49.神様と一緒に、父さん母さんに離婚理由を聞いてみる。思い当たるのは、父さんの奥さんの存在。他には?父さんが離婚しようと決めた理由は?母さんの再婚後の暮らしぶりに、何か?
父さん母さんと対峙しようとしても、俺の呼びかけでは、父さん母さんは、立ち止まらないと思う。
父さん母さんの注意をひけるだけの魅力が、息子の俺にはない。
俺は、新しいスマホで、ネットショップ〈神棚〉のホームページにアクセスしてから、ワンルームの扉の前に立つ。
「神様。今日は、父さん母さんと話をしたいんだ。
父さん母さんが二人揃って俺と話す機会は、もうないかもしれないから。」
俺は、神様に協力をお願いした。
「小童は、追いかける。親は逃げる。小童の足を早くするより、逃げ足の早い親を留め置く方がよかろう。」
と神様。
「ありがとう、神様。」
俺が、ワンルームに入って待っていると。
父さんと母さんは、不動産屋さんが来る前に、バラバラに到着した。
手持ちの鍵がない父さんは、インターホンを鳴らした。
俺は、ワンルーム内で、父さんと二人きりになるのは避けたかった。
今日は、父さんにも母さんにも、嘘をつかれたくない。
二人に話をしてもらうために、俺は、どうしたらいいか、を考えた。
今までの俺は、父さんにも母さんにも、相手にされていなかった。
二人に、俺は、対等に話す相手だと認めてもらう。
嘘をつかせないような、お茶を濁させないような、そんな存在に俺がなる。
父さんと母さんに、俺が、今までの俺とは違うんだと知ってもらうには?
最初に、ガツン!と違いを見せる。
「父さん、俺は、痛い思いをしたから、父さんとワンルームで二人きりになるのは避けたい。
母さんが来るまで、中に入るのを待ってほしい。
父さん、母さんが揃ったら、鍵を開ける。」
俺は、インターホン越しに、父さんの顔を見ている。
父さんは、扉が開かないことに、無言で、眉をひそめた。
俺は、気になっていることを確認した。
「父さん。俺の使っていたスマホは持っている?
もう解約した?」
「志春に関係あるのか?」
と父さん。
父さんには、俺が使っていた、という説明は、意味をなさない?
「俺が使っていたスマホだよ。俺のデータは?」
「解約済みだ。」
と父さん。
スマホのデータはまるっとなくなった前提で動こう。
「分かった。父さんと母さんと三人で話すことがあるから、父さんも母さんも話が済むまで帰らないでほしい。」
「来たぞ。」
と父さん。
母さんが到着した。
母さんは、扉の前に立っている父さんに、入らないの?と聞いてきた。
俺は、ネットショップ〈神棚〉のホームページが開いた状態のスマホを手に持って、玄関の鍵を開ける。
寒い寒い、と言いながら、後から来た母さんが、先に入ってきた。
父さんは、母さんの後に入ってくる。
「父さん母さん、今日は、俺と話をしてから帰ってほしい。」
母さんは、鼻白む。
「何をだ?」
と父さん。
「父さんと母さんが離婚した理由。
俺は、何も知らされないまま、家族から弾き出されて、のけ者にされ続けた。どんな理由があった?」
俺は、一歩も引く気はない姿勢を見せる。
父さんは、さらっと言った。
「火遊びに本気になって身ごもるような女だからな。」
母さんは、軽蔑した表情で父さんを見ている。
「妻の話より他所の女のたわ言を真に受けて、妻の話に聞く耳を持たなくなったのは、そっちが先よ。
私を元凶のように言って、被害者ぶらないでくれる?」
と母さん。
一緒に話を聞いてくれている神様が、父さん母さんに聞こえない声で、俺にアドバイスをくれた。
「志春。父親と母親には、それぞれ思うところがあろう。
2人に話をさせると、罵り合いで終わる。
会話の主導権は、志春が握るとよい。」
「母さんの言う他所の女って、父さんの会社で働いている、母さんより十歳以上年下の女の人?」
俺は、神様のアドバイスを受けて、父さん母さんの会話にカットイン。
「志春は、知っていたの?
知らないと思っていたのに。
知っていたのに、理由が分からない?」
母さんは、淡々と、声だけで驚いた後、俺にも軽蔑する表情を向けた。
俺は、どれだけ、母さんに疎まれているんだ?
「最近会った女の人で、父さんの会社で働いていて、母さんに嫌がらせをされて、父さんに庇われた、という話をしながら、俺を敵視して、嫌がらせをしてきた人がいる。
同一人物かな?」
「名前は?」
と母さん。
母さんと定型文以外の会話をするのは、久しぶり。
「名前は、聞いていない。俺は、その女の人に歓迎されていなかった。」
「今もこの人といるなら、同一人物よ。
あの女には、この人以外の引き取り手なんて、現れないから。」
と母さんは、平坦な調子で話す。
父さんの奥さんが、父さんの奥さんになっているのには、理由がある?
