74.今夜がデビュー?何の?ワンルームの玄関ドアを蹴っていて、俺の顔を確認していた、同じ大学の、顔を知らない同級生が、暗くなっている。
「志春くんがここにいたい、と言うなら、お喋りした後で好きなだけいたらいいよー。」
「「後でー。後でー。」」
ギャハハと笑う二人組。
俺の話が終わったら、この場所に埋めてやる、と言っている?
「まずは、お話の時間だー。」
「早く、志春くんのお話聞きたーい。」
「「早くー、早くー。」」
「素直に、進んでお話してくれるだろうよ、賢い、賢い、息子ちゃんは。」
好き勝手言われている。
賢いって、褒め言葉のはずだけど、褒められている気がしない。
俺が、ムッとしているのを見て、さらにニヤニヤしている。
「賢い息子ちゃんは、聞き分けが悪い。」
「生きていくには、素直さが、大事なんだよー。」
「素直にならないと、長生きできないよー。」
「ぶふっ、長生きって。長生きしたいよなー、志春くん。」
「したい、したい。頑張り屋の志春くんは、長生きを希望しまーす。」
ギャハハ笑いの二人組が寸劇を始めた。
腹が立つ。
若い人は、盛り上げ役?
俺は、全然盛り上がらないけど。
この喧騒の中、不自然なほど、口を閉じて、一言も話さない人が一人。
その人は、周りとのテンションが違う。
つまらなそうじゃない。
追い詰められて、陰気?
表情が強張っている。
俺の顔を確認してきたときには出していなかった、暗さ。
母さんに、犯罪の片棒をかつがせていた人。
会話の流れから察するに、俺と同じ大学にいた大学生。
俺の同級生なら、この前卒業している。
周りは、この人の暗さに気づいている?
気づいていない?
気づいていても、無視している?
この人の話題、話の流れを俺に寄せるには、いいかもしれない。
「俺の顔を確認した人と俺は知り合いじゃないんだけど、なんで、俺の顔を知っている?」
「気になる?気になる?気ーにー、なっちゃう?」
「教えてあげよう、優しいからー。志春くんと同じ大学の大学生だったんだよー。」
「「大学生、大学生。」」
「同じ大学の大学生だからって、知らない人の方が多い。」
「そこは、ほらー。賢い志春くんと同じくらい賢いからー?」
「志春くんと、仲良くなりたかったんだよー。」
「「仲良く、ぶふっ。」」
俺の目の前にいないときのこの人達の会話では。
大学卒業したら、俺を下っ端にする計画を立てていたから、仲良くって、手下みたいな意味?
「念願かなって、仲良くなれるんだから、ラッキーじゃん。」
ラッキー?
「顔も知られてなくて、話をしたこともなかったのに、最後に話ができるんだから、ラッキー、ラッキー。」
「どのへんが、仲良しでラッキーなのか、意味がわからないんだけど。」
「賢いのに、馬鹿だー。」
「賢い人は、賢いことしか考えられないって知らねーのか?」
「そっかー。賢いって、残念って意味かー。」
「俺ら、馬鹿には、わかんねー。」
イラッとする。
内輪ネタで盛り上がる人達には、一人一人、バラけていてほしい。
今は、大事なことを言うかもしれないから、聞く姿勢を維持。
暗くなっている人は、暗いまま。
話題をふったのは、俺だけど、一人をいたぶる空気は、嫌だな。
それにしても。
いたぶられても、黙って暗いままでいるのは、なんで?
ワンルームの玄関ドアを蹴っていた威勢のよさは、どこに消えた?
暗くなっている人が、暗いのを見て、偉そうな人が、暗くなっている理由を俺に教えてくれることになった。
俺が、なんで一人だけ暗いんだ?と疑問に思っているから、教えたくなったらしい。
偉そうな人は、視線で、こいつ、と暗くなっている人を示した。
「こいつは、しくじったからな?
落とし前をつけなくちゃいけない。
落とし前っていうのは、テメェのケツは、テメェで拭く、という意味なんだ。
つまり、今夜は、記念すべきデビューなんだよ。こいつにとってはさ。」
親切そうに話してくれたけど、一つも、理解できなかった。
「賢い俺に、分かるように、簡単な言葉を使って説明すると、どうなる?」
「賢い志春くんは、飲みこみが早い。
こいつの失敗は、つまり、志春くんだ。
こいつは、ここで、志春くんに、こいつの責任を果たすわけさ。」
暗くなっている人は、俺に証拠を掴まれた責任をとって、俺を始末することになったという意味?
デビューということは。
俺に証拠をつかまれるのが、暗くなっている人にとっての初めてのヘマになるから?
もしくは、初めてのヘマの後始末が、人殺しデビュー?
俺にとっては、迷惑でしかないんだけど?
「こいつは、今まで順風満帆できたからな?
ここらで一回、人生経験を増やしておくのも、乙なもんだ。
志春くんは、賢いから、協力してくれるだろう?
無駄に暴れたりしないよな。
デビューだから、手際の悪さは覚悟してきたけど、失敗させる気はねえんでな?」
俺殺しを経験値に入れるな。
俺は、モンスターじゃない。
しかも、戦って、俺に勝つんじゃなく、一方的に、俺をやっつけようとするな。
「人殺しは、捕まる。」
「志春くんの賢さは、もっと使える賢さかと思っていたのに、見込み違いで、残念。」
残念がられているのに、申し訳なくならない。
「人殺しなんて、いないよ、志春くん。
志春くんは、殺されたりしないよ。
そうだなあ。
行方不明になるだけ。
誰にも探してもらえないけれど、志春くんは、この場所がお気に入りだし、寂しくないよ?」
発覚しないから、事件じゃない?
俺を埋めても、誰も探さない、誰にも見つけられない。
そう言いたい?
「その人は、人殺しをしたあとも、のうのうと生きていくんだ?」
「志春くん?
リピート、アフター、ミー。
人殺しは、いない。」
「こいつには、いい経験になる。
こいつに任せる仕事の幅が広がるから、こいつは、仕事にあぶれないで済む。
なにしろ、こいつは、今までの仕事がパアになっている。
新しい仕事を探さないといけなかったんだ。」
「こいつは、志春くんのせいで、今までの仕事ができなくなったけど、志春くんのお陰で、新しい仕事ができるようになるんだよー。
志春くんは、責任重大だ。」
暗くなっている人は、今まで、発覚して困るような犯罪はしてこなかった?
たとえば、直接、手を汚すような。
今までは、手を汚さないで成功してきた。
今回、俺殺しをしたら、犯罪として言い逃れができない。
暗くなっている人は、それが嫌で暗いんだ、多分。
危ない橋は渡らない、という発想が、最初からない人なんだ。
同情はしない。
殺されるのは、嫌だ。
ギャハハの二人組をはじめとする、暗くなっている人をおちょくる人達は、綺麗な仕事ばかりしていた人が、綺麗な仕事に失敗して汚れ仕事をすることになるのが、面白おかしいんだ。
山の怪は、まだ来ない。
もう少し、俺の方で、引っ張らないと。
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