41.神様に無茶をさせて、神様を失いたくない。『志春(しはる)の在り方に胸を張って、助けを求めよ。』
俺の店のホームページに棲んでいる神様。
俺がネットショップ〈神棚〉のホームページにアクセスすれば。
いつだって俺を見て、俺に寄り添って、俺に親身になってくれる友達。
思わず、神様に助けを求めてしまったけれど。
神様は、俺の友達。
叫んでから、俺は冷静になった。
ホームページに棲んでいる神様が、ネットの外にいる俺を助けるなんて、どれだけの無茶が必要?
俺、神様に無茶をして、寿命を縮めてほしくない。
「志春のいる場所を見せるがよい。」
と神様は、鞠を足から手へと移動させている。
「神様、ごめん。俺、神様に無茶を言った。」
俺は、まず、神様に謝った。
友達に、友達の領分を超えたお願いをするのは、心のすわりが悪い。
神様に悪いことを言った、と気づいて、俺は、反省した。
すぐに謝りたい。
俺は、何を失っても、神様との縁を失いたくない。
「小童は、遠慮しないものだ。
小童と共にいる大人が、小童の分も遠慮するものだ。
志春の父親を見せるが良い。」
と神様は、鞠を足の間にくぐらせている。
父さんは、俺と父さんの奥さんめがけて、一直線に歩いてくる。
「父さんなら、すぐ近くにまで来ている。
神様。
神様と話ができるのは、父さんにスマホを取り上げられるまで、になると思う。
スマホを取り上げられる前に、ホームページは閉じるよ。
俺、自分の使っていたスマホを父さんに取り上げられたんだ。
今、俺は、父さんの奥さんのスマホを借りて、神様に会っている。
父さんの奥さんが、俺にスマホを奪われたと、父さんに話したせいで、父さんは父さんの奥さんのスマホを俺から取り返そうとすると思う。」
俺の話すことには、一切耳を貸さないのに、父さんの奥さんの一芝居は疑わない父さんが、俺にしそうなことは、予測できる。
父さんの行動を予測できても、息子として、嬉しいことは一つもない。
「俺は、神様と、ずっと一緒にいたい。
神様が、無茶して、これから一緒にいれなくなる方が、俺は、嫌だ。
神様が見ていてくれたら、俺は、一人じゃないから、頑張れる。
今日、神様に話せて良かった。
元気出たよ。
また、何とかして、ホームページにアクセスしてみる。」
「仕事をサボるだけではなく、情けを仇で返すか、志春。」
父さんは、大股で部屋に入ってきた。
父さんの奥さんは、相変わらず、俺の攻撃性を口にして、怯えた表情を見せている。
俺には、神様が見てくれているから、父さんと父さんの奥さん相手に縮こまったりしない。
父さんと父さんの奥さんの両方の顔を見るために、俺は体をずらした。
「父さんの奥さんは、今、俺にしていることと同じことを母さんにもやった?
一芝居うって、母さんに嫌がらせをされたと、父さんに訴えたら、父さんは、母さんに確かめずに、その訴えを鵜呑みにした?
父さんが、訴えを鵜呑みにしたのは、訴えた内容が、仕事絡みだったから?
父さんの奥さんは、仕事が優秀だから、父さんは、父さんの奥さんを信用した。
今の俺に、母さんに対してしてきたことと同じことをしているなら。
父さんの奥さんと、父さんを結びつけているものが、何か、父さんは考え直した方がいいよ。
父さんは、父さんの奥さんの、仕事が出来るところを評価して、父さんの仕事のために、結婚した?
父さんと父さんの奥さんの間にあるのは、家族の情じゃない。
父さんと父さんの奥さんは、仕事のパートナーかもしれないけれど、家族じゃない。
父さんが、今まで、俺を、家に呼ばなかったのは、仕事場に子どもの俺を入れても、仕事の役に立たないから。
俺は、家族だから、父さんの新居に迎え入れられたんじゃないんだよね?
父さんの仕事に従事する労働力として連れてこられたんだね?
父さんが、俺に、家族の情を向けてくれないのは、俺を息子と言いながら、労働力の一人以上に、考えていないからだよね?」
昨日の父さんの奥さんの発言の数々。
それに対して、父さんが一切反対意見を言わずに、俺の判断材料にしたこと。
今の俺の置かれた状況。
三つを重ね合わせて、俺に見えてきたものがある。
父さんと父さんの奥さんが住んでいる、父さんの新居は家庭じゃない。
職場に住み込みで働かせる目的で、父さんは、俺を連れてきた。
そう考えると、父さんの俺に対する態度は一貫している。
大学を卒業するまでは、父さんと母さんは、俺に対して、半分ずつの責任を負うと決めて離婚している。
俺が、卒業したら、父さんと母さんの責任の綱引きは終了。
どちらも、親の責任という綱から手を離すことができる。
父さんは、母さんが、俺に対する責任の綱を離すタイミングをうかがっていたんだ。
母さんに介入されることなく、俺を労働力に組み込むために。
父さんと母さんが、離婚時に決めた、俺に対する親の責任を半分ずつ持つという取り決め。
父さんと母さんの関係が拮抗していたから、俺は、一人で寂しく思いながらも、大学生活を送ることが出来たんだと思う。
「理解したなら、働きなさい。」
大股で近づいてきた父さんは、俺からスマホを取り上げようとした。
まだだ!
