70.俺を探す人達とじっと息をひそめている俺。協力者も探す?枯れ葉を踏みしめる複数の足音。見つかった?見つかっていない?
俺は、息をひそめて、耳を澄ます。
近づいてくる足音はしないけれど、山の怪と離れている俺は、見つかったら、自力で逃げ切らないといけない。
庭が騒がしくなった。
俺を探しに、歩き回っていた人達が、庭に戻ってきた。
「いねーな。」
「隠れたか。」
「隠れる場所なんてあるか?」
「探していない場所なら、あるだろ?」
懐中電灯が、次々に山に向けられた。
見つからないように。
俺は、じっとしている。
「正気か?」
「暗い中でも、足さばきに問題なく、山の中に逃げていったんなら、山に慣れているよ、その子。山育ち?」
「いや?都会の裕福な家で育ったはずだ。」
「見かけによらず、バイタリティーあるぞ。」
「こんな出会いじゃなかったら、鍛えて使ってみるのも考えたのに。」
「使って、なあ?」
ギャハハと笑う声。
「夜目がきいて、根性すわっているんだろう?
適職じゃないか?」
適職が、暗殺者の仕事に聞こえる。
「逃げていただけだぞ?」
「命の危険がなかったからだろう?」
「死体に話は聞けねーよ。」
「いやー。本当に残念だよね。可能性のある若者の未来を摘んでしまうことが。」
「残念かよ。」
「残念だよ?聞いていたより、随分、骨のある子じゃないか。」
「その骨のある子が、気合い入れて、逃げ回ってんだ。
ロッキングチェアーを持ち込んで座ってないで、動けや。」
「あれえ?とっ捕まえるのは、そっちの仕事じゃなかったっけ?」
「捕まえるまで、茶すすって、読書している気か?
ケツが決まってんだ。
やることやって、とっとと引き上げるぞ。」
「せっかちだなあ。まあ、いいか。手こずっているみたいだから、手伝ってあげるよ。」
「うぜー。恩着せがましいやつは、嫌われるぞ。」
「恩着せがましいんじゃなく、恩を着せているんだよ?分からないかなあ?」
「さっさとしろ。元気があるうちに、捕まえてやらねーと、話す前にくたばるぞ。」
「ええ、心配してあげているんだ、優しいねー。」
「特に鍛えていないなら、体力の限界が先に来るだろう。
一晩中、山の中を逃げ回るほどの体力はねえ。
捕まえる前に喋らなくなってりゃ、世話ないぞ。」
「ああ、はいはい。そこまで言うなら、働くよ。」
「言われる前に、働けや。」
「うるさいなー、もう。」
音声だけでも、めちゃくちゃ怖い。
俺、こんな人達を相手にしているんだ。
スマホを握る手が震える。
俺を捕まえてどうにかしようという内容を、笑い話にしている。
怖い、怖い。
なんで、こんな怖い目に。
じっとしていないといけないのに、歯がかたかた鳴りそうだ。
「やみくもに探してもなあ?」
「タイパだろ?」
強風でもないのに、庭の木の枝が揺れた。
山の怪が、木の枝を揺らしている。
俺が、怖がったから、話を終わらせた?
「木の枝を揺らしているやつがいるぞ?」
木の周りに、懐中電灯の明かりが集中する。
「いねーな。」
「ふうん。その子さあ、本当に、一人っきり?
協力者がいそうだよ?」
「協力者か。納得した。ツラ拝んどくか。」
「協力者がいるとは聞いていなかったぞ。
単独行動だっただろ?
いつ協力者を集めた?」
「ネットで募集かけたんじゃないすか?」
「ネットで集まるのかよ!」
「趣味の集まりなんて、興味があれば、そん時だけ来て、終わったら解散する感じで十分しょ。」
「お手軽か?」
俺は、腹の底が冷えていくのを感じた。
「山の怪がやりおる。
志春は、捕まらなければよい。」
と神様。
捕まらなければ。
本当にそうだ。
害意を平気で垂れ流しにできる人達は、俺をどうにかすることについて、落ち葉を掃くくらいにしか、感じていないのかもしれない。
俺がすることは、震えて隠れていることじゃない。
あの人達の動きを見ながら、捕まらないようにすること。
神様、山の怪、俺。
三者三様、自分のできることをする。
次、あの人達は、何をする?
俺は、耳を澄ました。
話し声が、聞こえなくなった。
「協力者を警戒して、話すのを止めたのであろう。」
と神様。
ヘッドライトが消えた。
「明かりを消して、暗闇にまぎれるのだろう。」
と神様。
明かりを消すなら、懐中電灯も使わない?
足音を忍ばされて、包囲されたら、気付くのが遅れる。
近くにいると気づいても、山の中で、俺だけの足で逃げ切れる?
「山の怪は、山の怪で動いている。
志春は、言う通りに動くがよい。
志春は、よく考えて行動できる小童。」
と神様が励ましてくれる。
「うん。よろしく。」
俺は、神様の合図を待ちながら、山の怪を応援する。
俺は、枯れ葉を踏みしめる複数の音を聞いた。
「うお、何かにつまずいた。」
「一分も静かにできないのかよ。」
「木の根じゃね?」
「隠れていないで、出ておいでー。怖くないよー。」
「顔が見えないから、怖くはないのか?」
「怖い顔の人なんていませんよー。皆、優しいよー。」
「顔だけな。」
「そう、顔だけ。」
ギャハハと笑い話が響く。
俺を探しに何人か、山に入ってきた。
何人かじゃ、足りない。
全員、山に足を踏み入れてくれないと。
辛抱して待つ。
恐怖で、音を立てて自滅しないように。
落ち着け、落ち着け。
俺の方に向かってきているという確証はない。
懐中電灯で、照らしながら歩くことはしていないのか、話し声と枯れ葉のカサカサ音は聞こえるけれど、姿は見えない。
「あ、あれじゃね?」
「見つけた?」
ギャハハと笑う声。
「楽勝!」
「お待ちかねのご対面だよー。」
声は、聞こえる。
でも。
すぐ隣には、来ていない。
俺の視界に入る距離、お互いの姿が確認できる距離には、いない。
どこにいる?
どこから、見ている
見つかった?
本当に?
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