
「そんなものはない。」
俺に過大評価しすぎ。
「死んでから、探すことにする。」
なんと、俺より強気に出てきた。
俺は、再び、スマホの画面をナイフ持ちに向けた。
「神様。よろしく。」
「志春に害をなさんとするべからず。」
と神様。
スマホの画面が、一瞬、薄紅色に光った。
光が収束すると。
俺の目の前には、しめ縄のようなロープで、全身をぐるぐる巻きにされた、人が立っていた。
悪いことをしないように、気をつけをした姿勢でぐるぐる巻き。
こちらは、完成品だと思う。
もう、俺に何もできない。
山の怪は、どうしている?
俺が、山を見ると、神様が察して教えてくれる。
「もうしばらく、待つとよい。」
俺は、山の怪を待っている間に、相談に乗ってもらうことにした。
深川さんに、お礼すると伝えてあるけど、お礼に何をしたらいいのか、見当がつかない。
深川さんは、今日のことを予想していた。
山の怪の仕事が終わった後、深川さんに無事の報告の電話する。
深川さんは、俺に狙われていると教えてくれて、俺を匿う提案をしてくれた。
俺は、ネットショップ〈神棚〉の社長として、深川さんに向き合うと決めている。
俺が、勝利した、と伝えることは、情報をもらったことに対する謝意と誠意と、今後の牽制。
勝利した、と伝えるときに、お礼の話をしたい。
話の流れとして、自然だから。
深川さんに深入りしないためにも、このタイミングを上手に利用したい。
神様は、俺の相談を聞いて一つの提案をしてくれた。
「イラストを一枚、新しく描いて、お礼に渡すくらいしか、思いつかない。」
「志春のイラストは、商品だと忘れておらぬか?」
と神様。
「忘れてないけど。
商品の譲り渡しは、よくないんだ?
分かった。しない。」
「志春のイラストの価値は、贈答するためにあるのではなかろう。」
と神様。
俺のイラストは、お客様に買ってもらうもの。
「神様、教えてくれて、ありがとう。」
「今日、志春は、深淵を秘めた者の好きそうなものを手に入れた。それを使うが良い。」
と神様。
俺が手に入れたもの?
深川さんのお礼になるようなものって、どれのこと?
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