7.神様の思い出作り、その一。人工の森と野鳥。鳩は、強者かもしれない。
俺と神様は、目的地の、海の側の公園にいる。
電車の中から見えていた観覧車は、駅からおりると、離れていても大きかった。
観覧車って、大きかったんだ。
就活前には、友達と遊園地にいったこともあったのに、すっかり忘れていた。
友達には、山のふもとに住む前から連絡していない。
山のふもとに引っ越す前の俺には、自分の状態をどう伝えればいいのか、なんて考える余裕がなかった。
あのときの俺には、誰かに働きかける気力が、もうなかったから。
山のふもとで、神様と暮らすのが、俺には合っていたんだと思う。
後で、連絡してみよう。
オレは、片手にスマホ。
肩に神様を座らせて進む。
「志春。観覧車は丸い。展望台とは違う。展望台は四角い。」
と神様。
「神様、観覧車は、いくつもあるガラス張りの箱が、ぐるっと一周するんだ。
後で、あの箱で、上まで上がって、外を見よう。」
「観覧車は、後か。先にどこへ行く?」
と神様。
「野鳥が住んでいる人工の森。人が野鳥を住まわせるために、一から計画して、森を作ったんだ。
本物の野生の鳥が見えたり、鳴き声が聞こえたりするらしいよ。
散歩コースになっているから、歩く。」
「人の作った森を見ていくとしよう。」
と神様。
「神様が、乗り気で良かった。」
「小童の考えた、小童の楽しみを邪魔してどうする?」
と神様。
「電車の中とか、人の多い場所だと、スマホを持ちながらでも、神様とは話しにくかった。
野鳥の住む森は、散歩コースになっていて、一箇所にとどまらないで歩くし、野鳥の声がするから、俺と神様が話していても、不自然さがないと思うんだ。
神様とは、いつもなんだかんだ喋ってきたから、話をしていないと変な感じがする。」
「小童は、寂しがりなものだ。小童だからな。」
と神様。
そっか。俺は、寂しいと感じていたんだ。
俺以外の人は、余裕があって、楽しんでいるように見えたから。
神様とは、阿吽の呼吸。
今日で、神様とお別れなんて、嫌だなあ。
ヤバい、感情が、じめっとしそうだ。
切り替えよう。
「散歩しよう!」
「進め、進め。」
と神様。
高い木がこんもりしている野鳥の住む人工の森に入っていく。
「鎮守の森に似ている。
中には低木もある。池も作ったのか。」
と神様。
「人工の森というだけあって、道が舗装されていて、歩きやすいよ。高低差がある場所は、階段になっている。」
入口周辺の野鳥は、高い木の上を飛んでいて、おりてこなかった。
中程になると、鳴き声が聞こえてきた。
一羽が、俺の前を斜めに横切った。
もう一羽が追いかける。
一瞬だ。
動きに無駄がなく、速い。
大学周辺で見た、飛ばずに歩いて、膨らんでいる鳩とは、機敏さが違う。
「鳥は、詳しくないから、全然種類が分からないけれど、鳩じゃなかった。」
「生き物は、食うか食われるか。
守っても、生き延びる能力が高いものしか、生き延びん。
守られる能力の高さも、生き物としての強さ。」
と神様。
「鳩は強者だったんだ。」
池に、羽根が白い鳥がいる。
「白鳥じゃない。何だろ?足が長い。」
「白い鳥は、頭を下げておる。餌でも見つけたか。元気でよい。」
と神様。
「野鳥は、餌を自分でとるんだ。」
俺は、就職先が決まっていないから、餌を自分でとる見通しが立っていない?
俺、お先真っ暗?
俺が沈んでいると、神様が俺の耳たぶを引っ張った。
「小童には、帰る家がある。小童の家は、住心地のよい家だ。」
と神様。
神様が、慰めてくれているのが分かる。
「うん。神様と暮らした家だ。」
今日、神様をお見送りしたら、神様がいない家になるんだ。
就職先が決まらないことよりも、神様がいない家に帰ることの方が、気持ちが暗くなる。
毎日、話をしていた神様。
今日の帰り道、神様は、もう肩にはいないんだ。
一人で、家に帰るのが、億劫になってきた。
神様、人の世の滞在期間、延長できない?
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