65.暗い夜道も、背中を狙われていても、俺には、山の怪SPが憑いている。
俺は、電車の中で景色を見ている。
スマホは、充電中。
座れる程度の混み具合の電車の中で、座って、手足を休めている。
仮眠しようかな。
昨日は、全然休めなかった。
今日も緊張の連続。
少しでも、体を休めたい。
駅についてからは、山の中を歩き回ることになる。
俺に何か起きる前に、山の怪が教えてくれる。
神様と山の怪に、電車の中での警戒は任せた。
よし、寝る!
冷たい風が吹いた、と思ったら、次の次の駅が最寄り駅。
神様も山の怪も静かだった。
何もなかった?
それとも、俺が仮眠している間に終わっている?
車窓から見る外の景色は、暗くなってきている。
乗客が少ないので、座席で、足首回しをしたり、関節をほぐしたり。
駅から我が家へは、距離がある。
追手を山の怪のフィールドに引き込むためには、暗がりの中での山登りが待ち構えている。
山の怪は、山が見えて、ウキウキそわそわするかと思っていたけど。
しーん、と落ち着いている。
影バリエーションが尽きた?
これから一仕事だから、休憩中?
駅に着いた。
改札を出て。
山の怪が、俺の影を引っ張る。
山の怪の引っ張る方向へ足が進む。
山のふもとの我が家方面には、片道一車線に足りないくらいの幅の道路がはしっている。
国道か県道か知らないけれど、砂利道ではない。
アスファルトで舗装されている。
配達の車も、この道を使うって聞いている。
山のふもとの我が家以外にも通じている道だから、車が通るのは、珍しくないと思う。
でも、俺の後ろについて走る車は、初めて。
すぐ後ろってわけじゃなく、最初は、二十メートルほどひらいていた距離は、二メートルくらいに縮まってきている。
山の怪は、まだ何もしていない。
神様も静かにしている。
俺も黙っているので、聞こえるのは、後ろの車の音だけ。
車が停車した。
俺は前を向いて進む。
間隔が広いけれど、街灯があるから、道と周りが見える。
山のふもとの我が家のあたりの道は、我が家の明かりが漏れないと、暗くて周りが見えないと思う。
暗くなると、外に出ないから、俺の想像。
停車した車から、誰か降りてくる?と耳を澄ます。
ドアの開閉音も、人が動く音も聞こえない。
停車しただけ?
駅の近くで、車を待機させていたなら、山のふもとの我が家のことも調べて知っている?
俺の父さん母さんは、俺の暮らしぶりに関心を持つことはなかった。
二人は、きっと今も知らない。
俺を狙っている人の方が、父さん母さんよりも、俺に詳しい。
好きになってほしい人に、関心を持ってもらいたかった。
俺の命を狙ってくる人に、関心を持たれても、嬉しくない。
静かにしていた山の怪が、俺の足を掴むようにして、スライドさせた。
停車していた車が、急発進して、俺がスライドする前にいた場所に突っ込んでいる。
ハンドル操作をあやまった?
車は、一旦バックしていった。
山の怪が、俺の足を街灯の方へと引っ張る。
急発進した車が突っ込んできた。
街灯の方へと。
山の怪は、俺の足をスルスルと滑らせて、車を避けて、進行方向に俺の体を向かせた。
車は、街灯には突っ込まずに、またバックしていく。
急発進して、急停車して、バック。
二回繰り返されたら、俺も気づいた。
俺に車を当てにきている。
俺が動けなくなったら、車に運んで連れていく予定?
山の怪が、優秀過ぎる。
俺、山の怪に足を向けて寝れなくなりそう。
車から降りてもらわないと、山の怪の本領が発揮できない。
俺をひこうとしている車を運転している人は、ドライブテクニックがあるんだと思う。
車が破損する前に停車して、切り返しなしにバックしている。
車で人をひくプロを、車からおろすには、どうしよう?
我が家への道を知っているなら、我が家の場所も知っているはず。
戸締まりはしたけれど、家が心配になってきた。
ワンルームみたいに、我が家を荒らされたら、嫌だ。
早く、我が家に帰りたい。
車に乗っている人を降ろすアイディアが浮かばないまま、歩き続けていると、街灯が途絶えて、車の明かりだけになった。
ガードレールについている反射板は、車の明かりがないと、明るくならない。
後ろを走る車のヘッドライトが、ふっと消えた。
夜道に明かりがなくなる。
暗くても見える工夫をしている?
暗視スコープみたいな。
暗闇ですたすた歩くことは、俺には難しい。
俺の行き先は、山の怪に委ねることにした。
俺には、山の怪SPが憑いている。
俺の目が、暗闇に慣れる前に、後ろの車が勝負に出そう。
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山の中の決戦、始まりました。




