40.父さんの奥さんが、笑いながら差し出してきたのは、かじるには固すぎる古い食パン、父さんの奥さんのスマホ。神様に会える!神様、助けて!
朝、起きたら、やっぱり体中が痛い。
動こうとすると、痛みで、顔が歪む。
動作を中断することを繰り返しながら、俺は、朝食をとりたくて、父さんと父さんの奥さんを探しにいった。
動くためには、エネルギーがいる。
何か、食べないと。
台所に行くと、父さんの奥さんがいた。
父さんは、見当たらない。
俺は、おはようございます、と、父さんの奥さんに挨拶する。
何しに来た?と聞かれる前に、朝ご飯が食べたいと、父さんの奥さんに伝えた。
父さんの奥さんは、笑いながら、賞味期限が一週間以上前に切れている食パンを、俺に出してきた。
食パンなのに、ふんわりしていない。
白い部分が、フランスパンみたいに、カチコチになっている。
父さんの奥さんの笑い方は自然で、意地悪そうには、全然見えない。
父さんの奥さんの意図が分からない。
俺から働きかけよう。
俺は、一つ一つ、意思表示をしていくことにした。
「食パンは、トースターで、焼きたいです。
トースターは、ありますか?
飲み物を飲むためのコップも貸してください。」
父さんの奥さんは、ぶっと吹き出した。
「食パンは、そのままで、十分でしょ。
志春くんなら、その食パンを食べられるわ。
コップで飲みたいなんて、贅沢よ?
志春くんが使ってもいいコップがあると思う?
志春くんは、注文ばかり一人前になったわね。」
と、父さんの奥さんは、朗らかに笑う。
昨日の夜、親切にしてくれた、父さんの奥さんは、もういない?
俺は、水道水が出てくる蛇口から、直接水を飲んだ。
俺が手で水をすくっても、父さんの奥さんが、濡れた手を拭くタオルを貸してくれるとは思えなかった。
水道水を飲む経験をしておいて良かった。
喉が乾いていたから、ごくごく飲める水があって、嬉しい。
父さんの新居が、上水道の通っている家で良かった。
「父さんは、どこですか?」
「仕事に行ったわよ。」
と父さんの奥さん。
父さんが、俺の仕事部屋を作って、閉じ込めようとしたのは、父さんが仕事でいない間、父さんの奥さんが、俺と家にいることを嫌がったから、とか?
「父さんは、家で仕事をしているわけじゃないんですか?」
俺の小学生時代、父さんは、会社を経営していたと思う。
『社長』と呼ばれていた。
今は?
「志春くんは、お父さんの仕事はしないんでしょ?
志春くんには、お父さんがどこにいようと関係ないわよね?」
と朗らかに話す父さんの奥さん。
話をそらされている?
「俺を連れてきたのは、父さんなので、話をしたいんですが、父さんの帰りはいつですか?」
「遅いわよ。夜中になるわね。」
と父さんの奥さん。
「そうですか。」
俺は、考えた。
昨日の寒い仕事部屋で、今日も再びパソコンに向き合う方が、神様に会える可能性が高くなるなら、寒い仕事部屋に毛布と布団を持ち込むけど。
一晩経って、冷静になった。
昨日の寒い仕事部屋で、神様に会うのは難しい。
インターネットを使える環境として、昨日の寒い仕事部屋は決して良いものじゃない。
今日は、別のもので試したい。
俺が黙って考え込んでいると。
「ねえねえ。何を考えているのか、お姉さんに教えてよ。」
と、父さんの奥さんは、急に馴れ馴れしくなった。
「ネットが出来る場所はある?」
「第一声が、ネットしたいって?何にハマっているの?そんなに面白いの?」
と父さんの奥さん。
「面白いというより、毎日見ていたい。」
「ええ、重症!どんな面白いものがあるの?」
と父さんの奥さん。
「神様がいる。毎日、ネットで神様に会える。」
「志春くんねえ、妄想を真面目に話されたら、気持ち悪いんだけど?
