58.『志春(しはる)、深淵を直接覗いてはならぬ。深淵の明るさは、闇の濃淡の差であり、光ではない。深淵に相対するときは、父親を介すとよい。』と神様が、助言をくれた。
深川さんが俺に警告したり、匿う発言をした意図を考えてみる。
「具体的な襲撃の計画があるんですか?」
「具体的か、まではね。志春社長のお母さんのしていることを警察に知らせた人は、緊張を強いられるだろうね。」
と深川さん。
深川さんは、事情通だけど、どこから情報を集めているんだろう。
母さん側?
独自に?
警察からのリーク?
犯罪に関係する人から?
「一旦、考えてから、改めて、お返事させてください。」
神様に相談だ。
俺は、すぐにネットショップ〈神棚〉のホームページにアクセスした。
神様は、玉乗りの練習をしている。
俺は、歩きながら、神様に話した。
じっとしているより、動き回っている方が、盗み聞きされにくい気がする。
「志春。
その者は深淵を秘めておる。
その者の深淵を直接、覗きこんではならぬ。
深淵に覗き込ませてもならぬ。
深淵と相対するときは、覗き込ませぬ距離を保つがよい。
深淵の明るさは、闇の濃淡の差であり、光ではない。
深淵に、日はささぬ。」
と神様。
神様は、深川さんを警戒しよう、と言っている。
正確な情報を仕入れる速度。
警察からのリークじゃなくて、深川さんが警察を動かした?
「うーん、どうすればいい?」
「直接関わりを持たぬように振る舞うがよい。
志春の父親を介して、志春は礼だけ述べておくのがよい。」
と神様。
「危ない側の人?」
犯罪の、と街中で話すわけにはいかないから、ぼかす。
「志春。
深淵が、志春に覗かせぬようにしているものを探ってはならぬ。
深淵が、素知らぬフリをさせているならば、志春は、乗っておくがよい。」
と神様。
「煮えたぎる油から揚げ物を引きあげるとき。
手で、肉を直接つかむと火傷する。
トングで肉をつかもう。
トング役は、父さんにお願いしたらいい。
高温の油を覗きこんだら、顔面を火傷するから、覗かない。
そういう感じ?」
「志春は、昨日、唐揚げを作ったのだった。
油に苦労した甲斐があって、上手であった。」
と神様。
昨日、神様と話をしながら、唐揚げを作ったんだ。
神様は、最初、ロープに見立てたしめ縄にぶら下がって、ゆらゆらした後に、別のしめ縄に飛び移る、を繰り返していた。
途中、俺を心配するあまり、しめ縄を握りそびれた神様は、何回か落下している。
「ありがとう、神様。
神様が棲んでいたときに、作っていたら。
褒めてもらった唐揚げを一緒に食べられた。」
「志春の思いは、心地よい。
小童は、独り立ち後すぐが一番危ないもの。
不審者には警戒しても、親切な顔を見せる大人には、小童も周りも警戒を怠る。
深淵を秘めた者は、吸収する性質を隠して、近づき、飲み込んでいく。
欲しがっているようには、見えぬから、飲み込まれた後に、深淵の腹の中で、気づくことになる。
志春、声を出さずに聞くがよい。
志春の父親は、既に、深淵の腹の中におさまっておる。
志春に倉庫で、石の絵を描かせようとした、志春の母親の夫の姉は、深淵にのまれるのを警戒して、抗った。
志春から、深淵の手に触れてはならぬ。
今の志春には、抗う意思はあれど、力が弱い。
志春が、深淵に近づかぬようにするだけでは、足りぬ。
深淵に、志春から距離をとって、志春を覗きこまぬようにさせるとよい。」
と神様。
深川さんの腹の中、ということは、父さんは、今、深川さんに雇われていて、父さんの会社は、深川さんの会社に吸収された?
深川さんの内側は、深淵だから、深川さんの話さない秘密は暴かない。
深川さんとは、一定距離を守ったお付き合いに終始して、踏み込まない、踏み込ませないスタイルで。
今の俺は、深川さん次第で、どちらかというと、助けられている面が大きいけれど、安心して近づいたら危険。
俺が、深川さんに近づきすぎないようにしても、深川さんから近づいて来たら、俺が逃げ切ることは不可。
深川さんから、俺に一定距離を維持させるには、どうすればいい?
「内側に深淵を秘めた者に借りを作ると、深淵は、侵食しても良いと覚える。
深淵は、遠くにいさせるがよい。」
ということは。
深川さんの助けを借りて、犯罪関係の人から匿ってもらうのは、なし。
「匿ってもらうのは断る。
警戒じゃ足りない相手の襲撃はどうしたらいい?」
「迎え討つがよい。」
と神様。
迎え討つ?
襲撃者と戦う?
「どうやる?俺は、思いつかない。神様、教えて。」
「志春は、山のふもとの我が家に帰るとよい。」
と神様。
帰り道を尾行されたら?
「家を知られたら、怖い。安心して寝れない。」
寝込みを襲われたら?
「家には近寄らせぬ。
目標は、山。
山といえば、山の怪。
志春に憑いておる山の怪に任せるとよい。」
と神様。
憑いておるって?
「山の怪?山に棲んでいる何か?
いつ、俺に憑いていた?」
気づかなかった。
「志春が倉庫を出るときに、志春に憑き、それからは、ずっと志春に憑いておる。」
と神様。
倉庫にいた、黒い影が、山の怪?
山の怪は、元々、モナナが拾った石に憑いていた?
モナナが石を拾った場所は、山間部を流れる川の河原だった?
「憑いておるって、あっさり。
山の怪が憑いていても、俺は安全?生活に困らない?」
「志春に憑いておる間、山の怪は、志春を守る。
山の怪は、山に帰るのを邪魔されることを厭う。
山の怪は、山の中では、敵なし。
山に近づくほど、志春に憑いた山の怪は、本領を発揮する。
志春、これは好機。
敵を迎え討つがよい。
志春は、取り込めぬと、深淵にも襲撃者にも覚え込ませるがよい。
この一回で、今後、志春に手を出すことならぬ、と身をもってわからせるがよい。」
と神様。
ふと、足元に視線を落とすと。
『任せとけ!』
とでもいうかのように、俺の影が、縦揺れした。
俺は、深川さんに電話で返事をした。
「お申し出は、お気持ちだけで。
情報をありがとうございます。」
深川さんの声は、断りの電話にも、朗らかだった。
「そうかい。明日の朝日と、朗報を待とうかな。
志春社長の健闘を祈る。」
と深川さん。
深川さんの電話は切れた。
ここから、襲撃者を迎え討つ時間が始まる。
「やるぞ、山の怪。」
楽しんでいただけましたら、ブックマークや下の☆で応援してくださると嬉しいです。




