66.山の怪SPと快進撃。山の怪と組めば、忍者も目じゃない。山のふもとの我が家が見えた。やっと帰れる!まだ帰れない?我が家の庭を荒らすな!
車は静かに動き出した。
三回目は、急発進じゃない。
急停車もしなかった。
ブレーキは、踏まなかった?
俺のすぐ横につけようとしてる?
窓があいている。
窓を開けて走るには、寒いと思うんだけど。
窓から、腕が飛び出してきた。
窓から車に引きずり込む気だ。
すれすれで車を避けると、窓から出てきた手に首を掴まれそうになった。
山の怪が、俺をしゃがませて、滑らせる。
空振りする手。
社内からは、舌打ちの後、罵声が聞こえてきた。
「今の、いけただろうが!
逃げられているんじゃねーよ!」
失敗してくれて、ありがとう!
「首じゃなく、腕か肩にしとけ。」
というアドバイスも聞こえる。
首を狙ってくれたお陰で、しゃがんだら回避できたんだ。
余計なアドバイスをしないでほしい。
窓から手を出した人の上役?
「すみません。もう一度!」
と若い声。
俺を捕まえる気満々。
「行け。カスで終わりたくなけりゃやれ。」
応援?
俺としては、その応援はいらない。
「はい!」
元気な返事が聞こえた。
俺を捕まえるための一体感を聞かされている俺。
負けない。
俺には、神様と山の怪がいる。
車は、俺を追い越していった。
次は何をするんだ?
勢いよくバックしだした。
追い越した俺めがけて。
もう一度、すれすれでかわす?
山の怪は、そのつもりだったと思う。
俺は、山の怪におんぶに抱っこ。
ところが。
急に車のドアが開いた。
車はバックしてくる。
バックしている車に、車を避けようと端にずれる俺を引きずり込む予定?
逃げ場がない。
俺がいる場所は、片道一車線ない道路。
山の怪、頼む!
俺が捕まらないように、何とかよろしく!
オレは、心の中で、山の怪にお願いした。
無事に朝を迎えたあかつきには、山の怪に、何かお礼をしよう。
暗がりで、スマホを使っていると、居場所を特定されると思ったから、ネットショップ〈神棚〉のホームページにはアクセスしていない。
神様の助言なしで、ここまで乗り切っている。
山の怪SPが。
急バックしてくる車から腕が伸びるよりも早く。
俺の足は、俺の腰の位置より高いコンクリートで固めた壁をのぼって、車を見下ろす位置にいた。
山肌が崩れないように、コンクリートで固めた壁を歩いてのぼる日が来るとは思わなかった。
完全に、人の技を超えていた。
八十度くらいの壁に垂直に足をつけて、歩いてのぼっていた。
山の怪と組めば、忍者と勝負できる気がする。
「たっか!」
と、引きずり込もうとしていた人の声。
「何やってんだ?!また、失敗か!」
「届かないですって。」
「いつの間に!」
「届かねえなら、落としてやれ。」
「どこに落とししますか?」
落とす?
後ろから、バーンと撃ってくる?
背中から狙われるなんて、怖すぎる。
山の怪は、俺の足をすいすいーと、前に滑らせてくれた。
よし、さっさと家に向かおう。
俺を引きずり込みそこねた車は、ヘッドライトをつけて、後ろから追いかけてくる。
ヘッドライトに照らされると、標準を合わせて、狙っているから、と言われている気分になる。
追いつかれそう。
山の怪は、俺の足を山の斜面に導いた。
後ろから狙われ続けるよりは、山に入って、我が家に先回りしたい。
山の怪なら、車より早く到着させてくれそう。
車でつけ回している人達が、俺につられて、車を降りて、山に入ったら、俺としては、完璧なんだけど。
俺の足は、歩きやすい場所を選んで、山の怪が歩かせてくれる。
山歩きのプロがいる!
さすが山の怪!
車に乗ってきた人は、俺の後を追って、山に入ってこなかった。
残念。
我が家への帰り道ずっと、虎視眈々と狙われ続けることに比べたら。
俺は、一刻も早く、無事な我が家を見て、確認したかった。
突然、山の怪が、俺の足を止めた。
山から出る手前で。
暗闇に慣れてきた俺の目には、我が家の庭にたむろする人と、庭に乗りつけられた車が見えた。
我が家の庭は、車を停める場所じゃない。
俺が神様と話をしながら、刈り込んだ木が生えているところに、車を停めている。
我が家の庭に、俺の許可なく入り込むな。
俺と神様の家なんだ。
俺は、怒りでムカムカした。
今すぐ追い出したい。
俺のワンルームは、母さんが、俺の許可なく、勝手に招き入れたせいでもあるから、母さんにも責任がある。
山のふもとの我が家は、俺の家。
俺と神様が友達になった家。
家を荒らすような人は、一人も呼んでいない。
速やかに帰れと、叫びたい。
でも、俺は、駆け込んで、怒鳴りつけたりする気はない。
感情のままに、動けば、水の泡になる。
山の怪が、我が家に近寄らないということは、今、俺が我が家に近づくのは危険、ということ。
打開策は、何か?
俺は何も思い浮かばない。
山の怪も、困っている。
こんなときは、神様に相談だ。
「山の怪、次の行動を神様に相談したい。
俺のスマホの明かりが、我が家の庭にたむろしている人から見えない位置に、いったん、後退しよう。」
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