「どういう人?」
「誰かを差し置いて、特別扱いされたい女。」
と母さん。
抽象的な説明をされても。
あれ?ひょっとしたら?
「誰か、は、父さんにとって、息子の俺、という立場?」
「あの女と会ったときに、その人もいたなら、そう。
志春が、理解できたなら、志春にも、私と同じことをしたわね、あの女。
手口は、毎回同じなのに、毎回引っかかる男が馬鹿だから、馬鹿に見切りをつけるしかなかった。
私の離婚理由は、馬鹿な男と、狡猾な女が、妻を軽んじたこと。
他所の女に騙されて、他所の女の味方をし、妻を信じない男とは、家庭を築けない。
だから、別れた。
その人への未練は、絞りかすさえない。
分かった、志春?
離婚したのも、家庭崩壊も、その人が、馬鹿なせい。」
と母さん。
父さんの奥さんと、父さんのやりとりを目の当たりにした俺は、母さんの説明に理解できる部分もある。
父さんの説明を聞こう。
「父さんの離婚理由は?」
俺が、父さんに聞くと、母さんは、不機嫌になった。
「説明なら、私がしたわ。」
と母さん。
「離婚は、片方だけじゃできないよ、母さん。
父さんにも離婚する理由があるから、父さんは、離婚に同意したと思うんだ。
だから、俺は、父さんにも聞く。」
「志春は、いつも、そう。私の味方にならない。私の息子として、生まれておきながら。」
と母さん。
母さんの呟きは、声が一本調子な上に、口の中でモゴモゴしていたため、俺には聞き取れなかった。
「父さんの離婚理由は何?」
もう一度聞くと、父さんはさくっと告げた。
「火遊びした男の子を身ごもり、その男と結婚するから、別れろと騒ぐ女は妻には向かない。」
と父さん。
「火遊びじゃない。失礼過ぎるわ。」
と母さん。
「火遊びのつもりだったのは男の方だ。
見る目がないのも男の方だ。
火遊びのつもりが、雁字搦めにされて、お前のような女を妻にする羽目になったのだから。
彼が、浮かび上がる日は来ないだろう。」
と語る父さんの声に、感傷はない。
対して、母さんの感情の導火線は、点火された模様。
「私が、火遊びの相手だと言うの?」
と母さんは、歯ぎしりしそう。
「お前と結婚することで、彼に何の利があったか、考えてみれば分かるだろう。
彼の人生は、お前と結婚して、低空飛行が約束された。」
と父さんは、まるで、人を諭すかのように、母さんと話している。
「どの口が、私を悪妻だと言うの?」
と母さんは、腹の底から、声を出した。
「彼も、お前を火遊びの相手に選ぶくらいだから、前評判ほどの力量はなかったのだろう。
その証拠に、今の彼との結婚生活は、だいぶ、苦しい。違うか?
志春を育てていたときと同等以上の教育環境を整えたくとも、彼の収入では身の丈に合わない。
身の程知らずだと、彼は止めないのか?」
と語る父さんは、犯行現場の事実確認をして、犯人の予測をしているかのよう。
「どうして、私の家族のことをそんなに知っているのよ!
気持ち悪い!
今さら、私に未練があるの?
ストーカーは止めてよ!」
と叫ぶ母さん。
「彼のおおよその収入くらい、知らないわけないだろう。
彼から近づいてきたんだからな。
彼の最盛期は、お前に手を出したときに終わった。」
と父さん。
「うちの人に、何をしたの?」
と、新たな疑惑で、怒り継続中の母さん。
「誰も何もしていない。彼が、お前と火遊びをしたから、彼は、その程度の男だと見限られただけだ。」
と父さん。
父さんは、母さんを好きだったから、結婚したんだよね?
母さんが、父さんにキツく言うのは、父さんに気持ちがあった過去が、母さんにあったから、だと思う。
父さんの気持ちは、どこに向いている?
「こうなったのも、元は、といえば、そっちが悪いのよ。
私は、何度も、あの女は、側に置かないように、信用しないように、と忠告したわ。
夫が、妻を信用しないで、職場の女の言いなりになって、職場の女と一緒に妻を見下しているなんて。
恥さらしもいいとこだった。」
と母さん。
「結婚していながら、夫以外の男の子を身ごもった女と、火遊びに失敗した男の組み合わせは、幸せなのか?
愛のある生活をしたいと話していたな?」
と父さん。
父さん母さんの会話から、俺は、母さんの動機を予想できてしまった。
「母さんは、父さんと離婚して、再婚してから、ずっと、お金に困っている?」
母さんが、俺に黙って、俺の部屋を又貸しして、賃料を受け取っていた理由。
俺の部屋にあった、値の張る品がなくなっていた原因。
再婚した母さんが、生活レベルを落とせなかったから?
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