まだ、スマホを取り上げられるわけにはいかない。
まだ、ホームページを閉じていない。
自分で思っているより、たくさん話した。
話しているところを神様に見ていてもらいたかった。
急いで、ホームページを閉じないと。
父さんの手にスマホが渡らないように、俺は、スマホを持っている手を上下左右に動かして、かわす。
ホームページを閉じるタイミングがない。
俺が焦っていると、横合いから、伸びてきた手がスマホを奪っていった。
父さんの奥さんだ。
父さんにばかり気を取られて、スマホの持ち主の、父さんの奥さんを、俺は警戒していなかった。
父さんの奥さんは、能面のように表情のない顔を俺に向けている。
さっきまでの、怯えた表情も、その前の親しみやすい素振りも、人好きのする笑顔も。
全部、父さんの奥さんの仕事用の顔だった?
父さんの奥さんは、自分のスマホを取り戻すと。
俺がアクセスした、ネットショップ〈神棚〉のホームページを確認してから、父さんに見せた。
神様、ごめん!
俺、神様には、迷惑をかけないようにしたかったのに。
俺が、神様に見守ってほしいと考えたばかりに、神様が、父さんと父さんの奥さんに見つかってしまった。
幸いにも、俺の店のホームページは、父さんの興味をひかなかった。
「イラストとアバターのホームページか。」
と父さん。
「志春くんは、この画面を見て、ずっと話しかけていたのよ。気味が悪くて、怖いわ。」
と、父さんの奥さんは、肩を震わせる。
どうしよう?
父さんと父さんの奥さんの二人をいっぺんに相手して、スマホのホームページを消す方法は?
そのとき。
神様の声がした。
俺にだけ聞き取れる、神様の声。
「志春は、この家に住みたくないのであろう?
志春の我が家に帰るがよい。」
と神様。
「神様。そうしたいけれど、この家から、逃げ出すのが難しいんだ。
父さんは、暴力で俺をここから逃さないようにしてくる。」
「志春の父親は、この家で足止めをしてやろう。」
と神様。
「神様、無茶しない?いなくならない?」
「志春の一生を見守るまで終わらぬ。」
と神様。
「神様。頼んでいい?俺を助けて、って、神様を頼っていい?神様は、俺を助けてくれる?」
同じ空間にいる、父さんは、俺を助けない。
父さんにとって、俺は、助ける対象じゃないから。
父さんにとって、助ける対象って、何なんだろう?
「志春は、神の住まいを作って、神に絵を奉納しておる。
志春の在り方に胸を張って、助けを求めよ。」
と神様。
「うん、神様。」
嬉しい、ありがとう、神様。
俺の仕事を認めてくれて、俺自身のことも、小童と呼んで、可愛がってくれる神様。
父さんの奥さんは、俺が神様と話している様を見て。
「怖いわ、志春くん。気持ち悪いから、止めてくれない?」
と怖がる声音を使いながら、底意地が悪い笑顔を浮かべている。
「志春は、この家には住まぬ。
志春が、我が家に帰り着くまで、邪魔立てすることは、かなわぬと心得よ。」
と神様は、ホームページを見ている父さんと、父さんの奥さんに言った。
父さんと、父さんの奥さんには、神様の声は聞こえない。
「和風のアバターか。」
と父さん。
「イラストを売るために、アバターに力を入れたのね。」
と父さんの奥さん。
「さて、志春は、この家から出ていくがよい。
志春が、我が家に帰り着くまで、こやつらは何も出来ぬように見張ってやろう。
スマホは、このままにしておくとよい。」
と神様。
「分かった。神様、また、我が家で。」
俺は、神様の言葉に背中を押してもらい、交通費を確認しようと、ズボンのポケットに入れている財布を確認した。
俺の財布に入っていたお札は、一枚もない。
お風呂に入っている間に、抜かれた?
タイミングよく、男物の財布が、棚から落ちてきた。
「財布に触るな!」
と父さんは俺に怒鳴る。
父さんは、父さんの奥さんとスマホを見ている場所から動かない。
動けないんだ。
神様が、父さんと父さんの奥さんを動けなくしてくれている!
「父さん、俺の財布から、俺のお金を盗んだよね?
俺のお金は返してもらう。
それと、俺が安全に生活できる場所に行くための交通費は、もらっていく。」
父さんに財布を奪い返される、と、身構えた俺は、父さんに殴られる心配はないと察したので、落ち着いて、言い返すことができた。
俺は、棚から落ちてきた財布から、俺の財布にお金を移す。
「志春の父親よ。
この家と志春の縁は切れた。
志春は、この家には戻らぬ。
志春は、志春の帰りたい家に帰る。」
という神様の声を聞きながら、俺は、父さんと父さんの奥さんに背を向けて、歩き出す。
俺は、帰るんだ、神様と過ごした我が家へ。
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