話を聞いている人の身にもなれば?」
と、父さんの奥さんは、笑いながら、俺を貶してくる。
父さんの奥さんは、声が聞こえなかったら、俺を貶しているとは到底思えないくらいの、人好きのする笑顔を俺に向けてくる。
「ネットでなら、神様に会えるんだ。」
「そこまで言うなら、志春くんの神様に会わせてよ。」
と父さんの奥さん。
俺は、父さんの奥さんが、神様に何かするんじゃないか、と警戒した。
父さんの奥さんは、信用してはいけない気がする。
母さんが、父さんの近くにいることを嫌がった理由は、三角関係だけじゃないかも。
「なんで?関係ないのに?」
俺は、父さんの奥さんに、関係ない返しをした。
「志春くんて、可愛げがない、と言われない?」
と父さんの奥さん。
「知らない。わざわざ、俺に向かって、可愛げが、とか言ってくる人なんて、いない。」
「ふーん。まあ、いいわ。志春くんは、ネットの禁断症状あるんでしょ?」
と父さんの奥さん。
「禁断症状?」
考えたことがなかった。
「ネットしたいんでしょ?
させてあげる。」
と父さんの奥さん。
「俺のスマホは、父さんが持っている。」
「志春くんのは使えないね?残念だよね?」
と父さんの奥さんは、また、からかってくる。
何が言いたい?
期待していたから、腹が立つ。
「お姉さんのスマホを使ってみたら?」
と父さんの奥さんは、ロックを外したスマホを俺に渡した。
渡されたスマホの電波状態を確認。
ネットができる!
俺は、急いで、ネットショップ〈神棚〉のホームページにアクセスした。
嬉しい。やっとだ!
早く、早く、と気が急く。
アクセスできた!
ああ、神様がいる!
神様は、鞠を持って新体操をしていた。
「神様!俺!会いたかった。やっと会えた!」
鞠を腕に乗せて、コロコロ移動させる神様。
「志春がいるのは、父親の家か?くたびれて、どうした?」
と神様。
「神様、俺、父さんの家で、父さんに無理やり働かされそうになっているんだ。
俺、神様と住んでいた我が家に帰りたい。
俺は神様と仕事をするんだ。
父さんとは、仕事したくない。」
俺は、破裂しそうな気持ちを言葉にして神様に伝えた。
そういえば。
俺は、父さんの奥さんに、スマホを貸してもらったお礼を言っていなかった、と気づいた。
意地悪されたけど、スマホは借りたから、父さんの奥さんにお礼を伝えようと、俺は、スマホから顔をあげた。
そのとき。
父さんの奥さんは、急に、俺から後じさった。
え?何かあった?
俺は、周りを見回す。
父さんが、ダイニングキッチンに入ってこようとしているのが見えた。
父さんの奥さんは、父さんから、逃げた?
なんで?
父さんと父さんの奥さんは仲良しじゃない?
俺は、父さんの奥さんに渡されたスマホを手に、父さんの奥さんに急いで歩みよる。
すると。
父さんの奥さんは、突然叫びだした。
「いやあ、やめて、こないで!
志春くんの恩知らず。
優しくしてあげたら、調子に乗るなんて、最低!
助けて!
ネット中毒の志春くんは、私のスマホを取り上げたの!」
スマホは、父さんの奥さんが貸してくれたのに、なんで?
父さんが、大股で部屋に入ってきた。
俺は、スマホを離すまい、と両手で持つ。
やっと神様と会えたスマホを取り上げられる?
怖い!
また、父さんに殴られるのは、嫌だ!
「神様、助けて。
父さんに殴られたくない。もう、痛いのも、寒いのも、怖いのも嫌だ!」
俺は、スマホの画面越しに、ネットショップ〈神棚〉のホームページにいる神様に、無我夢中で叫んだ。
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